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世界はいつも 甘くない 作者:くろやぎさん
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真実は残酷だ、君に覚悟はあるか?



「…たき、か?」

 思わず声が零れてしまう。自分でもよく聞き取れないかすれ声だ。
 話す相手もなく、しかも喉もカラカラだ。口なんて食事と息にしか使っていない。
 数えれば、異世界に来てちょうど一週間過ぎた。さすがに人恋しい。

 それはともかく水だ、水の音だ。まだ目に見えてはいないが、探し続けた水源である。
 つい駆け出しそうになってしまうが、だが待て、落ち着け。
 水場を利用するのは何も自分だけではない。先客が居るかもしれないのだ。
 逸る気持ちを抑えて、慎重に音のする元へと向かう。

 (これは…、無理だな。)

 目の前には水がある。随分と大きな川だ。それが崖から下へと大瀑布となって流れ落ちている。
 しかし問題のその川は、深い亀裂の底を這っている。降りられる場所はない。

 (体…、洗いたかった…。)

 大きく肩を落とすが、まあいい。それも重要だが、もっと大きな発見が目の前にはある。

 (…うまそうだ。)

 乾いた口に唾液があふれる。見上げるのはこれまた大きな桃っぽい木の実だ。
 『食材鑑定』でも問題のない、念願の食料である。水分もたっぷり含んでそうだ。そんな木と木の実が周囲に群生している。
 俺は賭けに勝ったのだ。
 木の実を一つ手に取り、もう一度安全確認をしっかりとる。これで食べられなかったら発狂しそうだ。
 しかし、『食材鑑定』が正しいとは限らない。それでも選択肢はもはや一つだ。
 俺は意を決する。

 「戴きます!」

 皮ごと齧り付く。……うまい。
 そこから俺は、腹いっぱいになるまで貪り尽くした。

 ………。

 「ふぅ…、ご馳走様でした。」

 両手を合わせて木に向かって深々とお辞儀をする。大満足だ。
 腹を満たしたところで、俺はまた思索に耽る。この状況を紐解いていく。

 (この周辺には、脅威となるような生物はいない。といってもそんなに広くはないだろう。)

 当初懸念していた捕食者や魔物といった生物には出会わなかった。これはおそらく、ここが毒物の楽園だからだろう。
 毒を持つ生物を食べるのは、耐性がある者だけだ。ここには様々な猛毒を含む生物とそれらを細々と食べる小動物や虫、そして更にそれらを捕食する鳥類ぐらいしか見当たらない。
 これが、ここ暫くで観察した結果である。
 ここには大きな獲物が居ないから、俺を食う程の捕食者の縄張りから外れているのか。…それとも考えたくはないが、ギアナ高地の様な陸の孤島の可能性が出てきた。

 「…ここから脱出しないと。」

 そう、この牢獄から抜け出さなければならない。
 いま食べられるものは目の前に生る桃しかない。しかし、いつまでも実っている訳ではないだろう。
 そうすると俺が食べられるモノは、ヤツしか居なくなる。今も目の前で桃を貪っている奴等しか!!

 「…だから美味しそうなんだね。」

 納得の理由である。ちなみに桃と呼んでいる実の味は桃ではない。プリンっぽい何かだ。

 _______________________

  それから一週間程、桃の木の群生地を拠点としながら周囲の探索と感知の修行をこなすことにした。
 外に出るには外敵からの脅威を回避する術が必要だ。なら日に日に感覚に馴染んでいくこの感知の力を使わない手はないだろう。
 この能力はこの世界に来た時に得たものだ。それがあの激痛の理由だったのだろう。詳しいことは解らないがタイミングはそこしかない。

 俺の手札は感知と、後はこの周辺で得られる毒物だけだ。しかし、毒は食べ物を、もっと言えば肉を確保する為には使えない。
 タンパク質は必須だ。だが俺はヤツを食いたくはない。どこかで狩りをする必要がある。
 だが、陸上の生物は狩猟にせよ罠猟にせよ難しすぎる。それを可能にする力も知識も時間も俺にはない。
 だから本命は魚だ。水中を泳ぐという活動が限定的であるからこそ、罠でもなんでも狩れるだろう。
 勿論水場は危険だが、やるしかない。…ワニとか居ないだろうな。
 兎も角、次の目標も水場の確保。目指すは川の上流だ。

 感知の力は時間とともに、俺の感覚に新しいものを与えてくる。今度は魔力の光になんとなくだが『色』を感じ始めたのだ。
 俺の解釈で言えば、これは『共感覚』である。人の感情や性質、資質がオーラとして見えるというものだ。ラノベ的にいえば魔力の属性や敵意や害意、殺気を感じるといった事だろうか。
 『食材鑑定』と呼んでいた力が、さらに進化した能力だろう。俺は毒を持つ生物の性質を感じ取り、それを自分に害するものと感じた。毒属性だ。今は紫っぽく感じる。
 そして、毒を持つ虫っぽい何かを捕まえた時には、怯えや不安と刺すような感覚が強い波音のように伝わってきた。なんだかチンピラが『なめんじゃねぇ』と強がっている感じだ。
 こちらに無関心、または気が付いていない生物ではこの感情の波紋は感じ取れない。

 こんな超感覚、不可思議すぎる。虫の強がりとか感じたくはない。
 そして魔力は隠せると思ったほうがいい。ここの生物は毒を持っているから警戒色でアピールしているだけだ。そう思ったほうが安全だ。

 そしてやはり、この能力には弱点があった。というか当たり前の話なのだが。
 この感覚、『生きている』モノにしか感知できないし反応しない。生物達から採取した毒液はそれ単体で毒とは分からない。毒液にも魔力は感じなかった。

(ん? 毒成分は魔力由来じゃないってことか? でも石や川の水、空気中にも魔力を感じるぞ。どうなってんのこれ?)

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