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ダークエルフが生まれた訳

作者: 五十嵐

 黒いエルフは荒れ果てた土地を見て心の中で呟きました。


───だから、言ったではないか。


 と。


 黒いエルフは静かに涙を流しました。まるで世界を憎むように。


 そして黒いエルフはその場を離れました。一人の黒を身に纏った従者をつれて、世界を嘲笑うかのように軽やかな足取りで。




 昔々のどこかの世界のお話。

 そこは剣と魔法の世界。人間とエルフとドワーフが協力して暮らしている平和な世界。

 魔物もいましたが、御互いが御互いを干渉せずに暮らしていたため、争いの少ない世界でした。


 そんな平和な世界の中、エルフ族の中で最も魔力のある黒いエルフがいました。

 黒いエルフは亜種で、他のエルフとは違い黒い髪に黒い瞳、褐色の肌をしていました。

 ですが他のエルフたちは黒いエルフを大事にしていました。

 黒いエルフもまた他のエルフたちを大事にしていましたし、人間もドワーフも大好きでした。


 黒いエルフは人間の王様のお城にすんでいました。

 黒いエルフは王様の御抱えの魔法使いでもあったのです。

 ある日、王様は黒いエルフにこう言いました。


「黒いエルフや、どうか国の未来を占ってくれないか。」


 黒いエルフは快く承諾し、国の未来を占いました。

 占いの内容に黒いエルフは絶望しました。なんと国に未来はなかったのです。


「王様、国に未来はありません。

 大きな厄災が降りかかりこの国は滅んでしまいます!」


 黒いエルフは震えながら王様にそう告げました。

 しかし、王様はそれを信じませんでした。きっと思い過ごしだと言ったのです。


 ですが黒いエルフの占いは外れたことがありません。

 黒いエルフは恐ろしくて恐ろしくて夜も眠れませんでした。


 そんな中お城で舞踏会が開かれることになりました。

 勿論黒いエルフも呼ばれています。


 黒いエルフはいつも身に纏っている黒いローブを脱ぎ、変わりに綺麗な黒いドレスを身に纏いました。


 そして舞踏会の中、黒いエルフは一人の少女に出会いました。

 その少女はとある男爵の娘で、とても緊張しているようでした。

 黒いエルフは彼女を見たとき、何やらゾワゾワとしたものを感じました。

 彼女は危険だと黒いエルフの中の何かが訴えたのです。

 黒いエルフは気付きました。

 もしかしたら彼女こそが厄災の原因ではないだろうか。と。


 黒いエルフは即座に声をあげました。


「その者は厄災を招く!この国を滅ぼすであろう!」


 でもその言葉を聞き入れる人はいませんでした。

 大事にしてくれていたエルフでさえ、聞き入れなかったのです。


 それでも黒いエルフは何とか男爵令嬢を追い出そうとしました。

 嫌がらせも沢山しました。

 でも男爵令嬢を追い出すことはできません。


 逆に、黒いエルフが男爵令嬢を虐めていると言われるようになってしまったのです。

 黒いエルフは嘆きました。


 自分はただこの国を守りたいだけなんだ。と。


 でも黒いエルフの声は誰の耳にも届きませんでした……



 黒いエルフは(やつ)れました。

 男爵令嬢は王様と皇太子様、騎士団長、宰相を味方につけ黒いエルフを批判したのです。

 他のエルフも黒いエルフを批判しました。


 黒いエルフは王様に呼ばれ、広間に跪かされています。

 黒いエルフの目はもう何も写してしませんでした。


「黒いエルフよ。お前はなぜ男爵令嬢を虐めたのだ?」


「彼女が厄災を招くからです。」


「何をでたらめな!」


 人々は怒りました。

 黒いエルフはそんな人々を見て笑ってしまいました。


「ならば、私と賭けをせんか?男爵令嬢殿。」


「賭け、ですか?」


「はい。其方が負ければこの国は滅ぶ。私が負ければ死ぬのは私だけ。簡単ではないか。」


 黒いエルフは静かに静かに話しました。


「私が使える魔法の中でとても魔力を消費し、一度しか使えない魔法があります。

 それは魂を縛る魔法。呪文が刻まれたこの指輪を嵌め、条件を満たせなかったとき指輪から針が体内に侵入し心臓を貫くもの。

 貴方の条件はこの国が平和で有続けること。私の条件はこの国が平和であるかぎり牢に閉じ籠っておくこと。

