挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界の姫さまが空から降ってきたとき 作者:杉乃 葵

第七章 美雨

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

97/113

第九十六話 『道の途中』 (on the way to her dream)

 深夜の道路を自転車で掛ける。ニーナは後ろに横座りして腰にしがみついている。人通りや車の通りは無い。海の上の一本道を、自分たち二人だけだ。

 何も考えずに家を飛び出して来てしまったが、これからどうしたものだろうか? 麗美香が暴れているのなら、取り抑えるのは簡単な話では無い。なにせあの怪力だ。数人掛かりでも難しいだろう。それにそもそも、自分は女子寮に入れないしな。
 ニーナがすぐに飛び出して助けに行こうとしたから、自分も行くと云った。それは、ニーナは止めても行く事が今までの経験上明らかだったからだ。彼女独り行かせる訳にはいかないしな。それに、女子寮に着くまでに何かいい案が浮かぶかも知れないという儚い希望も在った。

 そして今、何も浮かんでいない訳だが。

 そうだ。電話してから結構時間が経っている。状況が変わっているかも知れない。

「コーイチ、どうしたの?」

 自転車を止めた事に、ニーナが疑問をぶつける。そんな彼女に、少し状況を確認しようと思うと伝え、もう一度電話を掛けてみることにした。

 ヤマゲンと麗美香の携帯両方に掛けるも、どちらも電話に出ない。状況は変わらずか。一体何が起きているのか?
 麗美香が入れ替わられた。そう考えるのが普通だよな。そして、ヤマゲンが襲われた。麗美香の携帯にヤマゲンが出たときが襲われたときか。

 ん? あれ?

 自分が襲われている時に、他人の電話が鳴ってそれに出るだろうか? 藁にも縋る状況だったかも知れないが、でも、携帯に出るって結構大変じゃないか? 前提が間違っている?

(「助けて! 神鏡さんが、神鏡さんが!」)

 もしかして、麗美香を助けてと云ったのではないか?

「どうしたの? やっぱり山依さん出ない?」

 ニーナの言葉に我に返った。スマホを耳に当てたまま考え込んでいた様だ。

「なあ、ニーナ、どう思う? 一体何が起こっているんだと思う? ある程度、想定して行かないと危険だから、ちょっと考えてみよう。」

 こちらの言葉を受けて、ニーナは暫し考え込む。俯き加減で瞳だけこっちを見る。

「この世界に魔法はある?」

 普通なら、魔法なんて無いと答えるところだが、ここ数ヶ月の出来事のせいで、無いとは云えなくなった。自称大魔術師のメイ・シャルマールとか云う奴も居たからな。本当に魔法を使っているのかどうかは、自分には判断する術は無い。ただ、なにかしらの方法で空間の歪を閉じた。それは事実と云っていい。屍魔が落ちて来なくなった事が、それの証明だ。
 だとすれば、魔法かどうかは判らないにしても、自分が知らない超常的な力が存在するのは間違いは無いだろう。

「在るかどうかは判らない。けど、普通の人が使えない様な力を使える人はいると思う。確実に確かめられた事は無いけどね」

 ニーナは満足そうに頷き、頭の上のでっかい帽子が大きく揺れて前にずれた。
 そう、ニーナは、また彼女の世界の制服を着込んでいる。彼女によれば、それを着用する事で気を引き締めれるのだそうだ。今は夜だからいいけど、朝になったらその緑色の軍服っぽい格好はちょっと目立つけどな。

「あのね、私、この世界の本で読んだ事があるの。魔法使いの人が書いた本。創作じゃなくて、実話として書いてある本ね。修行で魔法が使える様になるって書いてあった。だから私は、力の強い弱いはあっても、この世界の人も魔法を使えると思った」

 それ、怪しい本だろ。そう思ったが、熱っぽく話すニーナの顔を視ていたら、何も云えなくなった。それに、本の信憑性はともかくとして、最近の出来事を考えると、夜迷いごととは云えない。だから、口を挟まずに、ニーナの話の続きを促した。

