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異世界の姫さまが空から降ってきたとき 作者:杉乃 葵

第六章 朱堂アリス

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第七十七話:Confronting

 なんでこんな事になったんだ?

 自分が今居るところは、とにかくだだっ広い部屋。学校の教室ぐらいの広さは在るだろうか。その部屋の中央に高級感漂う白いソファーだけがぽつりと置いてある。そのソファーとその前に置かれたテーブルを除いて他には何もない。
 床もまた高級そうなふさふさの絨毯が敷かれている。これもまた白い色。白い、ほんとに白い。壁も天井も白い。そして窓がない部屋。
 腰掛けたソファーの正面の壁に、床から天井までの高さのある液晶テレビが取り付けられていた。でかい。こんなサイズいらねーんじゃないかというぐらいでかい。

 「まさか、テレビ観るためだけの部屋とか?」

 冗談混じりに隣に腰掛けている麗美香に尋ねると、「そうだよ。」と素っ気なく云われた。

 「何お前、いつも此処でテレビ観てんの?」

 冗談で云ったつもりなのに普通に肯定されて動揺してしまった。こんな馬鹿でかい部屋でその用途がテレビ観るだけとか、信じられない。無駄遣いにも程がある。

 「わたしが使うんじゃないよ。ここは来客用。」

 思っていたよりも更に上を行っていた。来客がテレビ観るための部屋ってなんだよ。まったく金持ちの生活は理解できない。来客用がこんなのだったら、こいつ用ならどんなのだろうか。気になったが、訊くのが怖くなったのでやめておいた。

 「で、ここでお前とテレビ観るんかよ? なんの意味があるんだ? 爺様はどーしたのよ?」

 リムジンから降ろされて案内された部屋がこの何もない白い部屋だった。ここで待機して麗美香の爺様のところに案内されるかと思いきやその様子はなく、麗美香の奴も何をするでもなくソファーに座ってだらしなく背もたれに身体を預けていた。

 「そのうちテレビが点くから大人しく待ってなさい。」

 いや、お前とテレビ観るために来たわけじゃないし。というか、無理やりお前が連れてきたんだろうがぁ。

 コンコン

 文句を言おうとした矢先、扉をノックする音に遮られた。ノックの主に思いをはせ、いよいよ爺様登場かと、居住まいを正す。

 「失礼いたします。」

 扉を開けて入って来たのは、白と黒を基調にしたメイド服を来た女性だった。歳の頃は20代ぐらいだろうか。それなりに綺麗な顔立ちをしている。
 さすがお金持ち。メイドさん居るんだぁと、素直に感心していた。メイドさんが居る生活なんて庶民には創造の外だ。
 部屋に入って来たメイドの、その表情は無表情。此方に愛想を向けるわけでもなく、淡々と持ってきたカップをテーブルにセットし、手際よく紅茶を注ぎ終えると深々と一礼して去っていった。その間ずっと麗美香はスマホを弄っていた。完全無視である。まるでメイドさんが視えないかのように。メイドさんを視ることもなく、声を掛けることもなかった。

 「メイドさん、居るんだ。」

 気になったので、問いただす意を含み、麗美香に語りかけた。
 麗美香は別段関心を払うでもなく、スマホを弄ったままで、「うん。」とだけ応えた。
 メイドさんの存在を明らかに無視するあの態度はメイドさんに失礼じゃね? と思ったが、他人の家の事だ。こっちが口出す事でもないか。

 「飲んでいいか?」

 出されたまま放置状態になっている紅茶に対し、飲む前に一応断りを入れた。そういえばメイドさんも、「どうぞ」とか云わなかったよな。なんなんだ、この家は。みんな会話しないの?
 麗美香は問い掛けに、「ん。」と、小さく応えたので、肯定の意と解釈して紅茶を啜った。

 紅茶の事はよくわからない。でも、こんな家で出される紅茶だ。きっと高級品なんだろうなあっと思う。こちとら紅茶といえばスーパーとかで売ってるティーパックしか飲んだことねえし。

 高級だと思えば、なんか香りが良いような気がした。さすが高級品。いや、まったくわからないけど。

 そんなどうでもいいことに思いを巡らせていると、急に麗美香の奴が背もたれから身体を起こした。
 麗美香の動きに合わせたかのように正面のテレビが起動した。ブンっと電源が入る音がして、青い画面に接続中のメッセージが表示され、地球を模したデザインの周りを衛生の様な絵ががぐるぐると回っていた。そっか、もしかして、これがテレビ会議ってやつか。つまりは、ここで爺様と来客が会議する為の部屋ってわけか。

 しばらくすると画面に白い顎髭を蓄えたほっそりとした顔の爺さんが映し出された。赤地に均の刺繍が入ったガウンを着込み、後には書棚と思しきものが観える。顔の皺も深く老賢者といった風格を漂わせていた。

 「爺様こんばんわー。」

 麗美香が愛嬌たっぷりに画面の爺様に愛想を振り撒く。先程のメイドさんに対してとは打って変わってだ。極普通の、孫が曽祖父に甘えるといった風景だった。

 「おお、麗美香。元気そうでなにより。」

 爺様の方も爺様で、孫に甘いのがはっきりわかるぐらいその顔を崩した。

 「爺様、この方が、山根耕一さん。学校のお友達。すっっごく仲良くしてもらってるの。」

 いつもの麗美香の言い方とは違う。山根耕一さんだと? 初めてこいつが名前をちゃんとフルネームで云うところを聞いたよ。それに、この方ってなんだよ。ちゃんと紹介してやがる。や、それはそれでいいんだけど、違和感強くて、すっげえ怖いよ。

 「ほうほう。そちらが山根耕一さんか。お噂は兼ね兼ね。」

 口調は穏やかにあくまでも友好的を装っているが、その眼光は此方を明らかに値踏みしている感じだった。こいつは気が抜けねえ。油断大敵。とにかくここは何事もなく、穏便に済まして此処から無事に脱出することが優先だ。ユニーク枠を探ってる事は、ただの好奇心だと思わせないと。あー、しかし、麗美香に、世界征服だとか革命とか企んでるんじゃないかって感じで吹き込んだんだった。まさか爺様にそんなこと云ってやしないとは思うけど。いや、そもそも、麗美香は爺様に逢わせてどうしようってんだ?

 「あ、どうも、山根耕一です。へへへ、どんなう、うわ、噂されてるんでしょうか? あはは。」

 我ながら、みっともなく動揺していて、明らかに相手にその動揺が伝わっているだろうと思う。それでも動揺を隠そうと、テーブルの紅茶を啜る。啜りながら気持ちを落ち着ける為、呼吸を整える。

 ちらっと横目で麗美香の様子を窺うも、彼女は画面の爺様をじっと見つめたままその表情から読み取れるものは何も無かった。

 「ああ、なんでも、お姫様抱っこされたとか云って、麗美香が喜んでいたよ。」

 ぶほぉっ・・・・ぅ。
 啜っていた紅茶を吹き出し、咳き込む。
 おい、金太郎! 選りにも選ってそれ話しやがったのか・・・・・・。
 つい反射的に麗美香の方に顔を向け、驚いた眼で見詰める。

 彼女は、にんまりと笑って耳元に口を寄せた。

 「ポチとの事は、何もかも話してあるよ。」

 そう云って麗美香は、ころころと笑った。
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