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管理局と魔術師
†††Sideシャルロッテ†††


「あ~、くそ」

となりに立つクロノが、ルシルの複製術式・海水の蛇を見てそう呟く。

(全く、たとえルシルの固有魔術が制限されているからって、こんなデタラメな複製術式が使えるんだったら卑怯じゃない)

私は心の中でルシルに対する制限内容に愚痴を零す。
そこまで来ている海水の蛇を、先に受けたダメージの所為でどうすることも出来ない私はルシルを睨みながら、あと少しで私たちを襲うであろう痛みに耐えるために覚悟を決める。
そして私とクロノの眼前に迫った瞬間、海水の蛇は形を崩して単なる水の塊となった。

「うわっ!」

「ちょっ、待って!」

とんでもない水流に押し流される私とクロノ。
なのはとユーノはギリギリ範囲外だったので、溺死なんて最悪の結果にはならなかった。

「・・・・もう! 何よこれ!? ふざけるなーーー!!」

私は海草塗れになりながらも、なんとか生きていた、が、ムカツク!
最後の最後で手を抜かれた気分だ。いや、実際そうなのか。

「ひ、酷い目に遭った。一体なんだったんだ、あれは!?」

クロノは頭にカニを乗せながら叫んでいる。クス、何アレ?
周囲を見渡すと私たち以外は無人。すでにルシルの姿はどこにもなかった。

「逃げられたか・・・?」

クロノが真剣な顔をして虚空を見つめてそう言っている。
それより、いい加減頭のカニを取りなさい。
いや、そんなことよりなのはとユーノが大事だ。
私は体に巻きついている海草を剥ぎ取りながら、なのはたちのもとへと駆ける。

「なのは! ユーノ!」

倒れている二人のそばに屈み、急いで二人の状態を確認する。

(どうやらただ単に気を失っているだけみたいね・・・)

良かった、本当に・・・良かった。

「う・・・ん、シ、シャルちゃん?」

「なのは、大丈夫? どこか痛いところとかない?」

「・・・うん、大丈夫。少し体が痛むくらいだから」

なのははそう言って立ち上がる。ユーノの方も目を覚ましたようだ。

「あ、あれ? 僕たち一体どうなって・・・?」

ルシルの術式発動直後から記憶がとんでいるみたいだ。
まぁその方が良いだろう。下手に思い出させて恐怖を抱かせることはしたくない。

「どうやらみんな無事のようだな。改めて、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」

「あ、はい。私は高町なのはです。えっと・・・頭の上のカニさんは何なんですか?」

なのはが自己紹介とともに、クロノの頭を指してそう言う。

「カニ? !! うわっ、と・・・・・コホン! 何でもない、気にするな」

クロノがカニを掃って、わざとらしく堰をする。
というか気付いていなかったの!? 脚とか頭に突き刺さっていそうだったから気付いているのかと。

「え~と、僕はユーノ・スクライアです」

ユーノが今のクロノを無視して名乗る。

「スクライア? 君がそうか。ジュエルシードのことに関してはスクライア一族からすでに話を聞いている」

「そ、そうですか。やっぱり・・・」

ユーノがそれを聞いて、表情が少し曇る。

「そして君は? ずいぶんと僕をいいようにしてくれたが・・・」

「そんなに睨まないでよ、あの状況だとああするしかなったの。あなたも分かるでしょ?」

クロノが押し黙る。それなり分かってもらえたようだ。
少し不機嫌そうだけど。とりあえずは私も自己紹介をしておきましょうか。

「私はシャルロッテ・フライハイト。
みんなにはシャルと呼ぶように言ってるから、あなたもそう呼んで」

「わかった。シャルでいいんだな。僕のこともクロノと呼んでもらって構わない」

『クロノ、お疲れ様。怪我は無いようね、安心したわ』

うわっと!?
え? 何これ? 空中に魔法陣が現れたと思ったら女性の顔が?
驚きで目が点になってしまったが、冷静になると仕組みがわかった。
なるほど。一種のモニターのようなものか。

「あ、はい。すいません、もう一組の方を逃がしてしまいました」

クロノが映し出されている女性に謝る。
どうやらクロノの上司みたいだ。それにしては若いなぁ、いくつだろ?

