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押し葉の栞
作者:紺野 蔦
小学四年生の夏休みに、一度だけ、一日だけ、それはもう素敵な体験をした事がある。

もう十年以上前の事だが、昨日あった事のように思える程、鮮明に切なく記憶に残っている。

夏休みに一人で田舎の祖父の所へ行った時、麦わら帽子をかぶって外へ出た。
セミの声や時々聞こえるトンビなんかの声がするのが飛び跳ねるほど楽しくて山へはいった。

「一緒に遊ぼう。」
木の上からその時の私の年と同じくらいの男の子が言った。


キツネの僕は夏のその日、山に入ってきた男の子を見つけた。
僕はどうしても遊びたかった。
人間に化けたんだ。
楽しかったなぁ。もう一度遊びたいなぁ。

私は思っていた以上に山を歩くのが下手で、何度も転びそうになった。
それを見てその子が笑う。
私もなんだか楽しくて笑った。
一緒に木にのぼって遠くの海を見て好きな事を大声で叫んだ。
「ずーっと遊んでいたいねぇ。」
二人してそんな事を話していた。
私は本当に楽しかったが、その子の何か言いたげな顔が忘れられない。

僕はどうしても本当の事を言わなければならない。でも言えなかった。
あの日、僕は本当に楽しかったんだ。

それからは川へ入って水をかけあったり、釣りをしたりした。
僕はソイツのかぶっていた麦わら帽子をひょいととって逃げ回った。ソイツが追いかけてくるのが楽しかった。二人で影踏み鬼するのは一番楽しかったかもしれない。
日も暮れはじめた時、僕は良い事を思いついた。
「今から、鬼ごっこしよう!」
僕は言った。
「いいね!でも、もうすぐ暗くなっちまうよ。」
「関係ないさ!だって、僕たち、ずーっと遊ぶんだろ?」
「そうだ!ずーっと遊ぶんだ!」
ソイツはやっと納得してくれた。僕はジャンケンに勝ってソイツが十、数えているうちに山の中へ逃げたんだ。もう、会わないために。
私は山の中へ逃げるのはもう暗くなるしないだろうと思って探さなかった。
私は私の考えつく所全部を探したが出てこなかったので、
(お母さんにでも呼ばれて帰ったんだろうか…)と思い私も帰った。
案の定、祖父にはこんな時間までとこっぴどく叱られたがそんな事どうでも良く、明日も遊ぶことで頭がいっぱいだった。

私は次の日もその次の日も山へはいり、おーいとその子を探していた。
「なんだこれ。」
私は足元に落ちていた栞を手にとってみた。
それは青々とした何かの葉っぱを使ってある押し葉の栞だった。なにやら字が書いてあるが読めなかった。でもそっとポッケにしまって家へ戻ったのだ。
それから数日して、
「じゃあね!また来るから!」
祖父に挨拶をして、そしてあの山に挨拶をして私は都会の家へ帰ったのだった。

私のポッケに入れた栞は十年以上たった今も綺麗に私の部屋へ飾られている。

僕はあの時、本当の事を言ったら、アイツは笑ってくれただろうか、栞はもらってくれただろうか。楽しかったなぁ。僕が書いた字、読めただろうか。


「ありがとう。」









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