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kimi
作:LEIN



10


kimi …。

kimi 馨?

馨から返答が返ってこないので、貴子は慌てた。

kimi 馨?いるの?

kimi 馨クン!

kimi 馨クン!!

kimi 馨ってば!!

馨 いるよ。

kimi 馨

馨が今、何を感じているのかkimiにはわかる気がした。

kimi 馨

馨  ペットだなんて…。ぼくには魅力がなかったんだ。

kimi そんな事ない。

kimi あなたがわかってないだけなの

kimi 馨を好きになってくれる人もいるわよ。

馨 慰めなんかいらないよ!!

馨 kimiに僕の何がわかるっていうのさ!

馨 本気で彼女を探して、このザマだ。みっともないと思うだろ!


貴子は何も言えなかった。馨の悔しさが自分の事のように伝わってくる。


kimi 泣かないで、馨

馨は机の前で両こぶしを握り締めていた。歯を噛み締めて、声も出さずに震えていた

kimi 馨…。

kimi ヨシヨシ…。

馨から、返答がなかった。今頃顔をくしゃくしゃにして、悔しくて泣いているに違いなかった。

貴子はしばらく待つ事にした。


kimi おちついた?

馨 うん…。

kimi よかった。

馨 うん…。

馨 なんでないてるってわかった?

kimi わかる気がしたの。

貴方は純粋すぎるから騙されるのよ、馨。



kimi あなたにはわからないだろうけれど、貴女は騙されたのよ。

馨 そうなのか?騙されたのか?

kimi ええ。

馨 本当に?

kimi 女という生き物に、ね。

馨はしばらく黙って机を睨んでいた。



馨 嫌いだ

馨 だいっきらい

馨 女なんて、みんな死んじまえばいい


困った。

確かに女は嘘吐きな動物だけれど。このまま女、そのものを嫌いになってほしくはない。

どう切り抜けようか、貴子は素早く頭を巡らせた。


kimi そうね、馨。私も思うわ。

kimi 女なんてみんな死んじゃえ〜!

入力した後、ちょっとふざけすぎかな、と感じ、貴子はハラハラしながら返事を待った。


馨 あはは

馨 ちょっとスッキリした。

PCの向こうで馨が笑った気がした。


馨 でもみんな死んじゃ困るね。

kimi なぜ?

馨 kimiまでいなくなっちゃ困る。

kimi あら、ありがとう。



貴子は、胸が熱くなった。


馨 kimiさ、

kimi うん?

馨 僕のお父さんとお母さん死んじゃったんだ。

kimi えっ…。

kimiは顔から血が引き、手から全ての力が抜けていくのを感じた。

kimi いつ…亡くなったの?

馨 二年前、僕が15の時だよ。NYにいたお父さんの仕事でね、二人がパーティに出るために乗った飛行機が墜落したんだ。

kimi …。

馨 でもね、僕、お葬式でも涙も出なかったんだ。

kimi いきなりだものね…。

馨 今でも実感が湧かないんだ。

馨 それに


馨は息を止めた。



馨 僕が殺したようなものなんだよ。

kimi どういう事?どうしてそんな事を言うの

馨 だから、早く死んでくれればいいと思ってたんだ。

kimi なんでそんなひどい事を…。

馨 二人は常識の塊みたいなまっすぐな人達なんだ。

kimi うん。

馨 とっても優しい人達なんだ。

kimi 馨を見てたらわかるわよ

馨 だから、僕が同性愛者だって知ったら、ママなんてきっと発狂してた。

kimi …。

馨 そんな目に遭わせないで、何も知らずに天国へ行けてよかった。

kimi …。

馨 僕はね、こんな身体も、僕を受け入れない社会にも絶望していた。

馨 二人さえいなければ、とっくに死んでたはずだよ。ビアンのチャットも知らなかったしね。

kimi 正直に言えばよかったじゃない!

kimi 親ならば、どんな事も許せるはずよ

馨 kimiは二人を知らないから。

馨 ママとパパの人生が終わるまで、僕は生ける屍だったのさ。

kimi 馨…

馨 僕が殺したんだ。そんな事思っていたから。

kimi お願いだから止めてよ!!

馨 どうしてさ?僕が殺したんだ。

kimi 馨が殺したんじゃない!!