「んん、ま、大丈夫よ。でね、ちょっと話を聞きたいから、そっちの子達をアースラまで案内してあげてくれるかしら」

女性が私たちをアースラってところへと連れてくるように言っている。

「了解です、すぐに戻ります」

イヤイヤイヤイヤイヤ、勝手に了解しないで!
私たちの意思は初めから無視ですか?

「ちょっと待って。私たちの意思は無視なの?」

これは黙っていられない。

「ん? 悪いが事情を聞きたいんだ。
おとなしくついて来てもらえると助かるんだが・・・」

「シャル、管理局が来たからには・・・」

ユーノが私に向かってクロノに従えと言外に言ってきた。
ああもう、分かったからそんな目で見ない!
 
「わかった、一つ聞いておきたいんだけど」

今の私にとても重要な質問がある。

「何かな?」

「アースラってこの世界内にあるの?」

そう、これだけはハッキリさせておかないといけない。
この世界に呼び出された以上は、許可なくこの世界を出るとどうなってしまうのか分からないからだ。

「いや。高時空内にあるんだが?」

案の定、この世界の内にはなかった。なら、私がすることは


≪第三の力、剣戟の極致に至りし者シャルロッテより界律へ

緊急の事態により 契約世界“地球”より一時離脱します

ゆえに離脱の許可を申請します≫


“界律”と精神接続(リンク)して、私を召喚した世界からの離脱許可を取っておかないと何をされるか分かったものじゃない。


――界律より第三の力、剣戟の極致に至りし者シャルロッテへ返答

一時的による離脱の申請を許可する

しかし長期間の離脱は不可とする――


あっさり通された。少し拍子抜けしたけれど、許可が下りたのなら大丈夫だろう。

「なんでもない。エスコートよろしく、クロノ執務官」

こうして私たちはアースラへと向かった。


†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††


「・・・フェイト・・・?」

前を行くフェイトに、何度目かの呼びかけ。
しかしフェイトは俺に振り返ることも無く「・・・」と無言を貫き、ズンズンと歩いていく。
無視・・・ですか、そうですか・・・何故ですか?

『アルフ、なにかフェイトが怖いんだけど』

公園では普通に接してくれていたというのに、帰ってくると無視を決め込み始めた。
今のフェイトが纏っている雰囲気に軽く恐怖しながら、アルフに助けを求める。

『・・・やっぱり一人で封印に向かったのが原因じゃないかい?』

アルフも、今のフェイトに若干恐れを抱いているみたいだ。

『いや、それは・・・仕方がないことだと思うんだけど・・・』

フェイトの為だと思っての行為が、逆にフェイトを不機嫌にさせる、か
『なにか理不尽だ』と肩を落とす。不条理、理不尽、いかに納得のいかないことをここ数千年と繰り返してきて、慣れてきていた。
だからいつもの俺ならどうとも思わないはずだが、フェイトにこういう態度を取られると少し傷つく。

『まぁ、その・・・謝れば?』

『・・・・・何を?』

『勝手に封印に向かってごめんなさいってさ』

本当に理不尽だ。だが、この空気に耐えるのもそろそろ限界だ。
ここは俺が折れるべきなのだろう。

「・・・・フェイト、勝手にジュエルシードの封印に行ってごめん。
言い訳を言わしてもらうなら、フェイトの為だったんだ」

自分の部屋に入ろうとしていたフェイトへ、真摯に謝罪を告げる。
するとフェイトがようやく反応してくれた。俺の方へと向き直る。
しかし未だに不機嫌そうな表情をしている。フェイトは両手を重ねて胸の上へともっていく。

「私のため・・・それはすごく嬉しい。けど、でもやっぱり一緒に行きたかった。
今回はルシル一人でもなんとかなったけど、前みたいな酷い怪我をするかもしれないんだよ? 
そうなったら私たちはどうすればいいの?」

