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薇仕掛けの用心棒 作者:蝦夷 漫筆
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8/12

作戦、始動す

 宿場町タビーニャスは新執政官マクウォル・レンディが独裁する町になっていた。しかし周辺は残忍な山賊ペコの一味が支配しており町民たちに逃げ場はなかった。
 マーシアの決死の行動で命を救われたゾーレスは「反レンディ派」が集まるカシアドの店を訪れ町民を説得、共に立ち上がる決意を固めた。

 「ヤツらが娼婦たちと戯れている今が絶好の機会、ああ。朝までが勝負だ」
 町民を前にゾーレスは言った。
 「まず、ここを抜け出し河原に行く」

 こっそりと店を出た町民たち。偃月の淡い光を頼りに路地を抜け町外れの十字路に辿り着いた。
 「二手に分かれるぞ」
 カシアド含む町民数名は南へ。町を取り囲む柵の一部を取り外し抜け道を作る。
 残りの数名は、マーシアに背負われたゾーレスと共に繋ぎ場へと急いだ。
 冥界の馬は「デロカー種」と呼ばれる爬虫類系。鱗が月映えする群れの中から、カシアドに教わった通り、濃い緑色の肌に鼻白梁の目立つ一頭を見つけたゾーレス。
 「ようし、この馬か。とびきり脚が速いってのは」
 早速その背に鞍を乗せた。
 馬を確保したゾーレスたちは、そのまま身を隠しながら町の南側へ。カシアドたちと合流した。

 「さあ、町を抜け出すぞ」
 町の灯りと艶やかな賑わいがだんだん遠ざかってゆく。東寄りに南進するとそこは樫に似た樹木が立ち並ぶ林。
 「言うとおりに進んでくれ、近道だ」
 ゾーレスが右だ左だと指示しながら、下草の生い茂る林の中をくねくねと進むと、ひんやりした空気が流れ込み、透明感のある瀬鳴りが聞こえてきた。
 「川だ。チャコス川の渓流さ」
 河原に降りるように手振りするゾーレス。町民たちは驚いている様子。
 「へえ、こんな抜け道があったとはな」
 「抜け道じゃない。獣道ってやつだ」

 一行は川下の方向、東へ向かって河原を進む。

挿絵(By みてみん)

 「あそこだ。その大きな岩、見えるだろ」
 ゾーレスは河原にせり立つ崖を指差した。
 「その岩の裏に入り口がある、さあ入るぞ…ああ、馬は無理だ。外に繋いでおくんだ」
 岩に隠されるようにしてポッカリと洞穴の入り口が開いている。

 身をよじりながら中へ入った町民たちは、洞穴内のあちこちに置かれた蝋燭に火が灯るや、思わず声を上げた。
 「わあっ。広いんだな、中は…長年タビーニャスに済んでるが、こんな洞穴が近くにあったなんて」
 ゾーレスは頷く。
 「そうだろうな。何しろ地図にも載ってない。かつて戦争のときに隠し砦だったんだ」
 「大戦のときに、か?」
 「ああ。こんな穴ぐらがそこら中にあって、冥界の特殊ゲリラ部隊がアジトにしてたんだが…幻界軍の毒ガス散布と、地形が変わるほどの無差別爆破で洞穴と云う洞穴はぶっ潰れ、ひとびとの記憶からも消えた。唯一、この穴だけが難を逃れたってわけだ」
 「ひっ。ど、毒ガス…」
 「大丈夫だ。ここは散布を免れた洞穴だから安心しな。それより…手伝ってくれ」

 ゾーレスは壁にもたれるように立て掛けられた大きな木箱を指差した。
 「その箱を開けて欲しいんだ。まずは横にして地面に下ろしてくれ、そっとだぞ…そうそう。次は錠を外してくれ、番号は、三、八、二、三…」
 カシアドが尋ねた。
 「何だいありゃ。戦争んときに隠したお宝か何かかい?」
 「まさか。そうなら俺も賞金稼ぎなんて商売をせずに済むんだがな…」
 「言えてるな」
 「あれは、俺がいつも持ち歩いてる荷物だよ。町へ入る前にここへ隠しておいたのさ。今のご時世、どこも検閲が厳しいからな」

