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異世界の姫さまが空から降ってきたとき 作者:杉乃 葵

第五章 観季

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第五十七話︰He missed a button.

 次の授業の始まりを待って、教室に入った。やっぱり、途中から入るのは気が引けるし、みんなの注目を集めるのは恥ずかしい。そういうもんでしょ?
 休み時間に紛れて、教室に入ると、ニーナがむすぅっと睨んでいた。

 何故睨まれる。睨まれる覚えは無いんだけどな。授業をサボったけど、それを怒るようなやつじゃない。
 いろいろ突っこまれないように、休み時間も終わろうとする頃合いに教室に入ったため、ニーナと話すような時間は無く、チャイムの音と共に、直ぐに自分の席に着いた。

「今日は、どちらで逢引きですのん?」

 最近、ヤマゲンの突込みを返す気力が無い。なんか、こいつ、当たりがキツくないか? 自分に余裕がないのか、少々苛ついてきた。反応するのも面倒くさいので無視を決め込む。ただ、やっぱり、無視してやるって決めても、後ろのヤマゲンの様子が気になる。無視を徹底出来ない。なんだか、こっちが悪い事をしている気分になって落ち着かない。
 しょうがない。相手してやるか……。やれやれだよ、ほんと。

 ゆっくりと後ろの席に振り返ると、指で鼻を豚にしたヤマゲンが、べろべろばーをしていた。

 何事も無かった様に、前に向き直る。やっぱり、相手するんじゃなかった。


   ※※※


 放課後、ニーナと一緒に帰ろうと席に近づくと、彼女は睨んでいた。そうだった。なんか前の休憩時間からニーナのやつ、こっちを睨んでたな。なんだってんだろう。まったく心当たりがない。まあ、ここは普通にいこう。平常心だ。

「何睨んでんだよお。」

 ぷぃっと横向いたニーナ。

「べつに…。」

 何だってんだよまったく。はあぁ、っと溜息が自然に出た。ニーナはうつむき加減でそっぽを向いたままだった。教室内は、帰宅やら、部活やらで人が減っていっていた。
「ほら、帰るぞ。」
 ニーナに背を向けて歩き出すと、彼女は、トコトコと付いてきた。一緒には帰るつもりらしい。

「お昼休み。」

 唐突に、話し始めたニーナを見た。立ち止まると、彼女も立ち止まり、上目遣いで見つめてきた。その碧い瞳を久しぶりに見たような気がした。

「来なかった。」

 最初、何の事か解らなかった。お昼休みは有っただろう? とぼんやりと思った。

「どこ行ってたの?」

 そう問われて、やっと解った。いつもの屋上の扉前に来なかったと、怒っているってことだったんだな。
 やっ、でも、しかし、別に、待ち合わせの約束してた訳じゃないし、自然にそんなふうになってただけで、行かなかったからって怒られる筋合いじゃないんじゃない?
 そう思うのに、なぜか、狼狽えてしまっていた。

「えっと、別に、いいじゃんか。」

 なんだろうこの、まるで浮気の言い訳する時みたいな感じは。浮気したことないけど。というより、付き合った事もない。ニーナとの事は、いまいちよく分からない。付き合っているのとは、違う様な気がする。

「別に、いつもあそこで待ち合わせしてる訳じゃねえし。」

 そうこれは本当の事だ。約束した訳じゃない。
 でも、ニーナは不満そうだった。

 気不味い空気のまま、バス停に着いた。肌寒く感じたのは、もう秋だからだろうか。
 二人並んで、バスを無言で待つ。

 カッツカッツカッツ

 規則正しい靴音がやって来た。
 少しホッとした。

「摩耶先輩、今日もまた、お仕事ですか?」
 特に話したい訳では無かったが、この気不味い空気を変えるために、無理やり話しかけた。
「貴方達は、仲良くご帰宅?」
「え、? あはは。」
 今、仲良いという状態じゃないんだけど。摩耶先輩は、解ってて云ってるかも知れないから、恐ろしい。その瞳はなんでもお見通しって云ってるみたいだ。
 摩耶先輩の瞳に見惚れていると、すっと、耳元に口を寄せて
「ニーナさんの事、気遣ってあげたほうがいいわよ。」
 そう彼女は呟かと、いつの間にか到着していたバスにささっと乗り込んでしまった。
 ニーナと一緒に後を追ったが、摩耶先輩は、いつもの最後部座席に陣取り、こっちに来るなオーラを全開にしていたので、近寄るのを諦めた。

 ニーナは先に二人がけの椅子に座っていた。
 隣に座ったものの、居心地は良くなかった。
 まあ、何も話さなくても別にいいんだろうけど。それでも、やっぱこの気不味さは如何ともしがたい。
 窓側のニーナは、ずっと窓の外を眺めていた。その表情は何処か寂しげで、ドキリとした。

 そうか。きっとニーナは、自分の世界からたった独り生き残った。それは、取り残された様なものだ。最近のニーナは明るく振る舞っていたので、すっかり忘れていた。決して解消されない、強い寂しさが、そこにあるんだ。

 「ごめんな…」

 何故自分でもこんな言葉が出てきたかわからなかったが、自然に口からこぼれ落ちた。

 ニーナはきょとんとした顔でこっちを見て、それから、柔らかく笑った。

 それは、何かが通じ合った様な、そんな瞬間だった。
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