フェイトが目の端に涙を浮かべて、そう訴えてくる。
まずい、子供に泣かれるのは今も昔も苦手なんだ。

「私たちは仲間なんだよ、だから一人でやろうとしないで」

「ごめん、ごめんフェイト。これからは気をつける」

フェイトの頭を撫でながら、心の底から謝る。
ようやくフェイトは俺に笑顔を向けてくれた。

「約束だよ、ルシル」

「ああ、約束だ」

お互い微笑みながらの約束・・・アルフ、何を頷きながら泣いている?
あぁ、感動しているのか。涙もろいな、君は。と、さて、ここからは俺の質問タイムだ。

「話は変わるが、フェイト、アルフ、時空管理局とは何だ?」

それから少しの時間、フェイトたちから時空管理局の説明をしてもらった。
幾多もある次元に点在する、いくつもの世界を一手に管理する組織。
“ジュエルシード”のような古代遺産の捜索・管理、世界を渡る犯罪者の逮捕や裁判なども、時空管理局が行っているようだ。
まるで一極支配。だがまぁそういう組織があるからこそ、今の安定した世界があるらしい。
それにしても、なるほど次元世界・・・か。実に懐かしい響きだ。


†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††


私たちが案内されたのは、次空航行艦というものらしいアースラ。
なのはが念話で、ユーノから説明されているのを私も聞いていた。

(それにしても次元世界だなんて・・・これも縁というものかしら?)

懐かしい単語を耳にして、軽く余韻に浸っていると、

「あぁ、いつまでもその格好というのも窮屈だろう。
バリアジャケットとデバイスは解除しても平気だよ」

とクロノが言うので、なのはがそれらを解除した。
今回、私は戦闘甲冑を身に纏っていないので私服のままだ。

(それにしても、よく私服でルシルの術式に耐えられたな~)

魔術師は、戦闘甲冑を具現化させなくても常に不可視の魔力の障壁で身を守っている。
だから私服ままでもそれなりの防御力を持っているのだけど、ルシルの複製術式にはあまり効果がないはず。

(だというのに、あれだけで済んだ。界律が何らかの干渉をして、ダメージ補正かけているみたいね)

本当に何を企んでいるのか。本気で私にルシルを殺させる気だろうか。
いや、ルシルはすでに非殺傷設定を取り込んでいるはず、だからこの結果?
ちょっと待て、ダメージ補正があるのも事実、う~ん・・・。
私が必死に考え事をしていると

「君も元の姿に戻ってもいいんじゃないか?」

クロノがユーノに向けて、そう口にする。
元の姿・・・やっぱり、ただのフェレットではないわけね。
まぁ当然か、スクライア一族というのが本当にフェレット一族なら、そんな彼らが集団で遺跡発掘なんてシュール・・・あ、可愛いかも。

「ああ、そういえばそうですね。ずっとこの姿だから忘れてました」

ユーノの体が発光して・・・現れたのはなかなかの美少年。
ふ~ん、それが本来の姿ね~。

「ふぅ、なのはにこの姿を見せるのは久しぶりかもね」

ユーノの言葉となのはの表情、もしかしてこれは・・・

「ふえぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

やっぱり、なのははユーノのこの姿を見たことがないようだ。

「えっと・・・なのは?」

「え!? なんで!? ユーノ君って!? ユーノ君って!? えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?」

なのは、それは驚きすぎ。
それよりあなたの声、この艦に響き渡っているんじゃないの?
私は、なのはとユーノから完全に意識を逸らし、クロノへ声をかける。

「あの二人は放っておいて早く案内してくれる?」

あの二人はもう互いの記憶の齟齬を確認し、微妙だが納得しているようだ。

「あ、ああ、こっちだ。君たちも早くついてきてくれ」

「「あ、はい」」

さて、どのような話が聞けるのか楽しみだ。


†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††


今までいろんなことに驚いてきたけど、まさかユーノ君が人間の男の子だったなんて思いもしなかった。
それにしても、シャルちゃんは全く驚いていない感じだった。

(もしかしてシャルちゃん、ユーノ君が人間だったことを知っていたのかな?)

