ふたりのゆう ランデブー編
この作品はグループ小説です!今回は、『ふたりのゆう 〇〇編』ですo(^-^)o同じ登場人物・設定で書いてます。
部屋に散らばった沢山の写真。
「悠菜……僕は、君を幸せにできたのかな?」
ゴミ箱には使い終わった大量のテイッシュ。
「僕は気付いてあげられなかった。悠菜が僕の事を好きってことに……」
開けっ放しの窓からは冷気が入ってくる。
「ゴメンね悠菜。ホントに、ゴメンね」
マンションの一室から、啜り泣く声が聞こえた。
★★★★★★★
君は今朝。
いつものように僕を起こしにきてくれた。僕はいつものように
「あと五分」
と呟いた。
そして君はいつものように僕を抱き締めてきた。
痛いよ。離れろ!
って僕が言っても、君は離れようとしない。
重い、苦しい……。
なんて言ったら、落ち込んで会話もできない。
だから僕は、いつものようにこう言うんだーー
お早よう。
そして君は笑った。
ホントに君は、笑顔が可愛いね。
僕は目を擦り、カーテンを開けて暗い部屋を明るくする。
「悠一郎、今日が何の日かわかる?」
「えっ……?」
悠菜は突然そう言った。
「今日は十月二日だよな。……僕の誕生日でもないし、お婆ちゃんの命日でもないし、予約していたゲームの発売日でもないし。今日って何の日だっけ?」
「わからないなら、この話はおしま〜い!」
そう言って悠菜は、笑顔で部屋を出ていった。
ーー今思えば、この時に気付いていたら後悔なんてしなかった。でも、もう過去に戻る事は不可能だから、あがいても惨めなだけだ。
時計を見ると、午前六時三十分だった。
僕は、起こす時間間違ってるじゃんと、悠菜に一言言おうと思って部屋を出る。
「悠菜! ちょっと言いたい事があるんだけど」
大きな声で言う。
「ちょっと待ってね。今、朝ご飯とお弁当を作ってるから」
朝ご飯は分かるけど、お弁当って何だ?
今日は日曜日で学校はなくて、部活もないのに、何でお弁当を作ってるんだ?
「悠一郎! そんな所に突っ立ってないで、私の代わりに予定表見てくれない」
「予定表?」
僕は、テーブルの上に置かれた一冊のノートを見る。僕が絶対に使わないピンク一色のこのノートは、悠菜が言っていた予定表だろう。だって表紙には、
“ふたりのゆうの ドキドキワクワクムラムラデート予定表”って書いてるし。
「……ムラムラって。そんな所に行くのか?」
とりあえず期待する事にした。
★★★★★★★
朝一で来た所。
ソレは、動物園ーー。
一本足で立つフラミンゴ、鼻の長い象、すばしっこい猿、口が大きいカバ、癒し系のパンダ、百獣の王ライオン、最近人気のレッサーパンダ、何かを投げてきそうなゴリラ、首の長いキリン、白と黒のシマウマ。
僕と悠菜は、色々な動物を見た。悠菜は、可愛い〜とか怖いよ〜とか言っていて、楽しそうだった。
「そろそろお昼だし、お弁当食べよう!」
僕の手を引っ張り、走りだす悠菜。
「そんなに急がなくてもいいじゃんか!」
彼女が何故急いでいるのか、何も分からない僕。
ーー僕は悠菜との約束も、十月二日が何の日かも忘れていた。なのに、悠菜は今日一日ずっと笑顔だった。ホントは、悲しくて泣いてもおかしくないのに、君はずっと笑顔だった。
お弁当を食べ終わり、僕は自動販売機で買ったコーヒーを飲んで、一服していた。悠菜は、芝生に寝転がっている。
「僕も寝転がっていい? 悠菜の隣に」
「モチロン。私の隣は、悠一郎の特等席だよ」
ありがとうと言って、僕は悠菜の隣に寝転んだ。
真上には青空。
ゆっくりと浮かぶ雲の向こうには、真っ赤な太陽がある。
「何だか眠たくなってきたよ。ポカポカしてて、気持ちいいよ」
「え〜っと、次の予定は。遠距離恋愛をしているカップルの物語“届かないKiss”を映画館で観るって予定表には書いてるけど」
次の瞬間、悠菜は僕の手を引っ張り走りだした。
★★★★★★★
映画は、カップルばっかりで集中できなかった。レンタルを借りて、悠菜ともう一度観よう。
「愛する二人が離れ離れなんて、カワイソウ!」
「そうだね。会えないのは淋しいし悲しい」
でも、さっきのは映画。所詮作り物。淋しいし悲しいとは思った。だけど、思っただけに過ぎない。
「映画観たし、“ふたりのゆうの ドキドキワクワクムラムラデート”はそろそろ終わりだね。時間が止まってくれたら、悠一郎ともっと一緒にいられるのになぁ」
「そんなに落ち込まなくても、悠菜は僕の彼女なんだから何時でも会えるじゃん。だから元気出して」
僕は、鞄からカメラを取り出した。そして、悠菜を撮ろうとした。
「ちょっと悠一郎、勝手に撮ろうとしないでよ!」
「ゴメンね」
悠菜はいつのまにか、笑顔になっていた。
「じゃあ、撮るよ。1+1=ーー」
真上には夕映えの空。
ゆっくりと沈む真っ赤な太陽が、美しい。
カシャッ
★★★★★★★
そして今。
僕は、大切な人が遠くに行ってしまい涙を流している。
「悠菜……」
僕は君の事が好きだった。君が、浮遊霊だって事を忘れるぐらい好きだった。 なのに僕は、君と出会った十月二日を忘れていた。
「淋しいし悲しいから、アルバムを見るのが辛いよ」
涙を拭い、1ページ目を開けた。