「魔法使いが書いた本は、何冊か在ったので、一通り読んだのですが、今思い出したのですが、そう! 魔法使い同士が、夢の中で闘う話が在りました」

 ニーナはだいぶん日本語上手く話せる様になっている。というか日常生活に支障が無いぐらい充分に話せている。でも、興奮すると今みたいに敬語が混じったりする。そんなところも可愛いなと、最近は思うようになってきた。と、そんな事を考えている様な場合じゃなかった。
 自分で頬をピシャリとやり気合を入れ直す。そんなこちらをニーナは気付いた様子は無く、顔を蒸気させながら話を続けた。

「魔法使いなら、人の夢に入って闘えるって事です。入れ替わりは夢の中で行われるなら、それを防げるかも知れません」

 魔法使いなら……
 そう聴いて思い浮かぶ人物は独りだけだ。

 深夜だが、緊急時なので仕方が無い。「ごめん」と、電話に出る予定の相手に心の中で謝りながら、記憶の中に在る電話番号を手早くスマホに打ち込む。

「はい。どちら様でしょうか?」

「ああ、舞。山根だ。ちょっとお前に頼みがある。こんな夜更けにすまない。緊急事態なんだ。でもお前、すぐに出たな。起きてたのか?」

 舞がすぐに電話に出た事に驚いた。まるで電話を待っていたかの様だ。さすが大魔術師だな。

「なんだか今日は寝付けませんで。そんな事より、すみません。山根さんって方に覚えが無いのですが、お間違えでないでしょうか?」

「はぁ? お前、ほら、学校の屋上で一緒に闘っただろう? 忘れたのかよ。」

 こいつは寝ぼけてやがるのか? まったくしょうが無い奴だ。まあ、こっちが電話を掛けてる時間が悪んだけどな。

「すみません。そんな記憶はありませんが? それとわたくしの電話番号、どうやってお知りになったのか大変興味がございますわ?」

「まてまてまて。ふざけている暇ねえんだよ。寝ぼけてるんじゃねーのか? 電話番号の事は、その……今度落ち着いてから説明するよ。それもよりもだ! 麗美香が危険なんだよ。お前しか助けれそうな奴は居ないんだよ。まさか、麗美香まで忘れたとか云わねえだろうな」

「麗美香さん……。いえ、その方も記憶にありませんが?」

 なんだいったい。どういうことだ? 舞に何かあったのか? 嫌な予感が背筋を登って来て身震いした。まさか、舞にまで何か手が及んでいるのか?

「ちなみに、どのようなご用件でしょうか?」

「ああ、実は……」

 舞に事の次第を話す。人や猫に入れ替わる者の存在、そいつが麗美香を狙っているだろう事、そして夢を使って入れ替わろうとしている事など。話終わるまで、舞は黙って聴いていた。

「なかなか面白いお話でした。いたずら電話にしては楽しめましたわ。ではおやすみなさい」

「待てええええええ! お前、どうしたんだよ? 何かあったのかよ! 何あったのなら力になるから云ってくれよ! お前ならと思って電話したのによお。それは無いだろう? 大魔術師のお前ならって!」

「随分と必死のご様子ですが、わたくしには何のことだかさっぱりです。それにわたくしが大魔術師ですって? そんな根も葉もない噂、何処から仕入れて来たんですか?」

「何処からって、お前が云ってたんじゃないか。我こそは大魔術師メイ・シャルマールだって」

「大魔術師メイ・シャルマール?! 貴方、その方とお知り合いなのですか? こ、これはたいへん失礼致しました。彼女に御用なのですね。わかりました。幸い、わたくし彼女の取次をしております者です。ご依頼の件しかと承りました。確実に彼女にお伝えいたします」

 何ってんだこいつ。あー、わかった。わかったよ。そういう事かよ。まったく。

「わかった……。お願いするよ」

 はぁー。疲れた。やれやれという気持ちで電話を切り項垂れる。
 こいつ、何処までキャラ創ってやがるんだ。舞のときはメイじゃないのね。めんどくせーよ。何か危険な目にあってるのかと心配したこちらの気持ちを返せ! このやろう。
 まあ、何にせよ、舞、じゃなくてメイは動いてくれるみたいだな。よかった。ひとまずは、これで何とかなるかもしれない。

「どうだった?」

 側でニーナが不安そうに見上げてくる。そんなニーナの不安を払うように優しく声を掛ける。

「ああ、大丈夫だ。バッチリだ。魔法使いが動いてくれる。ニーナのおかげだ」

 その言葉にニーナは花が咲いたように明るく微笑んだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