もしそうなら何で教えてくれなかったのかな?
私はクロノ君に案内されながら、チラッとユーノ君を見る。

(私と同い年くらい・・・かな?)

何度も見ていたので、同じように私を見ていたユーノ君と目が合ってしまった。
すぐさま視線を前方へと戻す。
何だろう、すごく気まずい感じになってしまった。

「ここだ。艦長、彼女たちを連れてきました」

クロノ君が、扉が自動で開いた部屋へと入っていった。


†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††


クロノに案内され、たどり着いた部屋へとクロノを先頭として入る。
目の前に広がったのは、以前本で見たことのある確かノダテとかいうものに似た空間だった。
何か合わない。もしかして、この国の習慣みたいなのを勘違いして用意した・・・のかもしれない。

「お疲れ様、クロノ。初めまして、このアースラの艦長をしていますリンディ・ハラオウンです。
わざわざこのような場所まで来てもらってごめんなさいね」

この部屋の主である女性、リンディ艦長がそう口にした。
第一印象としてはまぁ良い。部下への労いの言葉と、私たちに対する謝罪の言葉をきちんと口にしたのだから悪い人ではないようだ。
そこから先は、私やなのはの自己紹介を初めとし、ロストロギアや次元震、次元断層の説明を聞いた。

(次元断層ねぇ。それってラグナロクに少し似ているかも)

ラグナロク。正式名称を対時空間殲滅級攻性魔術と言い、それは禁呪の一つにして原初王オーディンが原初魔術ルーンと共に生み出してしまった最古の術式だ。
時空間を無視した一方的な破壊の限りを尽くす最凶の魔術。

(確かにラグナロクの威力には及ばないけど、世界が滅びる可能性があるなら私たちのような抑止力が召喚されてもおかしくはない、か)

全く、“界律”もさっさと“ジュエルシード”を片付けろって命令を下せば、瞬時にこの件を終わらせるというのに何をしているんだか。
深く思考に耽っていたので、私を除く四人の会話をほとんど聞き逃していた。
唯一分かったのが、

「これより、ロストロギア“ジュエルシード”の回収については、時空管理局が全権を持ちます」

というリンディ艦長の言葉だった。
まぁ当然な話だ。こちらは単なる発掘者に魔法が使える一般人、私は・・・ただの協力者といった位置づけだ。
そして向こうはこういったことのプロフェッショナル。
プロと素人では探索能力も違うし、何より組織で動くプロだ。
このまま管理局に任せたほうが早く済むだろう。
それに正直な話、例えなのはがここで降りても、私はそれで良いと思ってる。
だが、二人は納得していないだろう。
ユーノは発掘者と“ジュエルシード”をこの世界にばら撒いてしまった責任から、なのははフェイトのこと、そして彼女の性格からしての思いから。

「君たちは今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」

さすがにそれは無理だ。ここまで関わってしまうと、もう元通りには戻れない。
なのはがクロノに食い下がる。やはり諦めきれないみたいだ。

「次元干渉に関わる事件だ、民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」

「でも!」

「まあ、急に言われても気持ちの整理もできないでしょう。
今晩ゆっくり三人で話し合って、それから改めてお話ししましょう」

リンディ艦長がなのはにそんなことを言った。
それは明らかになのはたちを、管理局側へ協力させるために誘導する発言。

(それも仕方ない、か。相手にはかなり腕の立つ魔導師フェイト、使い魔アルフ、そしてルシルがいる。
ここで私たちをこの件から手を引かせれば、戦力となるのはクロノだけになる)

あの三人を一人で相手をするなんて正直辛いに決まっている。
だからこそ戦力が欲しい、とリンディ艦長は考えたのだろう。
しかし、一般人に協力要請なんてそう簡単に出来るものじゃない。
それゆえの先の発言だ。