馨 なんで見もしらない僕に怒るの。

馨 どうせkimiには、どうする事もできないのに。

kimi できるわ。私の事を親だと思いなさい!!

馨 …

kimi 親と思えなかったら、お姉さんでも、お兄さんでもなんでもいいから。

kimi 私が馨の新しい家族になるわ。

長い沈黙の後、画面に字が浮かび上がる。


馨 こんな出来損ないの身体でもか

kimi うん…。

馨 レズビアンの変態でもか

kimi うん。

馨 僕が殺したのに?

kimi そんな事言ったら、天国のお父さんとお母さんが泣くわよ。

kimi あなたには新しい家族ができたの。だから一人ぼっちじゃない。

馨 僕が殺したんじゃないよね?

kimi 何言ってるの。事故だったのよ…。

馨 うん…。

kimi 私は薫の家族だからね…。

馨 うん…。


その晩、動揺している馨が、二度とおかしな事を考えないように、私は子守唄のように、朝が明けるまで、お話を続けた。



kimi ねぇ、馨

馨 うん

kimi 馨は誰かに愛されたいと思っているけれど、誰に愛されなくても、馨は馨よ。

馨 愛される魅力もない、タチか。

kimi また、僕の事知りもしないのにって思っているのでしょう。

kimi でもね、さっきのバカ女よりは、馨の事、知ってるつもりよ。

馨 …うそでもありがとう

kimi 嘘じゃないったら。これだけ真剣に言ってるんだからわかりなさい。

馨 そうか

馨 はっはっは

馨 なんだか、理解者がいると思ったら、昨日の事も笑えてきたかも。

kimi よかった。

貴子は心底ほっとした。


kimi なんだか、貴方の”ママ”みたいな気分だわ。

馨 え?

kimi 私は27って言っていたけれどあれは実は嘘なの。

kimi 本当は42歳のオバサンよ。

馨 うそ…。

kimi びっくりしたでしょ?

馨 …。

kimi 言っておくけど、これでもモテルのよ。でも42歳じゃ、馨の話相手にしてもらえないと思ったの。

馨は、引いてしまったのだろうか。返答までの時間が果てしなく長く感じる。



馨 ねぇ。

kimi うん?

馨 じゃあ、僕の”ママ”になって。

kimi 貴方のママ?

思いがけない答えに、kimiは戸惑った。


馨 僕は、パソコンに出会うまで、誰にも自分の本当の気持ちを言えないままできたんだ。誰にも、だあれにも…。

kimi うん…。つらかったわね。

馨 僕、kimiになら、なんでも話せそうな気がするんだ。本当のママには話せないだろう事も、悩みも苦しみも、全部相談できそうな気がする…。

馨 あと、本当のママに話したかった事を、全部話したいんだ。あと、ママにもっと優しくしたかった。代わりにkimiに優しくしたいんだ。

馨 だめかな…。


馨はドキドキしながら、kimiの返事を待った。


kimi 大きな子供がいきなり出来たもんだわね。

馨 kimi!!




馨はkimiが傍にいるのなら、抱きつきたい気分だった。


kimiは、いつの間にか流してしまった涙を小指で拭う。




kimi さぁ、また明日から特訓よ。

kimi ママが馨をモテル男にする為にビシバシしごくわ!

馨 おっかないな(笑)。

馨 明日もお手合わせ…じゃないか、ご教授頼むとするかな。

kimi 私の特訓は甘くないわよ。

馨 そんなのもうわかってるって(笑)。

kimi アハハ

馨 今日は僕から先に落ちるから。

kimi ん?

馨 愛してるよ、ママ。


そう言い残すと、いきなりチャットを落ちてしまった。


これでいいのだ。今日は馨を見送りたい気分だった。

なんて馨は可愛いのだろう。

私に子供ができなかったから、その分を注いでしまっているのだろうか。


馨が、どうして無性に女の身体を求めるのか、そして、どうしてゆっくりと大人の関係を結ぶ事ができないのか、パズルのように一つ一つがつながっていく。


馨がわかり、自分も正直に年齢を打ち明け、ほっとすると、同時に不安にもなった。

案外シャイなあの子は、恥ずかしくて、もう私と顔を合わせないのではないかと、ふと心配が頭を過ぎった。



翌日、不安は的中した。

もう約束の9時を30分も過ぎたのに、馨は来ない。







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