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異世界の姫さまが空から降ってきたとき 作者:杉乃 葵

第七章 美雨

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第九十話:code name

 麗美香から事の詳細を聴いた。

 ユニーク枠の件で学校を探らせていた”タマ”という子と連絡が取れない事。恐らく麗美香の爺さんが絡んでいるだろう事。それ故に、ユニーク枠を嗅ぎまわっている自分にも爺さんの手が及ぶのではないかと心配している事。

 麗美香が本気で心配しているであろう事は、彼女の態度から解る。いつもの横柄な何も考えてないような素振りは無く、凄く憔悴して覇気がない。力なく項垂れて公園のベンチに座っている。そんな彼女の様子の方が自分には心配に感じるぐらいだ。

 「ごめん、ポチ。わたしじゃ、爺様抑えられないかも。約束したのにごめんね。」

 ぽつりぽつり小さな声で呟いた。まったくらしくない。気持ち悪い。つーか、こっちまで調子狂うわ。

 「あー、なんだ、まあ、こうしてまだ元気だし、何も起きてる予兆はないし、大丈夫じゃねえか? まあ、こっちのことよりも、その”タマ”って子の方が心配だろう。住んでるとことかわかんないの?」

 「ダメ。わたしがあの子と会ったらダメなの。何らかの繋がりがあるって勘ぐられるともっと危ないし。」

 なんだそりゃ。うーん、まあ、探らせていたというからにはスパイみたいなものか。無関係を装うのは常套手段なのかねえ。よく知らないけど。何か事情があって連絡取れないのかも知らないじゃないかと云ったけど、麗美香は首を振るだけだった。

 「とりあえずさあ、打てる手は打っておかない? nullさんとは連絡取れないの? それか摩耶先輩とか。」

 ヤマゲンがベンチから立ち上がって此方の目の前まで来る。nullさんとの連絡手段は無いんだよなあ。摩耶先輩かぁ。連絡してみるか。でも、こんな情報拡めていいのか? あまり拡めていい話じゃない気がするぞ。とはいえ、このまま放置しておくのもやばそうな気もする。今は全くもって無事で、何事も起きていない。だが数秒後は違うかも知れない。事はもしかしたら一刻を争っているのかも知れない。そう思ってもしばらくの間、決心が出来ずにスマホを手にしながら逡巡していた。

「あ、あの、あの、、、」

 後ろから女性の声が突然したので、驚いた。「ひゃっ」となんとも情けない声を上げてしまったじゃないか。誰だと思って振り向くと、白い子猫を抱えた美雨が立っていた。なんだ、美雨かよ。驚かせやがって。コホンと咳払いをしてから、何事も無かったかのように装って、美雨に尋ねた。まあ、もうバレバレなんだけどさ。一応ね。

「どうした美雨。女子寮で待ってるんじゃなかったのか?」

「あの、あの、この子がですね、あの、その、この人をオヤビンだと云うもんですから、追いかけて来たのです。」

 美雨は、そう云うとおもむろに麗美香の方を指差した。おいおい、人を指差したらダメだぞ、美雨。

 ……

 待て待て待て。そんな事より。
 美雨、今、なんて云った? 子猫が麗美香をオヤビンだって云ったのか?

「オヤビン? なんだそりゃ。おい麗美香、この子猫お前知ってるのか?」

 麗美香の方を振り向くと、ガジャンっという鉄製の物が地面に倒れる音がした。彼女は持っていたハルバードを手落とし、それが足下に転がっていた。青褪めた顔で麗美香はベンチから立ち上がっていた。

「あ? え?」

 麗美香は口をパクパクさせながら震える指で美雨を指差した。

「いま、いま、、オヤビンって云った? あんた。」

 そのままよろよろとした足取りで美雨に向かって歩き出した。
 美雨は麗美香の形相に臆したのか、ジリジリと後ずさりを始めた。
 ひとまず二人を落ち着かせようと、間に入る。ヤマゲンも察して、麗美香のやつを後ろから肩を掴んで引き留めていた。状況を飲み込めていないニーナは、おろおろと所在なさ気にしている。

「えっと、あんた何? その猫は何?」

 ヤマゲンに制せられながらも、美雨に問いただす麗美香。彼女はまだ動揺している様子で、言葉は震えていた。
 後ろに隠れていた美雨から袖を引っ張られた。見上げる美雨の瞳は困惑していて、どう返答したらいいか戸惑っている様子が見て取れた。

「あー、この子は、そのぉ、動物と話せる子なんで、この猫がそう云ったーみたいな感じ。」

 美雨の期待に応えるべく、とりあえず麗美香に云うべき事を云ってみた。

「んでぇ、この猫は、お前の事をオヤビンだと云ったって事みたいだな。」

 後ろで袖を掴んだままの美雨に眼で確認を取る。美雨は無言で、ふんふんと頷く。その仕草は小動物の様で可愛かった。さすが動物と話せるだけ合って、動物っぽいのかなとか、余計な感想が浮かんだ。
 それはともかくとして、麗美香の方はまだ動揺を隠しきれない表情で、ゆらゆらと左右に揺れていた。

「なんで、その猫、なに? 何なの?」

 独り言の様にぶつぶつと呟いて、麗美香は頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。
 ヤマゲンが心配そうに一緒にしゃがみ、声を掛け、背中を擦っていた。

「タマが、わたしを呼ぶ、コードネーム。」

「麗美香、なに? なんて云った?」

 彼女はゆっくりと顔を上げて、此方を観て云った。

「タマがわたしを呼ぶときに使うコードネーム。それが”オヤビン”なの。」
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