 箱の蓋を開けて中を覗き込んだ町民たちは、驚いて声を上げた。
 「おおっ、これは…こりゃすごいっ」
 中身は、所狭しと並べられた武器弾薬の数々。
 「すげえ、剣に弓、手裏剣…おおっ、銃まであるじゃねえか。こんな貴重品をよくもまあこんなに…あっ、爆弾もある。こりゃ町のひとつやふたつぶっ飛ばせる量だ」
 ゾーレスはフッと笑った。
 「俺の商売道具だからな、持ってるのは当たり前だ。農民の鍬や鋤、鍛冶屋の金床や万力なんかと同じさ。」
 そして付け加えた。
 「あ、そうそう。爆弾に手を触れるな、そいつはマジで危ないからな。持ち方を誤ると…」
 「誤ると…?」
 「ドンっ! だ」
 「ひいっ」

 「なあ、マーシア。もう一つの小さな箱の方…ああ、そっちだ。それをこっちへ」
 ゾーレスは大箱の横に置かれた小箱を開けさせた。
 「これは…あんたの腕、そして脚じゃないか」
 「予備の手足だ、二本ずつある。札が付いている方をこっちへ…そうだ、取り付けてくれないか」
 マーシアは恐る恐る、銀色に輝く義肢を取り出した。
 「配線を間違うなよ…赤は赤、青は青、そうだ。次は裏の留め金を…うん、それでいい」
 ゾーレスの失われた腕と脚に取り付けた。
 「あとは油を差して…」
 ゾーレスは義肢を身体に馴染ませるように軽く体操するように手足を動かした。
 「やっと本来の俺に戻った」
 町民たちの前にすっくと立ち、目を輝かせながら笑みを浮かべた。
 「さあ、ここからが勝負だ。時間の猶予は無い、早速取り掛かるぞ」

 それぞれに手早く指示を出すゾーレス。
 「まずはカシアド。二、三人連れて下流に向かってくれ。こいつと、こいつを持って行くんだ。あと、これも。イゼロ渓谷は判るな? 両脇に崖がせり立ってるとこだ。崖の上までのぼって…」
 大箱から幾つかの武器弾薬を取り出し、小さな袋に入れて持たせた。
 「頼むぞ、あんたなら出来る」

 「次はお前だ。頼まれてくれ」
 ゾーレスはマーシアを指差した。
 「えっ、あたしが?」
 「ああ。お前じゃなきゃ出来ない仕事だ。町へ戻ってくれ」
 「町へ? 何の為にさ。見つかったらヤバいじゃないの…」
 「そこはマーシア、お前の名演技に期待してるぞ。いいか、町じゃ今頃、執政官も衛兵たちも商売女たちとお楽しみの真っ最中だ。そこへお前が大声で…」

 「あとは…」
 十名弱、町民がゾーレスの指示を待つ。
 「好きな武器を手にしろ、お前たちにくれてやる。さあ、あんたら今日から戦士だ」
 「へっ、いいのかい。こんなスゴイ武器…」
 「俺はウソなんか言わねえよ。さあ、選べ、俺が使い方を教えてやる」

 思い思いの武器を手に、まだ学生らしき若者から婦人、老いた男まで、興奮気味の町民たち。
 「へへへ、俺はこいつを…」
 「おう若いの、銃はやめとけ。シロウトにゃ扱いが難しすぎる。こっちにしな、投げナイフだ。持ち方はこう、で、振り上げて…」

 ふくよかな中年女は長槍を手にした。
 「あたしゃこいつだ、いっぺん握ってみたかったんだよ」
 「そうだな、あんたにゃ丁度いい。向かってくる敵がいたら、真っ直ぐ突き出せ。そう、そうだ。いい構えだ」

 老いて背の曲がった白髪の男が弓矢を手にした。
 「わしは、これがいい」
 「ちょいと爺さん、そりゃ荷が重くはねえかい?」
 「ふふふ、賞金稼ぎのあんちゃん。わしは元ナータス卿親衛隊じゃよ」
 「ひっ…大戦の従軍してたのか、爺さん。しかもエリート隊員じゃねえか。こいつは頼もしいぜ」