 さあ、どうする?」


 人々は驚愕しましたが、誰しも黒いエルフだけが死ぬと思っていました。


「いいでしょう、その賭けに乗ります。」


 だから男爵令嬢は頷きました。


「私が見た厄災はそんなに遠い未来ではない。三年以内に起こるでしょう。

 この魔法を解く魔方陣を作り上げるのに一年半、発動には一年半かかる。丁度よかろう。期間は三年だ。それまでに国が滅びぬといいな。」


 黒いエルフは人々を嗤い、自ら地下の牢獄の中に入っていきました。


 それから三年の月日がたちました。

 黒いエルフは生きています。

 ですが地下の牢獄を出てみると国にすんでいた人々は皆死んでしまっていました。

 ただ一人、黒いエルフに仕えていた従者を除いて。


 黒いエルフが地下の牢獄に入ったあと、男爵令嬢は皇太子と結婚し、王妃様になりました。

 人々は悪いエルフはいなくなったと喜びましたが、それは束の間の幸せでした。


 王妃様はやりたい放題やりました。

 税はどんどん重くなり、民は皆貧困に喘ぎました。


 一年たち、民は怒りを募らせついに大きな内乱となったのです。

 それは隣国をも巻き込むことになりました。

 国王軍と反国王軍は互いにぶつかり合い、反国王軍が勝利を納め王妃様と王様は殺されてしまいました。


 再び平和な世の中に戻ったと思った人々でしたが、やはりそれも間違いでした。

 貧困の問題が解決していないのです。

 次は町や集落で小さな争いが多発しました。

 それは小さな小さな食べ物や生活用品での争いでしたが、民の精神を蝕むにはとても大きなものでした。


 隣国に助けを求めようともしましたが、不幸なことが連続で起こるこの国を気味悪がり手を引く国ばかりでした。


 結局、国中の人々は皆争い、飢餓で死に絶えていきました。


 そして最後の一人が倒れたとき、ちょうど三年の月日がたったのです。



 その間黒いエルフは何をしていたかと言うと、魔法をとく魔方陣を作っていました。

 黒いエルフは生きるために何でも食べました。

 同じエルフの死体を食べるときもありました。


 黒いエルフの食事を持ってくるのは黒い従者の仕事でした。

 黒い従者は黒いエルフのことを崇拝に等しい思いで仕えていたので黒いエルフが地下牢に入った後も仕えていました。


 そうして二人の黒は忘れ去られた地下牢で細々と暮らしていました。

 三年の月日がたつと、ようやく魔法が解かれ黒いエルフは外に出れるようになりました。


 外に出た黒いエルフは無感情に荒れた地を見ていました。


「主様、これからどういたしますか?」


 黒い従者が静かに問い掛けました。


「この近くに魔の森があっただろう。其処に住む。

 ああ、でも御前は人間だから死ぬかもな。」


 黒いエルフは黒い従者に向かって笑いました。


「私の命は主様のものです。例え禁忌を犯してでも側に居るつもりですよ。」


「……そうか。なら二人で禁忌を犯すとするか。

 ならば私はエルフと名乗れないな……」


 黒いエルフは考えました。自分はエルフではないのなら何と名乗れば良いのか、と。


「……では、ダークエルフと名乗ってみては?」


 黒い従者が提案しました。

 黒いエルフはダークエルフという響きを気に入りました。


「いいな。それ。なら御前は人ならざる者…しかもダークエルフの従者……魔人とでも名乗るか?」


 黒いエルフ…ダークエルフはクスクスと黒い従者をからかいながら提案しました。

 黒い従者は少し考えた後、首を横に降りました。


「私はただ貴方の側にいることができる"闇"で良いのです。」


 ダークエルフは少し不満げでしたが、黒い従者が良いといったのなら、と納得し二人で魔の森へと入っていきました。


 そして二人は禁忌を犯しいつまでも、いつまでも魔の森でひっそりと暮らしたそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  正義を求めるゆえに闇を名乗る羽目になる。  乙女ゲームモノのアンチテーゼにもなっていてとても面白かったです。 [一言]  二人が長く添い遂げますように。  たとえ悪と罵られても二人の系譜…
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