世界の危機なんて話を聞いた後に一晩の考える時間、こんなものを用意されては考える話は一つ、結論もまた一つとなってしまう。
なのはとユーノの自発的による協力の申し出。それが狙いなのだろう。
人の上に立つならそれくらいは当たり前だと私は思う(私はしたくないが)。
この誘いに乗るのも悪くはない、というよりそれしかない。
なのはは兎も角、私は嫌でも“ジュエルシード”に関わらないといけない。

「お心遣いはありがたいですが、このまま引き下がるわけにもいきません。
ですので、私たちはそちらに協力させてもらいます」

「な!?」

「「え!?」」

「・・・」

リンディ艦長を除く三人が私の発言に驚いている。

「シャル!? 君は何を言って・・・」

クロノの発言を強い視線で無理矢理止めさせる。

「なら聞くけど、私たちがこの件から引いた後の戦力はどうするの?
今まではなのはとユーノ、私で何とかあの三人と渡り合ってきた。
それが今からはクロノ一人、でもないかもしれないけど、それって結構辛いんじゃない? 
今日は実際ゼフィに負けたしね。これからもあんな常軌を逸したゼフィを相手に、一人で戦いたいっていうなら仕方ないのだけどね」

「な! そ、それは・・・しかし・・!」

言いよどむクロノ。ルシル(ゼフィ)の強さを思い出してもまだ迷っているようだ。
ゼフィとまともに戦いあえるのは、この世界だと私しかいないだろう。

「それになのはとユーノも納得してないでしょ?」
 
二人に視線を向け、言外に自分の気持ちを告げろと言った。

「わ、私もこのまま終わるのなんて嫌です!」

「僕も最後まで自分の責任を貫きたいです!」

二人はハッキリと自分の気持ちを伝えた。
初めから協力させようとしていたリンディ艦長がこれを断るわけがない。

「・・・シャルロッテさんの言う通りなのは違いありません。
クロノ一人ではあの黒い子達には勝てないのも確か。
わかりました。こちらからも協力をお願いします」

「か、かあさ――艦長!?」

決まった。これで途中退場はなくなった。

「なのは、ユーノ、やったね」

「「うん!」」

もう、そんなに嬉しそうな顔をして。

「ですが、条件が二つあります。三名とも身柄を一時、時空管理局の預かりとすること、そしてこちらの指示を守ること、良くって?」

(それくらいなら大したことはないはずだ。万が一のときは破ってしまえいいか)

この世界に来てからは、自分の思考がおかしくなっているのが分かる。
おそらく環境がそうさせているのだろう、と思いたい。

「それでいい? なのは、ユーノ」

「あ、うん。私はそれでいいです」

「僕も」

「決まり。これで協定は成立ということで。
こちらはそれで構いません、リンディ艦長、クロノ執務官」

リンディ艦長とクロノに、承諾の意思を告げる。
クロノは渋々認めた感があるが、リンディ艦長は満足そうな表情をしている。

「仕方ない、君の言うとおり彼の強さは異常だ。
黒い少女の強さは良く分からないが、彼らと戦えるほどの実力を持っているのは、アースラで僕一人だからね。
戦力が上がるならそれに越したことはない。それに見たこともない魔法、なのか?
魔法陣は出なかったし、デバイスらしきものも持ってはいなかった彼には必要以上に気をつけなければならない」

「ええ、そのことに関してはこちらでも調査しています。
ですから、あなたたちも気付いたことがあれば教えてください」

まぁそうだよね、魔法ではなく魔術なんだからわからないのも当然。
というか、私も魔術を使ってたんだけど、忘れられてない?

『ねぇシャル、この人たちに魔術のことを教えないの?』

とユーノが念話を通して言ってくるが、どうしようか?

