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第十九話 朝の騒動



朝、朝食の時間となり食事を行う場所にシルヴィがいくと、后候補の女性たちが一斉に自分のほうへ視線を向けたのを、シルヴィは感じた。


嫉妬と憎悪、そして物珍しいかのように観察する目が少々といったところか。


彼女らの殺気ともいえる視線にシルヴィは、この人たちなかなか武術の見込みがあるんじゃないのかと、検討違いなことを考えずにはいられない。


逆をいえば、それほどまでに彼女らの視線は武術的にいえば素晴らしかったのである。


ただまあ、こんな視線を浴びたところでシルヴィはへこたれることもないために、彼女らはますます悔しさを募らせるのだが、シルヴィにとっては知る由もないことであった。


縮み上がる様子もなく、ただ淡々と食事を行うその様子は、端から見ると王に唯一選ばれた女としての余裕のように感じられる。


それはシルヴィ自身が選ばれたなどと思いもしていないからこその行動であるが、后候補の彼女たちに与える影響は多大なものであった。


やはり、王に選ばれたのだ。婚約をもう結んだのではないか、いやいやあのような低い身分の女など、王はすぐに飽きられるだろう、などと、ひそひそと話を行う彼女らの心の中にあるのは、自分よりも地味で、身分も低い者に負けたという屈辱のみ。


そして、明日までに王の目に止まらなかったら、自国へと帰らなければならないという崖っぷちの焦りも、彼女らにはあった。


嫉妬をする暇があるのなら、王に少しでも話しかけるチャンスを掴み取ることが生き残る道だと、彼女たちは次々に部屋へと戻っていく。


どうやらお色直しをしたあとに城中をまわるようで、今日は一段と城の中が賑やかになりそうであった。


そんな中で、自分を観察する者たちがいることを、シルヴィはすぐに気がついた。


一際殺気の濃度が濃ゆいことも気付く要因の一つであったのだが、彼女たちがそれを隠しもしていないことから、こちらが気付く筈もないと油断しているか、挑発のためにしていると考えられる。


シルヴィとて、昨日の騒動が后候補の者たちにどのような影響を与えたのか、理解はできている。


ただ、そのような殺気を込められるほどだいそれたことはしていないし、進展などもみられる訳がない。どうせ自分も明日帰るのだからと考えると、胸がちりちりと痛み出すのだがシルヴィはそれに気づかないふりをした。


昨日のことは夢をみれたのだと、自分に言い聞かす。叶うはずのなかった夢が偶然叶ったのだと思うしか、他に対処しようがないのだ。






食事をし終わり、部屋へと戻る途中にシルヴィはふと、庭園にいきたくなった。


この国の庭園はなかなかの見ものだと叔父に教えてもらっていたのだが、庭園に行くためにはあの修練所をとおらなければならない。


自分の身分をさらに偽って、騎士見習いとして修練に参加してしまい、予想外に注目を浴びてしまったシルヴィにしてみれば、このドレス姿を彼らに見られることになにかしらの抵抗があった。


なによりも、嘘をついたまま彼らの修練に参加してしまったために、妙な負い目をシルヴィは感じていたのである。


そしてそのことを考えると、自分が身分を偽ってここに后候補としてきたこと自体非常識すぎると再認識してしまうためにますます落ち込んでしまうのであった。


もちろん、シルヴィの家族公認であり、それはいわばシュバルティ国公認といってもいいために、シルヴィは家族の暴走を止めることのできなかった自分に対しても密かに落ち込む。


とりあえず、その負い目やら抵抗やらで彼らに見つかりたくなかったシルヴィは、修練所はもちろんのことその場所一帯、ずっと近づくことすらできなかった。



しかしながら、今日はもう最終日である。



今まで他国に行ったこともなく、そしてこれからも気軽に他国に行くことなどできないだろうと想像できるために、シルヴィは悔いがないよう今日一日を過ごしたかった。


どうせ明日帰るのだからと、シルヴィは半ば開き直る勢いで、アンナを連れて庭園へと歩いていく。


庭園の場所がはっきりとはわからないために、とりあえず大体教えられた場所に向かって歩くのだが、長い廊下を渡り、後宮からどんどん離れていくことにドキドキと鼓動が高鳴る。


