日常の崩壊(4)
やっと、序章的なものは終わった。
「リンダ!リンダ!死なないでくれ!頼むよ!」
「ツカサ…、くん。生きて…くださいね。大好きですよ。」
リンダはそれだけを言い残し、瞼を閉じた。
「キャハハハ!ツカサァ、これが俺を殺せなかった代償だ!」
首から真っ赤な花を咲かせた白くなるリンダを見て思う。
どうして、俺には魔法がない!?
どうして、俺にはステータスがない!?
憎い。
リンダを殺したシンジが憎い。
リンダが消え去った世界が憎い。
魔法を授けてくれなかった神が憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
シンジも神もこの世界も!!
花びらを散らせたリンダを見る。
どうして、俺は殺さなかった!?
どうして、俺はリンダを守れなかった!?
どうしてどうしてどうして…
やがて永遠続く疑問に答えが出る。
あぁ、そうか。
「殺せば良かったんだ…!」
殺すことにためらいを持つのが間違いだった。
トラウマなんか持つのが間違いだった。
理由ある人殺しは、正義だ!
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
人殺しと戒めのように鳴り続けていたその声は、やがて殺すことを肯定し続ける声に変わる。
「あぁ、あぁぁあああ…。」
「うォ〜、すげェ〜、これが魔王が生まれる瞬間かァ!」
俺の周りにドス黒いオーラが漂い始める。
「おっとォ、これは殺しておかないとヤバいなァ!」
「あああああああああああああああ!!」
シンジがリンダの血で汚れたその剣を俺の首元に向けて振り下げようと腕を上げている。
ーバツンッ
◆
白い世界にいた。
ただ、真っ白い世界に。
「あれ、俺は今何を…。っ!リンダは!リンダはどこだ!」
「リンダさんならあそこにいますよ。」
リンダは白い床に横たわっていた。
「良かった。リンダ生きて…。」
「死んでますよ。」
「はっ?」
「わかっているのでしょ?彼女は死んでますよ。シンジという勇者に殺されて。」
そう、死んだ。
シンジに首を切られて死んだ。
俺に「生きて」と言って死んだ。
「お前が俺にステータスをあげなかったからリンダは死んだんだろ!この役立たずの神が!!」
この世界の住人ゆえだろうか。
すぐにわかった。
俺の前にいるのはこの世界の神。
1柱の女神。
長い長い黒い髪に泣きぼくろのある美しい女神、闇の女神だ。
「その通りです。我々女神はあなたを認識できていませんでした。」
気づけば、赤、青、黄、緑、白の髪を持つ美しい女神が闇の女神の両隣に並んでいた。
それぞれ、炎、水、雷、風、光の女神だ。
「我々、女神一同はあなたに心からの謝罪をいたします。誠に申し訳ありませんでした。」
神達が俺に頭を下げている。
普通の人ならすぐに許してしまう誠意のこもった謝罪だ。
だが、俺は到底許すことができない。
「ふざけるな!謝ってリンダが還ってくるのか!?お前らがしっかりしなかったからリンダは死んだんだろ!?」
「わかっています。なので、我々は精一杯の贖罪を行うつもりです。金が欲しいなら金持ちに。我々の体が欲しいなら好きなように。」
何を言ってるんだ。
この役立たずの神は。
今更、金がほしい、体がほしいだと?
俺が贖罪として求めるのはリンダだ!
