第六話 やはり鍛錬はいいな
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騎士見習いの服に着替えるとさっそく訓練所の中に入る。
目の前を歩くのはシィーリー・ギルフィルトといって、私を訓練所に誘ってくれた男だ。
なんせ自分の国の訓練所には毎日入り浸っていた私だが、他国の訓練所を見るのは初めてだ。
自国にはない訓練方法や訓練に使用するモノを見ては思わず興奮してしまう。
無表情なりにも頬がほんのり赤くなるのを感じる。
やがて人がたくさんいる広々とした広場にでると、木刀同士でぶつかり合う音、体術のみで互いを倒そうとする男たちなどが汗を垂らして行なっていた。
「やあシィーリー、ずいぶんと美しい騎士見習いだね。その子剣をしっかり持てるのか?」
声がかけられた方をみると、体が人一倍大きい、茶色の髪を短く刈り込んだ男がたっていた。
こちらを見ながらふんっと笑った彼は、どうやら私が脆弱であると見た目で決めつけているらしい。
なんと久方ぶりな嫌味だろうか。
私が姫であることをかくして下町に行き、強盗など悪事を働くものたちを騎士団よろしく懲らしめようとした際に、よく言われたものだった。
そしてそんな輩には実力を見せることが一番効果的な手段だった。
思わずシィーリーを見つめると、
「彼も私とおなじく、ゾクゾクするタチですので、ほどほどにしないとストーカーのように追いかけ回されますよ。」
とニッコリ顔でいうので少し引いた。
だからなんだゾクゾクするとは。
「ここはあんたがくるようなとこじゃねえよ。見学気分なら帰んな。」
とニヤニヤ顔でいわれては、こちらも引くにひけない。
私はつまり喧嘩を売られたのだ。喧嘩は売られたら買うものだと叔父から教えられた。
そしてタイミングを見定めることが大切だとも言われた。
うむ、お前が売った喧嘩、受けてたとう。
「こんな女に負けては貴様も恥ずかしいだろう。お前がいうならば見学で勘弁しとくぞ。」
まず、売り言葉には買い言葉で応答すべきであること。
そして相手が怒ったら素早く体勢を整え、迎撃準備にうつること。
逆上してすぐに切りかかってくる不届きものもいるからな。
しかし、この男はそこまで礼儀がひどくはないらしい。
男は目をギラギラとさせて、木刀を握り締めながら
「はっ!口だけは達者なんだろうが、俺は手加減はするつもりはねぇぞ。動けなくなってもしらないからな。」
と、応戦する意思を示した。
「こちらこそよろしく頼む。手加減したせいで負けたとほざくものもいるのでな。」
空気がピリピリとする中でシィーリーだけはにっこり笑っていた。
この男、性格が叔父と似ている気がする。
たくさんの騎士たちが集まり、興味深そうに私と、喧嘩を売ってきた男を見ている。
「ゲインは第二師団の副師長だぞ?ちょっとやばいんじゃないか。」
「あの嬢ちゃん、ただじゃすまねぇんじゃねぇか。」
などと周りの騎士達はなにか言っていたようだが、前を見すえてゲインとやらに意識を集中させる。
はじめ!
その声とともに、少々殺気を含ませる。体を瞬発的に前へおしだし、ゲインの懐へといくのにかかる時間は1秒弱といったところか、だいぶ体がなまっているようだ。
愛剣ではなく木刀なので、まだ馴染んだ感覚はしないものの訓練用に使われる木刀なためか、随分と扱いやすい。
そのまま喉元に木刀を向けようとしたが、さすが副師長なだけはある。
即座に自分の木刀で防いだようだ。
カァン!と木刀特有の衝撃音が広場に響くも、このとき既に私は半回転に体をひねり、回し蹴りの体制にうつっていた。
ゲインはどうやら、木刀でとめるので精一杯だったらしく、ガードがまったくされていない。
その結果、回し蹴りは見事ゲインの頭にクリーンヒット。
そのままドォン!!という重低音とともにゲインは地に伏した。
もちろん木刀を喉元におくことも忘れない。
一瞬の隙が命取りになってしまうからな。
しかしこの男、なかなか見込みがある。
そんなことを思いつつ、周りをみわたすと、あたりは静まり返っていた。
なぜこんなにも静かなのだろうか。
騎士達を見ると、みんなそれぞれ目を大きく開かせて、口がわなわなと動いていた。
多少はなにかしゃべってくれ。なにかいたたまれないぞ。
「どうした?」
騎士達を見回しながら、私がそう問いかけた途端、一瞬のうちにわっと声があがり、その声の大きさに驚いて私は思わず体をびくっと震わせたのだった。