スニーカーという都市
今回は説明会になってしまいました。
森から出て辺りが更地になった道を進んでいくと、どこの国の所属なのかはわからないが立派な都市に着いた。
目的の宝玉についての情報を得るためにぜひ入ってみたい、と思っていた。
が、入れない。
入るために身元確認をするらしいが、それが1週間前から厳重になってかなりの時間がかかっているらしい。
「俺のせいじゃん。完全に俺のせいじゃん!」
1週間前と言ったら俺が魔王になった時だ。
なんでもその日はこの星全体に黒い風が吹いて、体調不良やストレス障害になった人が大勢いたらしい。
それらは総じて魔王病と呼ばれるらしい。
「俺は病気か何かか。」
さすがに魔王が恐れられてると言われても、病気扱いはひどい。
そして、魔王病が一斉発症した次の日から魔王の復活が各国から発表されてこの厳重な身元確認が行われてるらしい。
「さて、どうしよう。」
他の都市に行ってもこのようなことになっているのだろう。
他の都市に行くという選択肢は消える。
「早く、認識阻害の魔法がほしい。光魔法で光学迷彩とかできないかな。」
と、地球でできていなかったものをやろうとしてもできるわけない。
第一、どんなロジックで光学迷彩ができるのか全く知らない。
「攻◯機動隊ちゃんと見りゃ良かった。」
あえなく光学迷彩化は消え去る。
「【覇気】みたいに魔法に分類されないものだったら良かったのに…。」
【覇気】、【身体強化】などは魔法ではない。
純粋なスキルだ。
呼吸と同じように使うことができる。
魔法はある程度理論を知らないと発動しないし、MPの消費も膨大になってしまうらしい。
だから、いつか化学で教えたことがあんな火災旋風並みの火柱を作らせてしまったのだ。
「あれ、俺【ワームホール】とか使ってたな。どうやって使ったんだ?」
魔法は合理的であるが、それと同時に本当に純粋な願いだ。
あの時の俺はとにかくシンジを遠くに飛ばしたかった。
その強い願いを女神達は叶えてくれたんだろう。
という風にこじつけ納得するが、今は光学迷彩のことだ。
「まぁ、ないものはないからな。いっそ、門番を殺せばいいのか?」
《それはダメですよ!殺すのは復讐相手だけだって私は教えましたよ!》
また、リンダが隣にいた。
俺はリンダが現れるタイミングがわからない、と思い込んでみる。
《ツカサくんの意識がこちらに向いたら出てこれるんですよ。さっきは魔王病で軽くショック状態になってしまったから私から意識が外れて見えなくなったんですよ。わかってるでしょ?》
「わかってるよ。」
自分の事なんだから。
ただ、言わせたかっただけだ。
《それと殺すのはなしですよ。》
「それもわかってるよ。」
はぁ、どうしようか。
こういうのはだいたい金で解決できる気がするけど、ある意味賭けになる。
「でも、やってみる価値はあるな。」
金は魔国で働いていた分がかなりある。
おそらく、ここで並んでいる人たちよりも。
「とりあえず並ぶか。」
ざっと見て100人は並んでいる列の最後尾に並ぶ。
前に並んでいるのは犬耳と犬シッポが生えた獣人だった。
今更ながら、獣人に驚きと感動を覚える。
中に入れないのと魔王病とかの衝撃のせいで頭がそちらに回らなかったのだ。
さらに前を見ると猫耳やウサギ耳が目に入ってくる。
「やっぱり異世界だよな。俺にもツノとかあるし。」
自分のツノをフードの上から触ってみるとしっかり健在だ。
「それより暇だ。」
《何かしましょうよ。》
「そうだなー。前の犬シッポのフリフリ回数を数えるか。」
《なんですか、それ。》
「これしか思いつかないんだ。ほら、いっかーい。」
《本当にやるんですね。にかーい。》
かーい、とダラダラ語尾を伸ばしながら前のシッポのフリフリを数える。
そして、1時間が経過する。
「さんぜんろっぴゃくさーん。」
《さんぜんろっぴゃくよーん。》
1秒約1回のペースでシッポをフリフリしてくれたのでとても数えやすかった。
「おっ!もうそろそろだ!」
《やっとですね。》
前の犬シッポさんが2人の門番に連れられ検査場に入っていった。