来たことのない場所に、風景、その全てがとても新鮮で、まるで冒険をしているかのようなワクワク感があった。


幼い頃、初めて城下町に降りた時のことを思い出しながら、久しぶりの感覚に顔もほころんでいく。




しかし、そんな穏やかな気持ちもある叫び声によってぶち壊されてしまった。




「あー!!!あのときのおつよいお姉さま!」




ああ、この声は・・・とおそるおそる振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた、レンゲルドの妹でありこの国唯一の姫がいた。その後ろには同じく微笑を浮かべたシィーリィーの姿も。


「これはヴィヴィルナ姫様、久しぶりです。シィーリィーさんも。」


無表情なりにもできる限り優しく話しかけると、ヴィヴィルナはますます目を輝かせ、怖がることなく話しかけてくる。


「わたしのことはヴィヴィってよんでくださいね。ヴィン兄様はりゅうがく中だし、レンゲルド兄様はいそがしそうだし、ほうっておかれてさびしくって。だからお姉さまにあえてうれしい!」


シルヴィの妹とは正反対とも言える活発な性格に、少しだけ目を見張る。


シルヴィの妹はどちらかというと、一人で本を読んで遊ぶような静かな子なので、そのように元気な女の子を相手にするととまどいも大きいのだが、その満面の笑顔からパワーをもらえるようで微笑ましくもあった。


これほどしっかりしていながらまだ8歳だというから驚きだ。


しかしまあ、それはそれとして。



「なぜ私のことをお姉さまとよばれているのですか?」


ヴィヴィルナに会った時から思っていた疑問をシルヴィはなげかける。


そう、なぜか、ヴィヴィルナはシルヴィに会った当初から、シルヴィのことをずっとお姉さまとよんでいるのだ。


「だって、お姉さま、私の理想のお姉さまなんだもの。つよくて、きれいなのにかっこよくて、私がほしかった理想のお姉さまにぴったり!」


「い、いや、でもですね。」


一国の姫にお姉さまとよばれるとなると、ただでさえいまは色々と周囲に誤解されているのに、ますます事態がややこしくなるというか・・・。


少しばかり顔を歪めながら、諭すようにヴィヴィルナに話しかけると、ヴィヴィルナはたちまちしゅんとした顔になる。




「わたし、ずっとお姉さまがほしかったの。だから、理想のお姉さまにあえてうれしくって・・・ごめんなさい、めいわくでしたよね。」


悲しそうなヴィヴィルナを前に、うぅ・・とシルヴィはなにもいえなくなる。


こんな状態の少女を前にして、お姉さまと呼ぶななどと誰がいえるだろうか。そんなことを言える奴がいたら直ちにここにつれてこい。



「い、いえ。迷惑だなんて思っていませんから。そう呼んでいたただけるのでしたら嬉しいです。」


「ほんとう?お姉さまありがとう!」


ぱぁっとたちまち顔が明るくなるヴィヴィルナ。その様子をみてシルヴィはほっとしながら、もう一人妹がいるとおもえばいいか。と、半ば諦めるように、承諾したのであった。


やはりヴィヴィルナは笑顔のほうがいい、と思いながら。





「シルヴィ様はなにをされておいでだったんですか?」


シィーリィーがヴィヴィルナの後ろから、微笑を絶やさずに声をかける。


その問いにシルヴィは当初の目的を思い出す。


「ああ、庭園にこれから行く途中なんだ。」


シルヴィの言葉にヴィヴィルナが思わずといったように反応する。


「まあ、庭園はわたしのお庭のようなものですのよ。ぜひあんないさせてください!」


そして、ヴィヴィルナの言葉におされるように、結局ヴィヴィルナとシィーリィーの二人が増え、四人で庭園鑑賞を行うことになったのであった。


このとき、シィーリィーはアンナと目を合わせ、なにもない場所にむかって親指を立てていたのだが、シルヴィはヴィヴィルナとのおしゃべりに翻弄され気づくことはなかった。



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