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世界はいつも 甘くない 作者:くろやぎさん
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武士は食わねど 衣と住は保証されていたのでしょうか?

お食事中の方は注意してください。


 朝日が昇った、現在腕時計は午前3時11分を表示している。どうやらこの世界でも、一日は24時間に近いらしい。これは朗報だ。
 そして、この場所に変化はなかった。…なにも、起きなかった。これで無断欠勤が確定した。

(清水さんは、俺がいないと気付いてくれるだろうか?)

 気分を切り替えよう。もしかしたら変化は明日かもしれない。しかし、一ヶ月後かもしれないし一年後とも限らない。
 なら一歩を踏み出そう。今この時から始めよう。俺の冒険はここからだ!

 徹夜明けでややテンションがおかしくなりながら、朝食のカロリーバーを貪る。3本セットの内の1本だ。
 眠い目を擦りながら辺りを見回す。何も異常は感じられない。脅威となる生物にはまだ出会っていない。気を張り過ぎとも思うが、油断するよりはいいだろう。

 ―――俺はこの世界の事が、何も解かっていないのだから。

 荷物をまとめ、また森の中へと歩き出す。ルートは昨日と同じだ。まずは水源を確保する。
 慎重に歩きながらも、周りを観察しながら進む。極近くだが魔力の動きを追えば様々な生物が目に入る。
 昨日見たものも、新しく発見したものも、地球の生物たちと比べればやはり珍妙な姿だ。
 しかし、大きく違うところはなく…もないが、これはあいつの親戚か? くらいの見当はつく。やはり生態も似ているのだろうか?

 そんな考察を楽しく感じながらも、警戒は続けている。今のところは大きな生物は近くにいない。今までで一番大きい生物は、クァ~と鳴く鳥だ。遠目で目測だが、両翼の長さが3m位ありそうだ。単眼鏡で覗いてみれば、嘴に歯らしきモノが見えた。…鳥だよな? 始祖鳥か?
 かじられたらたまらないと、そそくさと先を急ぐ。

 ………
 ……
 …

 それから4時間程歩いただろうか。しかしこの森は、全く真っ直ぐに進めない。蛇行に急勾配に落とし穴のオンパレードだ。当然見通しも悪い。

(これは…、キツイ)

 もちろん必死に踏破してるのだが、疲れがたまり、休憩も多くなり遅々として進まない。
 おまけに魔力をより強く、そして多く感じるようになって来た。感度や範囲が上がったわけではない。気配が多く、そして光が大きくなっているのだ。

(精神攻撃か!卑怯な!)

 もちろん違うのは分かっている。あいつらはそこら辺に這っているだけだ。ただこの生き物の気配が迫ってくる圧迫感で頭がおかしくなりそうだ。
 さらに進めば、もっと『濃く』なっていくのだろうか? つまりは、個々の魔力が強くなっていくという事か。それが沢山…。

(…危険だな。少なくとも、こんな何も『見えない』状態で行くべきじゃない)

 来た方向へ引き返す。少し戻って、今日はそこで野営だ。異世界の森で野宿なんて考えただけでぞっとするが、どうすれば安全に寝られるかは分からない。しかし寝ない事には身体が持たない。不安だ。
 時刻は日の出を6時、天中を12時で合わせても、現在14時。あまりいいペースではない。はっきり言って拙い。
 まあいい、急がば回れだ。休憩してから魔力を感じる修行でもしよう。

「…ぐぅ~」

 修行中に寝落ちしてしまった。…そういえば徹夜明けだったな。俺の精神も案外図太い。


 ・
 ・
 ・


 森の中を進み始めて、5日経った。魔力感知の修行は上手くいっている。だいぶこなれてきた。しかし、まだ水源は見つかってはいない。
 持っていた水は、もう殆んどない。元が2L切っていたのだ。よく持ったほうだろう。正直、のどがカラカラだ。森の中は日が射さずひんやりしているのだが、道中は激しいアスレチックの如き行軍だ。自然と汗は流れ出る。
 水分は水筒に残り約100mlと後はサバ缶位だ。食料もこれと飴だけだ。

(ヤバい。これはあれか? ついにジャングルの原住民生活か?)

 食えるものは食うというやつである。今もそこら辺にニョキニョキイモイモ這ってるヤツとかだ。こいつ等は食える。食ったことはないが、恐らく大丈夫だ。食いたくはないが。何故分かるかといえば、実は状況は何も悪くなるばかりではなく、良くなった事も幾つかあるのだ。

 一つは魔力に関する新しい発見である。
 食料問題を解決するために、苦肉の策としてあの極彩色のキノコを取ってみるという、実に危険な試みにチャレンジした時だった。…突っ込みはいらない。
 そのキノコに近づいた時、イガイガとしたまるで漆の木な様な忌避感を得たのだ。以前は感じなかったものだ。そんな忌避感のするものは他にもあった。幾つかの植物と昆虫(?)である。

 試しにと、枝でその嫌な感じのする草を突き刺して、汁を塗し、餌で釣って捕まえた尾長ネズミに与えてみた。結果はやはり毒だった。尾長ネズミは丁寧に埋葬した。毒に苦しむ姿は、自分でやっておきながら中々に堪えた。
 その感覚に従えば、逆に非常に食欲をそそるものも発見した。きっと栄養満点なのだろう。手はつけないが。
 これは『食材鑑定』といってもいいものか? 食べたくなるものが早く見つかるのを祈るばかりだ。

 そして魔力の発見がもう一つ。これは気付いたはいいが、よく分からない。というのも『感じているものって、ホントに魔力か?』というものだからだ。
 ある時、疲労と共に息を切らし、膝に手をついてその場でしばらく休憩をした。その時感じた自身の気配と光が何時もより小さく感じたのだ。しばらく時間を置けば、段々といつもの状態に回復していった。
 …これは『気』とかの方なんじゃないかと思い始めたわけだ。だって魔法なんて使えないのに減ってるし。
 とにかく、これは保留だ。

 最後に、大切なことだ。とうとう川を発見したのだ、崖の下にだが。
 まだ少し距離があるが、単眼鏡で確認すれば、流れは崖方向から下の森の奥へ向かっている。これなら近くに水源なり水脈なり、とにかく水場があるかもしれない。

(…限界だ。…早く、みずを)

 俺はもう、忍耐の限界をとうの昔に超えていた。

(みずをくれ…、水でいいんだ! 体が痒い!! 風呂入りたい!!!)

 文明は何処だろう?

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