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kimi
作:LEIN



5


貴子は手を挙げてタクシーを止める。

「渋町へ」
「わかりました」

タクシーは動き出し、貴子は深く腰をかけ外を眺めた。

いくつもの灯りを追い越してゆく。

私は張り詰めたこの街が好きだ。

どこかで別れたら、二度とすれ違う事もない街。

皆が他人同士の街。


私が張り詰めたこの街が好きなのは

自分自身も張り詰めて生きてきたからかもしれない。


時間が刻々と進んでいくのがわかるこの街の中

すれ違うのは他人ばかり

どこからこれだけの人間が溢れ出て、

みんなどこへ帰るのか

人が波のように押し寄せて

もう、「物」のようにしか見えない。


それでも、それぞれに心を持ち

痛みをもち

あるときは喜び、ある時は悩みのどん底に陥るのだろう

でも、すべては他人事ー


私がここまで来るまでの道程は長かった。

男もそう

何人の男が、私の上を通り過ぎただろう

そこには喜びもあったけれど、

必ず終わり、というものはつきまとう


「ここで結構よ」

タクシーを止め、マンションへと帰る

12階のボタンを押し、エレベーターに写った自分の顔を、見た。

もう若くもない。焦りにもにた感情が、私を急かす。

このまま、沢山の砂粒のように

埋もれて過ぎてしまっていいの?

人ひとりの存在が、とてつもなく軽いこの街で−

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田中貴子はベットの上でそわそわと落ち着かなく時計を見つめた。



今日もあの人は残業だろう。

新しい都市開発のプロジェクトとやらで、この所、3時間も寝ていない。


貴子は立ち上がって、居間へと向かった。


重厚なカーテンを開け、夜の街並を見つめる。


この最上階からは、巨大な大都市も全て一望することが出来る。


ここの夜景が貴子のお気に入りだった。

けれど、今は、無情な淋しさを感じる。



一人きりの長い夜をずっと過ごしてきた。

あの人が嫌いになったわけではない。

むしろ愛している。







結婚という形は取れないけれど

この二人の自由な関係が私は気に入っている。

あの人は私との関係に満足しきっている

だからこその安心感なのだろうけれど


このままでいいの?



誰に会うわけでもないのに、貴子は化粧台に座る

私はまだ、綺麗かしら?

鏡の中でいろいろな表情を作ってみる

次の瞬間、まだ映ってもないはずの老いの影を、背中に見た。

たまらなくなり、貴子は枕を鏡に投げつけた。







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