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たなびく酒場の夢
作:山名春秋


暗い酒場バーの片隅。湿った香辛料の匂い。

ほこりっぽいテーブルについて、裸電球の淡い光を浴びながら、男たちは話し続けている。

時には緩慢に。時には激しく。

麦酒ビールのグラスを捧げ持ち、ひび割れた声で時々叫ぶのだ。

――蠅が一匹、よたよたと不規則に飛び回っている。その軌跡をかき乱して、一人の給仕が現れる。

「お客様」

「ウァァ?」

男たちの一人が奇声を発して、すぐに白けた雰囲気がやってきた。

リーダーらしい一人が、軽く手を挙げ乱入者に告げる。

「すまない。いま盛り上がっているので」

「でも、閉店時刻ですから」

すると、男たちは一様に顔をしかめた。一番近くの男が、給仕にヤニ臭い安煙草を吹きかけ、狭い空間はたちまち曇る。

「まだ夜は早い」

「酒は冷えている」

麦酒ビールを突き付けられて、給仕はごくりと唾を飲み込む。

酒の誘惑は、時に何物にも代えがたい。

「――御相伴にあずかりましょう」

「ヤァーッ!」

男たちが獣じみた歓声をあげ、給仕も輪の中に加わる。

埃と煙がますます濃くなり、電球の光を拡散させて黄土色にあたりを染める。

酒を一気に呑み干すと、たちまち給仕はアルコオルに攪拌されて空に浮いた。

「それにしても、あなた方多いですねえ」

男たちはずらりと黒い頭を並べて、半分積み重なるように並んでいる。

「まあな。俺たちの人生だって、酒場の樽のように積まれているんだから」

「こうでもしないとやっていけないさ」

黄金色の液体が、給仕のグラスに注がれた。匂いと泡が空気に溶け合う。

「煙草吸うかい?」

「ウバァ」

声と煙が吐き出され、入り混じる。混沌とした雑な世界。

給仕は酒を呑む……。苦い味が体の中を駆け巡り……。

男たちは陽気にグラスを掲げる。

「さあ、夜は長いぜ」

「苦役から解放されて、この有様」

男たちはずらりと並んだ同じ頭を傾けて、一様に歯を剥き出し笑う。

顔はみな、鏡に映したかの様に同じだった……。

――アルコオルが地面を揺るがし、一切を奪って極彩色で塗りつぶす……。

「夢だな。この酒場は」

給仕は薄れる意識を集めて呟いた……。

「いや、手に届くこの麦酒ビールだって、しっかり冷たく苦いぜ」

幾重もの声が反響して。

夢の中の現実。酒という名の夢……バッカス。

「さあ、呑もう」

薄暗がりの中で、給仕の体は呑まれているみたいに脱力し、ぶらぶら揺れる。

アルコオルが頭を蝕みすべてを壊して。

頼りない煙が一筋。




山名です。
かなり昔に書いたものを少々改変して、投稿しました。
ストーリー的には起伏が少ないのですが、鄙びた酒場の雰囲気を感じていただけたら幸いです。













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