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世界はいつも 甘くない 作者:くろやぎさん
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俺は勇者じゃない



 叫んだ。力の限りに叫んだ。マヂでどうしてこうなった!

 俺にだって、サブカルチャーの知識はある。読書の選択肢には、ラノベだって含まれる。結構好きなジャンルだ。異世界なんて、定番で鉄板だ。あの非日常は、想像力を掻き立てる。
 だからこの今の自分の現状も、大体だが予想できてしまう。
 ヘンテコな生き物、変な光、変な状況。ここはもう異世界だと、認めたくないと駄々をこねる俺の理性にテンプレの文字が突き刺さっている。


(…落ち着け。ビークール…だ。俺は予習派だ。この事態は十分カバーできる…可能性はある。だが所詮はフィクション。惑わされずに、一つずつ…だ)

 とりあえずの落ち着きを取り戻し、出来るだけ急いで、元いた場所へ引き返す。これが『転移』ならば、そこから帰れる可能性もあるからだ。何より俺の叫び声を聞きつけて『魔物』なんてものが寄って来たらデッドエンドだ。俺に倒せる保障なんてない。
 行きよりもビクビク怯えながら進む道程は遠い。そこら辺にいる変な虫さえ何だか強そうに見える。

「ひいっ!?」

 ………
 ……
 …

 何とか何事もなく戻ってこられた。探索開始一時間でとんぼ返りとか予定外だ。深呼吸をして、頭を空っぽに、冷静になろうとする。出来なくとも、そうなろうど考え、その方法を模索するのが建設的だ。…虫に本気でビビった過去の自分なんか忘れるのが一番だ。

 そしてまずは、原点だ。ここは本当に『異世界』だろうか?

(…否定も肯定も出来ないな。判断材料が足りない。『何故』この状況かはは関係ない。理由が分かれば解決できるかもしれないが…まずは異世界云々じゃなく、現状が危機的だ。俺の命的に)

 危険度の差はあるが、どの道行動しなければならない事に変わりはない。なら、その危機の回避方法は?

(やることは変わらない。だがもし異世界ならば、『帰れる』のかどうかだ。…教えて神様、ぷりーず)

 周囲には何もない、少し開けているだけだ。遺跡も魔法陣も、当たり前だが金髪お姫様も見当たらない。…期待はしていない、分かってたからね。とりあえず、『今は』帰れない。

(時間か、場所か、もしくは魔法か。方法はあるかもしれない、最悪は帰れない。これは後回しだな。…今は俺がこの森で、生き残れるか、生きて出られるか。…となると)

「…ステータス!」

 ………ですよね! 何も起きませんよね!! これは必要だから、仕方なく、挑戦してるんです! 生きる為です!!

「…メニュー! ……ステイタス・オープン! ………鑑定!」

 その後、思いつく限りのテンプレ的な事を試してみたが、勿論なにも起きなかった。…必要な犠牲だったのだ。

(まあ、現実はこんなもんだ。あれば楽だが、無いなら今ある分で遣り繰りするしかない)

 次に必要な事を考える。水と食料の確保は絶対だ。自分で助かるにせよ、それ以外の要因で現状が打開されるにせよ、時期的限界はある。動かなければ先はない。それを実行できる手札はなにか?

(初めに考えていたよりも、状況は悪い…可能性がある。野生動物ならまだ対処出来たかもしれないが。未知のモンスターだとかだと、全く判断できない。サバイバルナイフ、トレッキングポール、あと一応マルチツールナイフ。装備が貧弱すぎる。やっぱり逃げ回るのが基本で、隠れてこそこそ行くしかないか)

 結論、方針に変更なし。ということで今日はここで一泊することにする。夜中に何か変化があるかもしれないからだ。希望を言えば、魔法陣か何か出てきてほしい。そうでないと、明日は無断欠勤だ!!
 まだまだ日は高いが、テントを広げ野営の準備をする。昼飯は無しだ。動かないかわりに、さらに思索にふけっていく。周囲に気を配りながらも、一つ、考えなければならないことがある。

(この光は、一体何なんだ?)

 時間が経つにつれて、段々とはっきり感じるようになった謎の発光現象。そう、感じるのだ。視覚だけでなく、波紋の様な、鼓動の様な、気配といってもいいかもしれない。目だけでは感じれない、何か。
 …もう、ここ異世界でいいよな? 認めたくないけど。会社のクビどころか、命の危機までありそうだけど。
 どうせこの光は魔力的な不思議パワーなんだろうと、テンプレ的魔法知識を総動員して試してみたが、うんともすんともいわなかった。…まあ、方法が間違っているのだろう、才能だとかは思いたくない。ここまで来て実は剣と魔法のファンタジー世界ではないというなら、それはそれで納得できない。

 とにかく、この発光現象には少し困っている。
 まずは、周りがよく見えない。いや、感じる気配と光と通常の視覚とで、情報が多すぎて混乱しているといえばいいのだろうか。これは、慣れれば問題なくなるのだろうか?

(…見える!? とか言っちゃうか?)

 そして、大事なことがある。この発光現象…もう魔力と呼ぶ、これは『俺だけ』が感じているのだろうか? もし、他の生物がこれを使いこなしているならば、俺は逃げることも隠れることも出来なくなる。

 まあ、可能性としては楽観視して五分五分だ。今日見かけた生物たちは、それはもうたっぷりと自己主張していた。隠していたのか、出来ないのか、必要ないのか分からないが、それでも生きていた。なら大丈夫だろう。
 もしこの魔力を探知目的で扱えるとしても、何かしら制限があるはずだ。俺の場合は、森で視線の通る半径20m前後までしか感じ取れない。それでももう何処に何があるかなんて分からない。
 この想定以上の捕食者がこの森に居るのなら、お手上げだ。気付いた時点で必死に逃げるしかない。

 考えるのはこんなものでいいだろう。あとは今夜、何かしらの変化があるのを祈るだけだ。…徹夜か。

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