「贖罪をするなら今すぐリンダを生き返せ!!」
「それはできません。」
途端に目の前が真っ暗になりそうなのを必死に耐える。
「贖罪をするんだろ!?なら今すぐリンダを生き返せよ!できないってどういうことだ!?」
「死者の蘇生は例外なくある手順を踏まなければなりません。」
「手順だと?」
「はい。それは、我々に願いを届けられる6つの宝玉を集めることです。」
「6つの宝玉…。」
「場所は教えることができません。しかし、魔族以外の種族の間では有名ですのですぐわかると思います。」
6つの宝玉を集める…。
一体どれほどの時間がかかるのか。
おそらく、贖罪として6つの宝玉を望んでも授けてはくれないだろう。
「6つの宝玉を集めるしか方法はないんだな。」
「そうです。」
「なら集めてやるよ!必ず集めてリンダを生き返してもらう!」
待っててくれ、リンダ。
宝玉なんてさっさと集めてリンダを生き返すから。
「リンダさんの体はこちらで保護しておきます。」
「そうしてくれ。ここはあっちより安全だ。」
「はい。それと、我々からの贖罪もまだでしたね。」
「贖罪?贖罪なんてできなかっただろ?」
「そうですね。しかし、我々の自己満足に過ぎませんがこれらを授けます。」
【限界突破】【経験値取得倍加】【全属性魔法】【全属性耐性】【魔力自動回復】
「これらは勇者に着く可能性がある技能です。そして、これから授けるのはオリジナルの技能です。」
【複合魔法】【対勇者】【痛分】
「レベルについては上げることができません。あくまで自分で戦うことでしか得ることができませんから。」
「女神って本当に使えないな。」
「っ。申し訳ありません。」
ボソッと呟いた言葉に今まで淡々と受け答えしていた女神が顔を歪めた。
どうやら、本当に反省はしてるらしいな。
だけど、それで許されると思ったら大間違いだ。
贖罪を求めるなら何かしらの罰を与えてやる。
だが、まずはリンダを蘇生させる。
そして、あのシンジを殺してやる。
「贖罪の件だが、お前ら覚悟しとけよ。」
「はい。覚悟しております。」
闇の女神が笑みを浮かべている。
「チッ。そろそろ戻せよ。」
「そうですね。くれぐれもレベルは上がっていないので気をつけてください。」
「あぁ。」
「では、またいずれ。」
笑みを浮かべて闇の女神が頭を下げてくる。
他の女神達も頭を下げてくる。
ーバツンッ
◆
ーキィィン!
「おョ?」
「お前そろそろこの国から出ていけよ。」
ーグシュ
俺は油断したシンジの力の乗ってない剣を受け止め、シンジの腹に刀を突き刺した。
「いてェェえええええええええええ!!」
大袈裟に騒ぎ始めたシンジはその場でジタバタしている。
まるで、陸にあげられた魚のようだ。
「へぇ、これが【対勇者】の効力かァ。」
あれ、しゃべり方がうつってきたな。
まぁ、いいか。
ーグラッ
「あぁ、やべぇ。とっくに限界超えてるわ。さっさとこいつを追い出そう。」
「な、何をする気だァ?」
手に黒い黒いエネルギーを集める。
リンダを殺された怒りと憎しみを込めて。
黒く黒く黒く黒く…。
「あぁ、ダメだ、まだこんなものしかできない。でも、一時凌ぎにはなるかァ。」
「マジで何を…。」
「じゃあな。今度は殺すから。【ワームホール】」
シンジの真下の空間そのものに真っ黒い穴をあける。
勇者なんてものを殺せる力はまだない。
だから、どこか遠いところに飛ばすことしかできない。
「ツカサァァアアア!!」
俺の名前を叫びながら穴に落っこちていった。
シンジが消え去るとあたりに静寂が立ち込める。
リンダがいた場所を見るとそこにはリンダはいない。
女神どもに預けているからいないに違いないのだが、やはり喪失感は拭えない。
「グルアァァアアアアアアアア!!」
俺は獣のように雄叫びを上げる。
悲しみと怒りと憎しみ、そして、己の存在と挑戦をかけた決意をのせて叫ぶ。
◆
その日、世界は再び恐怖に陥る。
魔王の咆哮はあらゆる国、地域、場所に伝わる。
ある国では神殿に赴き祈りを捧げる。
ある国では新たな魔法を開発する。
ある国では己を鍛える。
ある国では新たな武器を開発する。
ある国では力を蓄える。
そして、ある国では勇者を召喚する。