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第十一話 レンゲルドの無知

あの創立祭から一年が経った。


俺は14歳になり、体つきがどんどん変わっていくのが自分でもわかった。


そして、俺にくる縁談の話も、多くなってきていた。


けれど、その現実的なものを遠ざけるように俺はひたすら彼女のことを考えた。


彼女は、俺と同じように成長して少女ではなくなる。


いずれ、少女から大人の女へと変わっていく。


それが本当に怖かった。


彼女も、俺と同じように縁談がきているのだろうか?


焦りはとどまることをしらず、日に日に心を真っ黒に染め上げていく。


だというのに俺をあざ笑うかのように、少女の情報はなにひとつでてくることはなかった。


王になるために必要な勉強も、体を鍛えることも心あらずのまま、この国の王になるという意味を考えることも漠然としたまま、一日一日はすぎていった。


そんな、焦るばかりの日々が続いたとき、俺にとって素晴らしい朗報が入ってきた。




なんと、あのシュバルティ帝国の王弟殿下であるルドヴィリー殿下が、この国に視察にきているらしい。


いつも秘密裏に調査しては、調査しおわってからとぼけた顔して国に挨拶と評して国の現状を伝えにくるという殿下のうわさに思わず浮き足立つ。








俺の国、ヴィングリー国は大変恵まれた地域だ。


海と山のどちらもが国の領土内にあり、自然による厄災もほとんどない。


雨も定期的にふり、暑すぎることもなく寒すぎることもない快適な温度に、森に行けば豊富に取れる果実。




しかし、このあまりにも資源が豊富なことが、かえって国を危機へとおいやっている。








この国をはさむようにしてたつ二つの国、キィール国とベゾラン国とは長い間緊迫状態が保たれていた。



50年に一回ほど大きな戦いがあっては引き分けるようにして条例を結ぶ。


そしてどちらがその条例を裏切るのか、常に緊迫した状態で監視をし合うのだ。



本当ならば、資源の豊富さによる海と山からの貿易が素晴らしいと言われるはずが、それよりもまず、隣国との戦いに対するための軍隊の強さが目に入るようになってしまった。



そんな危険と隣合せの国だからか、よくシュバルティ帝国から視察がくる。



そして今回はなんといっても王弟殿下だ。無礼にあたることがないようにしつつも、自分の気持ちを伝えなければ。


そしてただの口約束だけでも、しないよりは何倍もいい。


ヴィングリー国の王子が、シュバルティ帝国の少女と結婚をしたがっているとの認識さえあれば、なにかしらの情報ももらえるはずだし、シュバルティ帝国からもなにか返事はいただけるはず。







この時の俺は本当に甘かった。


自分の感情を抑えることもできず、それが周りにあたえる影響を考えることもできない、ただのガキだったんだ。


そしてそんな俺に王弟殿下が少女の情報なんてくれるはずがなかった。











「その話、お断りいたします。」


シュバルティ帝国の城にルドヴィリー王弟殿下がきて、客室にいるのだという話を聞いてから俺は部屋を飛び出し、王弟殿下に会いに行った。


そして自分の気持ちをつたえた・・のだが、俺ははじめ、なにをいわれているのかわからなかった。






自分では、丁寧に、相手の気分をそぐわせないようにと気を遣いながら話したつもりだった。








俺が創立祭からずっと、見かけた少女を忘れられないこと。


その少女のことが知りたいが、なにもわからないので、なにか知らないかということ。


そしてその少女と婚約を結びたいということ。








それがどれだけ無神経なことをいっているのか、俺は全く分かっていなかった。










「君はなぜ?という顔をしていますね。」


お茶を飲みながらにこにこと笑う王弟殿下に呆然と顔をむけるしかない俺。


「君は無知だ。その無知なところ、僕はすごくいいと思う。まだ何色にも染まっていないということでもあるからね。


ただ時として無知は何事にも耐え難い悲劇を生むこともある。


君はシュバルティ帝国の貴族の誰かが、違う国と婚約を結ぶことによる混乱を考えたことはあるかい?」






ただただ、俺はその言葉を何度も何度も頭の中で繰り返しながら、ルドヴィリー王弟殿下をみつめる。



彼ははぁ、と大きなため息を一つついたかとおもうと、


「その意味を理解したと思う頃に、またこの国を訪れるよ。僕はただの馬鹿な男にあの子を嫁がせる気はないからね。


自分がなにをしたいか、なにをすればならないか、自分で考えなくては王になるのもおこがましい。」







ぐさりと、胸に楔が打ち込まれたようだった。






彼は彼女を知っている。


俺が何度も何度も望んだ、彼女との橋が、今目の前にかかっている。



そして彼女とつながりを持つものに今俺は失望しかけられているのだ。


かのシュバルティ帝国の王弟に、王になるのもおこがましいと言われるほど自分は無知なのだと。







どうやって彼の部屋からでてきたのかすら、覚えていなかった。









ふらふらと、自分の部屋にはいり、彼からの言葉を思い出し、自分が彼に言った言葉を思い出して、恥ずかしすぎて死ぬかと思った。





けっして小さくない、軍事国といわれている国の皇太子が、のちに国民を背負い守らなければならない未来の王が、王になるのもおこがましいといわれたのだ。


恥ずかしくて、悔しくて涙が止まらなかった。


執事やメイドたちにきこえないよう、ロンフィルに聞かれないよう、ベットに顔を押し付けて、声を押し殺して、それでも涙は止まることなく、彼女へ溜まっていた黒い気持ちがでてきたかのように長い間流れ続けた。


自分は今まで何をやっていたのだろうか。


彼女とつながることばかり考え、想像ばかりして、なんという無駄な時間だっただろうか。


その想像には未来がないのだ。つながったその先はなにも考えていないという愚かさ。




この無駄な一年があれば、彼女を受け入れ守るための人脈をつくることができただろう。


一年あれば、今以上に彼女を守るための体を鍛えることができただろう。




シュバルティ国の人間、特に水色の髪を持つ者と婚姻を結ぶということは、そういうことなのだ。


シュバルティ帝国という鉄壁から単身で彼女はでてくるのだ。


シュバルティ帝国に狂信的な思考をもつものたちは、そのような獲物を逃すはずがない。


彼女を必ずや連れ出し、自分の国で一生過ごしてもらおうとまさに脅威的に迫ってくるだろう。


完璧に婚姻を結んだあとは、さすがにそういう輩も減るだろうが、婚姻が成立するまでの間、彼女は「ほかの国に嫁がれるぐらいなら」という理由で襲ってくるものたちから身を守らなければならない。


それほどまでに、かの国に傾倒する国、集団、民族が大勢いる。







自分がなにをしたいか・・・なにをすべきか。





自分がしたいことは、一年前からかわってはいない。


ただ、そのあとのなにをすべきかは、これからやっていかなければならない。




彼女を守るための地位を・・・力を、そしてこの国に嫁いでもらうためのメリットを、俺は一からつくらなければならないのだ。




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