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異世界の姫さまが空から降ってきたとき 作者:杉乃 葵

第七章 美雨

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第八十五話:den

 「おい、ニーナ、何処に案内するつもりだよ?」

 先頭に立って洋々と進むニーナの背に声を掛ける。
 ニーナは何故か気力充実といった感じだ。
 「もーちょっとだから。我慢して、コーイチ」と、此方を振り向かずに応える。

 美雨も子猫を抱きながら黙々と付いてくる。
 ニーナの歩みは速い。女の子にしては速いと思う。自分は付いていけない事は無いが、背の低い美雨は一生懸命に付いていこうと小走りになっている。
 短い髪を揺らしながら、てとてとといった感じで可愛らしかった。

 そういえば、『マルニィ』の名前が出ていたな。
 『マルニィ』といえば、前に観季に話していたニーナの元の世界の親友の名前だ。
 しかし何故その子の名前がニーナと美雨の間で出てきたんだ?
 不可解さは増すばかりだ。

 学校から歩いてきて10分程経っただろうか。5階建ての白いビルに付いた。
 用がなければ絶対来ないような、住宅街の様な場所だった。
 様なというのは、あまりこの地域の事に関心が無く、知らないだけだ。
 学校と、寮と、中央公園、そして繁華街ぐらいしか行ったことも無いし、興味も無かったからだ。

 このビルはなんだろうか?
 新しく建てられたという感じで、商業施設っぽいけど、まだテナントがあまり入っていない様に見えた。

 ニーナは1階のガラス扉を躊躇いなく開くと、続いて中に入る様に手招きした。

 人の気配は無い。

 「えーっと、たぶん、こっち。」

 しばらく直進したニーナは突き当りで唇に指を当てて、記憶を手繰る様子を見せてから、右に案内した。

 廊下と壁と、それぞれの部屋の扉が並んでいた。
 何処にも人が入っている雰囲気は感じられなかった。

 エレベータホールを抜けた先に、非常用っぽい扉があった。

 ニーナはそれを遠慮無く開いた。
 おいおい、大丈夫なのか? と不安が過ぎったが、ニーナはどんどん先へと進んで行く。
 仕方なく、美雨と一緒に中に入る。

 扉の向こうは、地下に降りる階段だけがあった。

 地下に降りると、そこはボイラー室だった。
 そのままずんずん奥に進んだニーナは突然立ち止まった。

 「あれ? 無くなってる。」

 「無くなってるって、何がだよ?」

 ニーナの側に駆け寄って視線の先を観る。
 そこには何もない空間が在るだけだった。

 「nullさんに案内されたときに、ここに部屋が在ったのに。」

 「ちょっとお前! nullさんに会ったのか?!」

 nullさんの名前に、つい興奮してニーナの両肩を掴む。
 ニーナは狼狽えて、「ちょっと、ちょっとぉ」と叫んだ。

 「前の話、ほら、屋上で『屍魔』をやっつけた時の話。ここからあの変な液体を持って行けって云われたの。」

 前の話を云われて、がっくりと肩が落ちた。
 せっかくnullさんと連絡取る方法が見つかったのかと思ったのに。

 「あの~、『屍魔』ってなんですか?」

 ゆっくりと近づいていた美雨が、『屍魔』という言葉に反応した。
 解らないことが在ると気になって仕方が無いという感じの眼で、ニーナに縋る。
 応えようとするニーナを手で制して、

 「とりあえず、順番に話していこうぜ。結構長い話になりそうだけどな。時間は大丈夫か?」

 「わたしは別に用事ありませんから大丈夫です。」

 座れそうなところは無いかと探したが、流石に無いか。
 その様子を観たニーナが「ごめんなさい。」と済まなさそうに謝罪した。

 「まあ、しょうがねえよ。nullさんが撤収したんだろうね。そもそもここに部屋創るってどうなんだとも思うけどね。」

 ひとまずニーナの気持ちを和ませようと言葉を紡ぐ。
 美雨は、何やらごそごそと制服の中を弄った後、ふわっと風呂敷を床に広げた。

 「おい、それ何処から出したんだ?」

 美雨は鞄を持っていない。というか、全員鞄持っていない。そうだった。今頃気が付いた。
 教室に鞄置きっぱなしじゃねーか。
 後で取りに戻らねーとな。
 あんまり長引かせないようにしねーと、正門閉まっちゃうと不法侵入しないとだめだからな。
 まあ、鞄置いて帰ってもいいんだけど。この二人はどうかわからんし。いちいち聞くのも面倒だ。

 「あー、これはですねー。」

 美雨は得意顔をして、制服の前を開けて見せた。
 ブラウスの上に襷掛けで小さいピンクのポーチがぶら下がっていた。

 「この中に必要な物をいつも入れてるんですよ。女子の制服って物入れるところが無いから。」

 そんな女子の制服事情は知らないし、必要な物が何か問うのもやばい気がしたのでこの話は終わりだ。
 ピンクのポーチから眼を逸らして、話題を少し変える。

 「で、この風呂敷はなんだよ。」

 「あー、ここに座ってお話しましょうって思ってです。」

 「三人座るには小さすぎるだろ!」

 いくらなんでもこの風呂敷に三人座るのは無理だ。
 いや、座れるかも知れないけど、むっちゃ近すぎる。
 ニーナはなんとか慣れてるとしても、今日会ったばかりの美雨と肌触れそうな距離とか、嬉しいけどちょっと話どころじゃない。

 そんなこっちの逡巡を余所に、ニーナと美雨はさっさと座った。

 「って、背中合わせかよ!」

 「「え?!」」

 風呂敷にお尻だけ乗せて脚は外に出す体育座りの姿勢の二人が、同時に疑問符を上げる。

 「向かい合わせとかしたら足が邪魔です。当たり前じゃないですか。」

 何を当然の事を? といった顔で此方を見上げる美雨。

 「そうっすねー。」と云って、空いたスペースに尻を降ろす。

 「でも、みんな背中合わせで話すって変じゃないか?」

 「くすすです。確かに変です。でも、なんか愉しいです。」

 そう云って、美雨は本当に愉しそうに笑った。
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