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異世界の姫さまが空から降ってきたとき 作者:杉乃 葵

第七章 美雨

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第九十九話 『嵐の前の静けさ』 (calm before the storm)

 深夜の騒動明けた次の日、麗美香は教室に来なかった。

 昨日の今日なので、来ないとなると心配になる。
 まあ、他のクラスの生徒が毎日昼休みに居る方が珍しい事なのではあるが。いつも居る者が居ないとなると、やはり気に掛かる。
 ヤマゲンにあの後の様子を聞いたら、麗美香は寮母さんの処には来なかったらしい。
 だとしたら、麗美香は何処に行ったんだ。
 携帯に電話しても出ないし、メールにも返事は一向に来なかった。

 昨晩の麗美香が暴れるに至るまでの詳細をヤマゲンに訊く為、今日の昼休みは教室で過ごしていた。昼休みを教室で過ごすなんて入学して直ぐの頃以来だ。
 その頃、特に親しくなるような奴が居なかった為、昼は独りで教室で食べていたが、次第にいたたまれなくなり、外で食べる様になった。何がって事も無いのだが、このざわついた雰囲気は苦手だし、考え事もゆっくり出来ない。自分に関係の無い話し声は騒音でしかなかった。
 今日は、ヤマゲンとニーナに誘われたが、彼女らは彼女らで女の子たちのグループで食べているので、その中に入る勇気は流石にない。丁重にお断りした。
 自分の席でさっさと弁当を平らげ、ヤマゲンの食事が終わるのを待っていた。教室内の喧騒を思考から除外する為、教室の外に眼を向ける。すると、美雨がひょっこりと扉からこちらを覗いていた。顔を半分程見せて隠れているその姿はまるで小動物の様だ。

「おいでおいで」

 姿勢を低くして、掌を上にして指を曲げ伸ばししてチッチッチッとすると、近付いて来た美雨に怒られた。

「わたし、ねこじゃありませんです!」

「ごめんごめん。つい、小動物ぽかったから」

「もう。せっかくお世話になったお礼と、報告に来ましたですのに」

 両の手を腰に当てて仁王立ちの姿は、ぷんすかという文字が頭の上に視える様だ。吹き出しそうになるのを何とか堪えて美雨に聞き質す。

「報告って?」

「はいです。子猫が元に戻りましたです。あー、ただ、本体を探してた方がどうなったのか判りませんですけど。えっと、子猫になってた人の事ですけど。でも、子猫が元に戻ってるので、きっと元に戻ってますです」

「ああ、タマの事な」

 うんうんと美雨は大きく身体全体で頷いた。
 タマが誰なのか、自分は知っている。なので彼女が今どうなっているか確認する手段は在る。在るには在るが確認を躊躇っているのは、麗美香とタマの繋がりを公にしない方がいいと思うからだ。自分との個人的接触が即、彼女らの持つ秘密の暴露に繋がるわけではないが、この件は麗美香に任せるのが妥当だと思う。

「まあ、きっと元通りだよ。今度、麗美香に確認しておくよ。今日は連絡が取れないみたいなんでな」

「そうなんですか。わかりましたです。よろしくお願いしますよです。絶対知らせてくださいです」

 深々と頭を下げて教室を後にしようとした美雨は、思い出したかの様に身体ごとくるりと振り返り、こちらに指を突き付けた。
 こらこら、人を指差すんじゃない。うちのニーナがまた真似するじゃないか。
 そう、ニーナはいろんな人のいろんな話し方やら行動を取り入れて、この世界に馴染もうと努力している。努力しているのだが、取り入れるものがいろいろと間違っていることが多いの実情だ。まあ、彼女の涙ぐましい努力にケチを付けるつもりはないが。

「ひとつ思い出した事がありましたです。あの子猫、戻る前の子猫ですが、こんな事を云っていましたです。えーっと、たしか、そう! 不老不死とか人造人間とかです。意味不明なんですけど、何かの役に立てばいいですけどです」

「タマが話したのは、それだけか?」

「はい、それだけをぼそっと伝えてきましたです。云うか云うまいかすごーく悩んだ末の決断って感じです」

 不老不死と人造人間……。
 麗美香によれば、タマは麗美香の爺さんの秘密に触れた、もしくは触れそうになったとの事だ。タマは麗美香に頼まれて、いや、正確には自分が麗美香に頼んだせいなので自分のせいであるが、ユニーク枠の目的を調査していたはずだ。そうだとしたら、この単語の意味するところはつまり、この学校のユニーク枠の本当の目的。

「ありがとう。役に立ちそうだ」

 そう伝えると美雨は顔をぱぁっと明るくした。えへえへと相貌を崩して、てててと走り去って行った。
 本当に小動物だな、あいつは。

 さて、どうするか。タマの状態は確認しておきたいところだ。さっきは麗美香に任せるべき問題だと思っていた。しかし任せるべきあいつと連絡が取れない以上、まだ何か問題が起きているに違いないのだ。麗美香は突拍子のない行動を取る奴とはいえ、昨日の今日だ。何でもないとは考えにくい。心配になるのは当然の事だ。

「美雨ちゃん、何だって?」

 美雨を見送って席に戻るとヤマゲンがピリピリした様子で訊いてきた。こいつなりに心配しているのだろう。麗美香に何か問題が発生したのかと戦々恐々といったところか。
 だがヤマゲン、いつの間に美雨を美雨ちゃん呼ばわりする様な仲になったのだ? この二人がそんなに絡んだような記憶は無い。まあ、美雨は小動物的に可愛いから、そう呼びたくなる気持ちはわかる。
 それはともかくとして、美雨から聞いた内容をヤマゲンとニーナに近づいて囁く。教室の他の奴らに聴こえると内容が内容だけに面倒だしな。

「うーん……。意味がわかんない! やっぱりさあ、直接訊こうよ。それが一番早い。オレ頭使うの苦手だし、何よりも、じっとしてるのがいや!」

 ヤマゲンの脳細胞がストライキを起こした。そうだった。こいつはこう見えて体育会系なんだった。
 仕方なくヤマゲンよりはまだ知的な感じのするニーナの方を観ると、彼女は静かに頷いた。

「私も、直接会って話した方がいいと思います」

 会うのに反対する意見は無さそうだな。一抹の不安は感じるものの、自分も会う方に賛成の立場だ。つまりは、全会一致って事で。この中の誰一人、タマと顔見知りは居ないんだけどね。そして名前を知っているのは自分だけと来たもんだ。



 放課後に、タマの教室に行っては観たが、今日は欠席との事だった。
 後は女子寮だが、自分が行く訳にはいかない。タマの本名を、ヤマゲンやニーナと云えども教えるのはどうかと悩んだが、やむを得ない。タマの本名を二人に告げ、女子寮への聞き込みを任せる事にし、連絡を待つ事にした。


 そしてこの目論見は空振りに終わった。
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