 ゾーレスは意気上がる町民たちに告げた。
 「カシアドたちと一緒にイゼロ渓谷に行って隠れててくれ。間違えるなよ、身を隠すのは北側の崖下だぞ」
 そして、幾つかの武器を携えて一人馬に跨り、北を目指した。


 真っ暗な草原は、海に似ている。
 吹き付ける風に揺れる草の波がゴウゴウと音を立てながらうねっている。

 さながら小舟が波に逆らって進むように、一頭の馬が駆ける。

 「あれだな」
 山賊たちが根城にするという平原の野営地を前に、ゾーレスは右目の義眼の暗視用スイッチを入れた。
 緑色に染まった視界の中で濃淡がうごめく。その中に一際明るく映し出されるテントの群れ。
 「間違いない…あの旗印」
 角の生えた髑髏の紋章。モラドやポドリーヨが腕に刻み付けていた烙印と同じ、つまりペコの一味であることの証。

 焚き火はすでに消え、見張り番が一人眠い目をこすりながらテントの杭にもたれて座っている以外に人影は見当たらない。
 「ちょうど寝入った頃合だろうが…すまんな、起きてもらおうか」
 ゾーレスは草むらにうずくまるように身を隠しながら、馬に付けた道具袋の中から幾つかの金属製の部品を取り出した。
 素早い手つきで組み立てたのは火薬式のクロスボウ。火薬を詰め、照準器のダイヤルを回す。
 「距離、七丁(=七百六十メートル)、北西の風、風力は六弱。ちょっと見下ろす恰好だな、高低差は三間(=約五メートル半)ってとこか」
 先端に強力な爆薬を仕込んだ矢を番え、火皿に火薬を充填し安全装置を外すと台尻を当てた肩を何回か揺らして安定させる。
 「派手な目覚ましだぞ」
 照星と照門がピッタリと合致したその瞬間、トリガーが引かれた。

挿絵(By みてみん)

 「おはよう、山賊さんたち」
 ピリリとした夜の空気を真っ直ぐに切り裂いて矢が飛んだ。わずかに南に流される軌道は計算済み。
 山賊の野営地ど真ん中で、爆薬が炸裂した。乾燥した草に火の手が一気に回る。
 「寝起きの悪いヤツのためだ、もう一発」
 さらに一撃。野営地の全体があっという間に炎で包まれた。

 「なんだなんだっ」
 「ひいっ、燃えてる。燃えてるうう」
 「あちっ、あちいっ」
 燃え盛る炎を背景に、冷や汗にまみれた山賊たちが次々といぶりだされてウロウロしているシルエットは、まるで切り絵の芝居のよう。

 「いた…あいつだな」
 遠眼鏡を覗くゾーレスが呟いた。金髪を逆立ててわめき散らす男が見える。額に幾筋かの深い傷跡、くぼんだ眼窩の奥には神経質そうな茶色の瞳。
 「ペコだ…間違いない。強盗団クエルノス・クラネオスの首領、ペコ・デ・サバレス」

 ゾーレスは拳銃に小型の曳光弾を装填し、上空に向かって一発、撃ち上げた。
 パアンという甲高い音、そして闇夜に眩い光の一筋が浮かび上がった。
 「気付いてくれたかな、ペコさん」
 続けて野営地に向かって銃を何度か撃ち込んだ。
 「すっかり目が覚めただろう」
 無論この距離で拳銃を撃ったところで簡単に命中するものではない。しかし、ペコの一味は怒りに顔を歪めながら馬にムチを入れ突進してきた。

 笑みを浮かべた馬上のゾーレス。
 「全員来てくれるなんて、嬉しいねえ」
 高々と松明を掲げ、内股で馬の腹を押さえて駆け出した。
 「さあ、追いかけっこの始まりだ。ああ、まだまだ先は長い。ちゃんとついてきてくれよ」
 必死でせまるペコの一味を時折振り返りながら時折滑車で扶助しつつ、ゾーレスを載せた馬は南へ、渓流へと向かった。


 一方、宿場町タビーニャス。

 女の金切り声がこだましていた。
 「みんな、逃げて。早くっ。ヤツらが、ヤツらがやって来るうっ」
 騒ぎ立てながら町中を走り回っているのはマーシア。

 すっかり暗くなった家々の窓、しかし再びポツリポツリと灯りがつきはじめた。
 「なんだよ、こんな夜中に」
 「ちっ、うるせえっての…気が触れたあの女」
 ゾロゾロと通りにでてきた町民たち。

