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異世界の姫さまが空から降ってきたとき 作者:杉乃 葵

第四章 麗美香

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第四十八話︰feel guilty

 バス停でニーナを待っていると、摩耶先輩がやって来た。

「摩耶先輩、今日もお仕事ですか?」

 気怠そうに、首を傾げながら、

「いえ、今日は、あなたと話しに来たの。ちょうど姿が見えたので。」

 摩耶先輩、まだ帰ってなかったんだ。

「またいろいろやらかしたみたいね。」

 彼女は、やれやれと溜息をついた。長い髪が、はらりと落ちて俯いた顔を隠す。

「それで、片付いたの?」

 ポツリと呟く。

「はい。ニーナが落ちてきた時空の歪は塞がりました。ヤツらも屋上で見動きが取れない状態です。」

「そう。」

 摩耶先輩は、ゆっくりと顔を上げた。

「お疲れ様。後は、こちらに任せて。あなたはもう、普通の生活に戻りなさい。」

 そうか、nullさんが云っていた二人って、一人は摩耶先輩の事なんだ。
 直接二人は会った事がない。
 でも、それは、それ故に出来る事があるからなんじゃないか? そんな風に思った。この二人のやり方も、解決方法も違うが、目指している方向は同じもの。そんな風に思えるのだ。だから少し試して見たくなった。

「摩耶先輩も、なんかいろいろされてたようですね?」

 彼女の眼の色が一瞬だけ変化した。やっぱりそうなんだ。

「何の事かしら。私はあなたの様にお人好しでも、馬鹿でもないわ。」

 そう、摩耶先輩は、馬鹿じゃない。でも、お人好しだ。

「ずっと、考えていたんです。あのファイル。なんで、あのファイルで、nullさんを捜させたか。」
「念の為って云ったでしょ。それだけだわ。」

 口調が少し変わった。少しぎこちなくなり、ほんの少し早口になった。間違いない。

「摩耶先輩はわかってたはずです。霊能力ってよくわかりませんけど、美霧を視たとき、写真と名前の書いた紙を使いましたよね。なら、あのファイルは、写真と名前があったので、全員分、視る事が出来たはずですね。」
「否定はしないわ。でも、だから何?」

 やっぱり。

「その段階で、nullさんが居ない事はわかったんじゃないですか? そして、舞を見つけた。」

 摩耶先輩の眉がぴくりと動いた。

「舞の能力に気付いて、舞をそそのかしましたね。」
「さあ、どうかしら。」

 摩耶先輩がとぼけるのは、想定内だ。

「そして、自分にファイルを見てnullさんを捜させたのは、nullさんを捜し出そうとしている者がいる事を、自分と、そしてnullさんに警告するためだったんですね。」

 どうやってnullさんが、それを知ったのは謎だが、それらしい動きを、多少見える様にすれば、nullさんなら掴む。摩耶先輩も、恐らくそう考えたに違いない。だから、最後のあの言葉がnullさんから出たんだ。

「学校側が信用できないから、摩耶先輩が直接動いた。そんなところでしょう。麗美香の事も知らされて無かったようですし。」

 摩耶先輩は何も応えなかった。ただじっと、バスが来る方角を見つめていた。綺麗なストレートの黒髪が、風に揺れている。

「バスが来たわね。じゃあ、私はもう行くわ。」

 摩耶先輩とスレ違いに、ニーナがやって来た。
 ニーナは、摩耶先輩にぺこりと頭を下げつつ、こちらに歩いて来た。

「間に合った。もうちょっとで、乗り過ごすところだった。乗り過ごしたら、待っててくれた?」

「お、おぅ、もちろん。」

 摩耶先輩が気になっていたので、ニーナへの返事が上の空になってしまった。
 摩耶先輩は、もう遠くまで立ち去っていた。
 それにバスも到着したため、諦めた。もっと何か伝えたかった。それが何かよくわからなかった。

 感謝と云えばまた違う。きっと、彼女は、みんなが上手くいく様に、いろいろと考えて、そして、そのためには自分自身がそしりを受けても構わない。そういった覚悟がある。彼女の功績は誰にも知られる事は無い。そんな気がした。

 プスッ

「いてぇよ。なんだよ?」
「コーイチ、摩耶先輩に見惚れてた。」
「み見惚れてねぇよ!」

 ふんっ、という態度で先にバスに乗り込むニーナ。
 後についてバスに乗る。
 ニーナの隣に座ると、彼女はずっと窓から外を向いていた。

 バスが出発してからずっと、ニーナに声を掛けられずにいた。時空の歪は閉ざされた。それは恐らく、ニーナが元の世界に帰るチャンスを失ったという事だ。ニーナは、これからずっと、この異世界に異邦人として、過ごす事になる。それはどんな気持ちなんだろうか。自分には想像できなかった。




「私、此処に居て、いいの?」

 それは、夜中に部屋にやって来たニーナの言葉。
 薄暗がりの中、恐らくは泣きじゃくっていたと思わせる鼻声だった。

「もちろんだ。此処はもう、お前の居場所だ。」

 出来るだけ、はっきり、きっぱりと力強く伝えた。

「私の親友や、母上さまや父上さま、じいさま、知ってる人達は、たぶんもうみんな居ない。みんなの居た所にも帰れない。此処でも、何人か死なせてしまった。でも、もう行くところ無い。このまま、向こうの世界に行って死にたかった。」

 ニーナは膝をついて項垂れた。

 こんな時に一体何を云えば良いんだろうか。だれか知っているやつがいれば、教えてくれ。


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