冬の海は冷たく、冬の風はそれよりも、さらに冷たい。
遠くの方で、煌めく宝石みたいな光の粒が、降り注ぐように落ちてくる。
「さっき、僕は鳥になったよ。」
魚のぼうやは言いました。
まだ、ほんの子供ですが体はもう立派な大人の魚です。
波の音は静かに、ほどけてやがて満ち引きを繰り返します。
「魚は空を飛べないのかな?」
海は空の青を映して、どこまでも穏やかでした。
「夢の中なら、飛ぶことは簡単さ。泳ぐ事だってできる。」
カモメ達が歌うように囁きます。
魚のぼうやは嬉しくなって言います。
「大人になっても夢を見るの?」
ほんの少し、カモメ達は黙って。
「もちろんさ。」
と答えました。
「僕も一緒に連れていってよ。」
風は冷たく、海の表面を撫でるように吹きます。
「それはできないよ。」
カモメ達は言いました。
魚のぼうやは、悲しくなって泡の涙をポロポロ流します。
「おやすみぼうや。夢の中なら空だって飛べる。」
「僕、眠くなんかないよ。」
魚のぼうやが言いました。
「大人になったら忘れてしまう。でも思い出せばいいんだ。」
カモメはビュッと吹く風を受け止めながら言いました。
海を越えるのはカモメ達にとっては命がけです。
「さぁ、おやすみ。大人になっても夢を見ることを忘れないようにね。」
カモメは空高く、海を泳ぐみたいにスイスイと遠ざかっていきました。
今日もぼうやは夢の中で、楽しく空を飛ぶのでしょうか。
それは深い深い眠りでした。
夢も見ないくらい深い眠りの中でぼうやは、眠る事は怖くないと知りました。
春になって、ぼうやが夢の話をすることはなくなりました。
でも、それはぼうやが忘れているだけで、夢はいつもぼうやの心の側で、カモメ達と共にありました。
春の海は穏やかで、時々船が思い出したように汽笛を鳴らす以外は静かでした。 |