 町民だけではない。娼婦たちと甘いひと時を過ごしていた衛兵たちも、不機嫌そうな顔で姿を現した。
 「バカやろう、なんだあいつは」
 「邪魔しやがって…いいとこだったのにっ」
 半裸のまま出てきて怒鳴る衛兵も。

 「何だ、何事だっ」
 駐屯所から駆け寄って来た男がサッと馬を下り、マーシアの前に立った。
 執政官レンディ大尉お抱えの執行人、バティオだ。
 「一体なんの騒ぎだっ。誰だお前っ」
 腕を掴まれながらも、マーシアは髪を振り乱しながら叫び続ける。
 「来るっ、来るのよ。ヤツらが…ああっ。あああっ」
 苛立ちながらバティオが声のトーンを上げる。
 「どうした、女。何が来るっていうんだ、あ?」
 我に返ったように急に動きを止め、バティオの目を見入るマーシア。
 「ペコよ。ペコの一味がここにやってくる。皆殺しよ…」

 バティオは目を丸めた。
 「ペコが…どういうことだ。なんでそう思うんだ、説明しろ、女」
 肩を揺すりながら問いただそうとするバティオに、マーシアは息も切れ切れに答えた。
 「あたしは草原の娼婦街に住んでるの。今日は非番で、いつものように水汲みのために川に下りた。そしたら、そうしたら川に大勢の山賊たちが集まってて…」
 「なにっ。渓谷、って…どこだ。本当にペコなのか、町に来るってのは本当か?」
 肩を掴む手にぐっと力が入るのを感じながら、マーシアは唇を震わせる。
 「ほ、本当よ…あの旗印、角の生えた髑髏だったもの。それに大声で叫んでたの、仲間を殺したヤツが町にいるって。今から町を焼き払うんだ、って…」
 「町を焼き払う、だって?」
 「確かに聞いたの…ほら、今日はあたしの仲間がこの町に来てるでしょ。早く逃がしてあげて、そうしないと皆殺しに…」
 バティオはぐっと眉間に皺を寄せた。
 「わかった、ちょっと来い。大尉に報告だ、さあ来い」
 マーシアの腕を乱暴に引き上げながら馬に乗せ、執政官レンディの元へ馬を走らせた。
 馬上でも叫び続けるマーシア。
 「早く逃がしてよ、ペコに殺される。みんな殺されて切り刻まれる…」

 バティオが司令部の門を何度も叩く。
 「大尉、大尉っ。緊急事態です。お話を…少しだけでもいいんです。お話を…」
 ガチャリという音と共に、扉が開いた。
 「ちっ、よりによって…こんな時に」
 ふてぶてしい表情のレンディ大尉が服を羽織りながら出てきた。首まわりや胸元には幾つもの口紅のあと。
 「こんな失礼なマネしやがって、下らねえ用事だったら許さねえぞ。その頭ぶっ飛ばしてやる」

 顔に冷や汗を滲ませながらバティオが報告した。
 「この女が、ペコの一味を見たっていうんです、渓谷で。この町を今から襲撃しようと集まってた、と…」

挿絵(By みてみん)

 「あん?」
 マーシアに顔を近づけ、睨むような表情のレンディ大尉。
 「ウソじゃねえだろうな。どこだ、その渓谷ってのは」
 歯をカタカタ鳴らしながら、怯えた顔のマーシアが答える。
 「イゼロ渓谷、あの深い谷。わかる? 川がぐっと曲がって…ええ、右へ折れるとこ。町の人はどうせ知らないでしょ。まして町に来て日が浅い人なら」
 レンディ大尉はマーシアの襟元をぐっと掴んだ。
 「ちっ。バカにするんじゃねえ。知ってるぜ、俺をナメるなよ、伊達にこの町を治めてるわけじゃねえ。辺りにどんなとこがあるかぐらいはしっかり頭に入ってんだ」
 「じゃあわかるでしょ、あの湧き水が…」
 マーシアの言葉に重ねるようにしてレンディ大尉が得意げに言う。
 「湧き水が二箇所、だろ。だが南側の方は飲んじゃいけねえんだ、戦争の時に撒かれた毒が染み込んだ岩から湧いてくるから、な」
 「よ、よく知ってるじゃないの…」
 「若い頃は従軍してたんだ。確かにあの谷は川の曲がり角で崖が切り立ってるから、軍隊時代もよく任務で使った場所だ。湧き水もあるしな」
 二、三度頷いて、マーシアはレンディ大尉の目をじっと見た。
 「じゃあ、判ってくれたならお願い。今すぐ女たちを逃がして、ペコたちが来たら皆殺しよ。あんたたちも早く逃げた方がいい」