「次は俺らの番か。どうか、この世界でも金の力が偉大であるように。」
《ツカサくん、俺ら、じゃなくて、俺だけですよ。》
リンダは微笑みながら消え去る。
「次の人!連いてこい!」
犬シッポさんと同じように2人の門番に連れられ俺も検査場に入る。
中には怪しい占い師が使うような水晶玉だけがポツンと置いてある。
「あの、これなんですか?」
「これは手をかざしただけで殺人をしたかどうかがわかるんだよ。」
「へぇ。」
昔なら拒絶しまくってた言葉だったけど、今じゃなんともないな。
ていうか金の力いらないな。
てっきり魔族に不利なことをすると思っていたのに。
ん?俺には不利な気が…。
前世の殺人ってカウントされないよな…。
「じゃあ、さっそく手をかざしてくれ。」
「あ、はい。」
心臓バクバクだが冷静を装って水晶玉に手をかざす。
水晶玉は白く光る。
「よし。問題はない。入門して良いぞ。」
「どうもー。」
何事もなく通ることができた。
少しというか、かなり拍子抜けだ。
あんなに緊張してた俺が馬鹿みたいだ。
検査場から出た俺は門をくぐり抜ける。
『スニーカーにようこそ』
と横断幕が掲げられている。
「靴みたいな名前の都市だな。…うわ!すごい活気!」
横断幕の下を通ると露天がズラーーっと並び人々の活気で溢れている。
道の真ん中ででかい竹馬みたいな大道芸をしている人もいる。
「魔国にもこういうのほしいな。」
《ツカサくんも露天に行ってみたらどうですか?》
「いやいや、何かの拍子でフードが脱げたらどうすんだよ。その場で全員殺さなきゃならないよ?」
《それもそうですね。では、宿取りから始めますか。》
少なくとも3日は移動する気はない。
ある程度、この都市で魔国の外の常識を身につけないとこれからやっていけない。
宿は現地の人に聞いたらすぐに分かった。
そして、着いてみると崩れるんじゃないかと心配するほどボロボロだった。
だが、それは外から見たときのみで中は意外と清潔であった。
「いらっしゃい!何泊するんだい!」
ずいぶん恰幅のいいおばちゃんが受付をしている。
「とりあえず二泊で。」
「二泊ね!それじゃあ、4000ガロだよ!」
物価は日本より安いぐらいでそんな変わらない。
ポーチからぴったり1000ガロ硬貨4枚を渡す。
「うちは泊めることしかできないからね!湯浴みと飯は外で調達してきなよ!それと、もし泊まる日数が増えるなら早めに言いなよ!」
「わかったよ、おばちゃん。」
おばちゃんから部屋の鍵を受け取りさっそく部屋の中に入りベッドにダイブする。
「やっぱ、初めての外は疲れるなー!」
もう、外は大分日も沈んできていた。
俺は今すぐに目を閉じて眠ってしまいそうになる。
しかし、宝玉の情報をさっさと聞き出したり、それと1人協力者がほしい。
さすがに自分1人でこれからの旅をするのは絶対無理が生じてくる。
だが、その協力者も必ず信用がおける者でないとダメだ。
「……奴隷がちょうどいいな。」
この世界の奴隷は一般的な奴隷と犯罪奴隷、闇奴隷にわかれる。
一般的な奴隷は生活費を工面するために自らの身を奴隷に売ることでなった人達だ。
この奴隷はある程度、自分の主に対して拒否権を持っている。
犯罪奴隷は借金を返せなくなったり、犯罪を犯したことで奴隷に身を落とされた者達だ。
この奴隷は主の命令は絶対遵守だ。
そして、闇奴隷は誘拐、拉致によって無理やり奴隷にされた者達だ。
これは犯罪だが、一定数で存在している。
この奴隷も主の命令は絶対遵守だ。
「まぁ、犯罪か闇だよな。」
命令に拒否ができる奴隷なんて使い物にならない。
もし、魔王だなんてバラされたら最悪だ。
《闇にしましょう。ツカサくんなら闇奴隷になってしまった子を助けられますよ。》
「リンダ、俺はもう他人なんてどうでもいいんだよ。俺は今はリンダしか救わないから。」
《そうですか。》
そういってリンダは消える。
俺ももう眠い。
湯浴みは諦めてポーチからタオルを取り出し魔法でだした水で湿らせ体を拭く。
拭いたらパジャマに着替え、前髪から赤いヘアピンを外し側の机におく。
「おやすみ、リンダ。」