『教えるくらいなら問題はないよ、ね』

以前召喚された世界では、魔術は秘匿するものとされていたけれど、私たちには関係のない話だ。
よし。今後も管理局と関わりあう予感がするし、先にカードを切っておいて良い関係を築いておこう。

「あれは魔法ではなく魔術、この世界に於ける魔法体系みたいなものです」

「「な・・・っ!?」」

うんうん、案の定二人は驚いている。

「な、馬鹿な!? この世界には魔法技術は存在していないはずだ!?」

大きな声で私に怒鳴るクロノ。女の子にそれはないんじゃないかしら?
少しムッとしていると、リンディさんがクロノを手で制して黙らせ、「シャルロッテさん、詳しくお話を聞かせてもらっても?」と動揺を隠して訊ねてきた。
さすがは艦長の肩書きを持つ女性(ひと)だ。
動揺を顔には出さずに、情報の提供を求めてくる。

「いつ魔法体系の有無を調査したかは知りませんが、魔術はすでに滅んでいる技術です。
ですからそちらが知らなかったというのもわかります。
ですが稀にその技術を扱える者、魔術師がいます。実際に私もそうですし、ね」

とびっきりの笑顔でクロノを見る。フフ、顔を紅くして可愛らしいものだ。
さっきの仕返しよ? 女の子に怒鳴るなんて、少しは紳士らしさを学びなさい。

「・・・・なるほど、そうですか。確かにあなたの使っていた魔法、いえ魔術はこちらでも確認しています」

「信じるしかない、か。僕たちの使う魔法とは違うのなら、あのデタラメさにも納得がいく」

わかってくれたのならこれでいいか。ううん、そうなるように定めらているのだから。
なのははさっきから置いてけぼりをくらって、暇そうにしている。
ごめん、もう少し我慢して。

「ならもう少し詳しく教えてもらえないか?
彼と戦うときに、少しでも彼の手の内を知っておきたい。
魔術師がどのような事を出来るのかが分かれば対策が立てれるからね」

「実際戦うのは同じ魔術師の私になると思うけど、知っておいても損はないからいいわ。
やれることは魔法と大して変わらない。大まかな種類としては、攻性、防性、結界、補助、儀式、禁呪の六つがある。
禁呪以外はそちらと差はないかな。それに禁呪は誰も使えないし、使わないからどんなのかは知らなくても大丈夫」

リンディ艦長とクロノは、頭の中で反芻しているのか軽く頷く。
少し間をおいて続きを話す。

「そして魔術師にはリンカーコアとは違う魔力炉、私たちはシステムと呼んでいる器官で魔力の生成、同時に外から魔力を取り入れて融合、必要な分だけを使っているの。残りはそのまま溜め込むんだけど」

難しい顔をしているリンディ艦長、クロノとは別になのはが面白い顔をしている。
なにか頭の上から湯気のようなモノがシューシューと出ているのが幻視できる。

『えっと、なのは、無理して覚える必要はないから』

『う、うん』

念話でなのはに、覚えなくて良いと言っておく。
知恵熱でも出されて倒れられたら面倒だ。すでに手遅れのような気もするけど。

「大体はわかった。少し質問があるんだがいいか?」

クロノが真剣な顔で聞いてくるので、「どうぞ」と応じる。

「まずは一つ目。君もそうだが、電気や炎熱と風?みたいな変換は?
あそこまで色々なことが出来るとは正直思えないんだが?」
 
ふむ、属性のことを聞いてるみたい。

「ユーノからも以前聞いたけど、あれは魔力変換資質とは違う。
属性と言って、個人が生まれながらに持つ特性みたいなもの、かな。
閃光、闇黒、炎熱、氷雪、風嵐、雷撃、土石、無属性の八つがあるの。
普通は一つから二つね。でも極稀に全てを有する魔術師もいる。
私もその一人で、ほとんどの属性を操れる」

「属性、か。じゃあ彼も君のように複数の属性を操れると思っても?」

「いいでしょうね、確信は持てないけど」

私はすべての属性を扱え、ルシルもまたすべての属性は扱える。
でもここではルシルも全属性を扱えるなんて言えない。
断言すれば、私とルシルの関係に気付かれる可能性があるからだ。
どの道、追々バレていくだろうから、その都度話せばいいだろう。