 目を逸らすことなく、レンディ大尉は奥歯をガリガリと噛み締め、鼻の穴を広げながらマーシアに問うた。
 「おい、女。今なんて言った。あ?」
 その迫力に後ずさりするマーシア。
 「に、逃げた方が…早く逃げ…」
 レンディ大尉は唾を飛ばして怒鳴った。
 「このクソ女っ。俺をコケにする気かっ、ペコを前に逃げろ、だと。俺様に逃げろ、って言いやがるのか、てめえ」
 右手を振り上げ、マーシアの頬に向かって振り下ろした。
 「俺様が、俺達がペコに負けるって言いてえのか?」

 倒れたマーシア。衣服に付いた土を払おうともせず、レンディ大尉を見上げた。
 「あんたらに勝てるわけがないでしょ? 町に来て間もないから知らないのよ、ペコの一味がどんなに強くて、どんなに怖いか」
 マーシアに覆いかぶさるようにして、もう一発その頬を張ったレンディ大尉。
 「黙れ淫売めっ。ペコがどんな野郎かぐらいはとっくに調べてある。俺様は山賊だの流れ者だの、秩序を知らん連中が大嫌いなんだ。そいつらを根絶やしにするのが俺様の仕事なんだよっ」
 頬を赤く染めてなお、マーシアは声を上げる。
 「連中はね、揃って火を掲げてたわ。町を焼き尽くす気なのよ、勝てるわけ無いじゃない…ペコが来たら、あんたも火だるまよ」

 しばらくじっとマーシアを睨みつけたレンディ大尉は、フッと笑みを漏らした。
 「じゃあ、俺様がどれだけの男か見せてやろうじゃねえか。山賊などこの町に一歩も入れねえからな」
 「本当に勝てるの?」
 「俺様に刃を向けたヤツは、みな死んでいった。まあ見てろ」
 レンディ大尉はバティオに告げ、衛兵たちを司令部の前に集結させた。

 「大尉、これで全員です。いかがいたしましょう」
 強襲用の装備で整列した配下の衛兵たちを前に、レンディ大尉が荒々しく声を上げた。
 「今から出撃…いや、狩りだ。山賊狩りだっ。イゼロ渓谷へ全速で向かえ、そこにはペコの一味が集結してる。全員殺して構わん、暴れて来いっ」
 そしてバティオに命じた。
 「お前が指揮を執れ。俺様はここで待ってるぞ」
 「えっ」
 マーシアは驚いてレンディ大尉の顔を振り返った。バティオも首を捻った。
 「あ、あの…大尉どのは?」
 「万が一、罠ということもある。だから俺様はここで待つ。そうそう、まだ相手しなきゃいけねえ女が二人も残ってるんでな」
 ニヤニヤ笑いながら、マーシアの腰にも手を回した。
 「さらにもう一人、相手してやらにゃならんようだし、な。俺は気の強い女が嫌いじゃねえ」
 苦笑いするバティオ。
 「は、はい…じゃあ、他の女たちはどうしましょう。逃がしますか?」
 レンディ大尉は首を横に振った。
 「そんな勿体無いことはしねえ。とりあえず倉庫に入れとけ、いざとなったら盾として使えるだろ」
 「承知しましたっ」
 敬礼するバティオに背を向け、レンディ大尉はマーシアの腰を抱きながら有無を言わせずに司令部の中に戻っていった。

 衛兵たちはバティオに率いられて渓流めざして馬にムチを入れた。
 「さあ、狩りだ。殺しまくっていいぞ、楽しめ」

 つづく
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