「じゃあ、二つ目。君たちが使っている武器のことだ。
妙な魔力を感じるし、突如現れたり消えたりとしているが?」

これはどうしようか?
神器、特に神造兵装や魔造兵装なんて、神様や魔族が創った物です、なんて言っても信じるわけがない。
ならもう一つの説明をするのがいいだろう。

「あれは概念兵装と言って、魔術師が魔力と術式を籠めて作った物。
出たり消えたりするのは、術者が自分の魔力で分解したそれを、魔力炉(システム)に取り込んでいるから、いつでも具現化できるというわけ。
個人の容量にもよるけど、多くて四つまでは取り込める」

「恐ろしいな、魔術師はそんなことまで出来るのか」

クロノが私を見て「こいつコワッ」みたいな目を向けてくる。失礼な。

「・・・三つ目だ。彼が桃色の閃光を撃った時、ユーノが何故なのはの魔法を使えるのか?と驚いていたが?」

「あ! それは私も思ったよ!」

「そうだよ! あれはなのはが組んだ魔法だ! 別の人間がそう簡単に扱えるなんて!」

三種三様の驚き、でもあれは砲撃という魔法なんでしょ?
知識があれば使えると思うけど、まぁいいか。

「そうね、おそらく固有能力の力じゃないかしら。
あ、固有能力っていうのは、属性と同じように先天性、生まれつきその者が有するものね」

「つまりは稀少技能(レアスキル)のようなものと思ってもいいんだな?」

「あながちそれでも間違いじゃないと思う」

レアスキルに関しては、以前ユーノから聞いた時にそう思ったから、それでいいと応えておく。

「君も何か能力があるのか?」

「ん? 私は持ってない。能力だなんて本当に珍しいと言われたし」

大戦時には、私が知ってるだけでも10人未満だったしね。

「そうか。ならこれで最後だ。魔術師は後何人いる?
そしてそれらを管理している組織は残っているのか?」

確かに重要な疑問ね。下手をすれば、他のルシルクラスが敵になるとでも思っているのか。

「さっきも言ったとおり、魔術はもう滅んでいる。
私の家族も使えないし、知っているのはゼフィだけ。
当然組織も存在していないのは確認済み」

生前の家族も、この世界に用意された偽りの家族も魔術を使えなかったのは本当だ。
だから魔術を使える私を、あそこまで・・・・いや、忘れよう。
それに、この世界に初めから魔術なんて存在していない。

「わかった、ありがとう。やはり彼の相手は、君に任せることになるだろう」

「ええ、初めからそのつもりだから、気にしないで」

その後、リンディ艦長がアースラスタッフとの顔合わせとして、自己紹介と協力云々の話をしてから、一度お開きとなった。

そうそう、エイミィというオペレーターは敵に回すと、危険だと本能が訴えていたことを、此処に追記しとく。


今回はシャルと管理局の話を書かせていただきました。

ついでに魔術師のいろいろを説明しましたね。
というこで、例の設定紹介に行きます。

魔術:
魔力を持っているのであれば誰でも扱える力。
どの世界でも共通の魔術で、攻性、防性、補助、結界、儀式、禁呪がある。

固有魔術:
その魔術師が独自に組んだオリジナルの術式。
世間一般に使用される魔術とは違い、組んだ魔術師だけしか扱えない術式。

属性 :
先天性で、魂に刻まれたその者を表す力。種類としては、閃光系、闇黒系、炎熱系、氷雪系、風嵐系、雷撃系、土石系、無属性の八つで、無属性には重力、操作、幻影、音波などが存在する。一人につき最大で二つまで持つが、たまに全ての属性を操る魔術師もいる。

固有能力:
生まれつきその者が使用できる特別な能力のこと。空間魔術を術式なしで発現できる空間干渉、超長距離を見渡せる千里眼、未来を高確率で当てる予知などの多くの種類があるものの、固有能力者は何千万人に数人という確率でしか誕生しない。

神器:
神や精霊が創造した“神造兵装”、 魔族によって創造された“魔造兵装”、特別な製法で魔術師がその物品に術式を編みこんで創造した“概念兵装”の三つを総称して神器という。


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