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恋する乙女
作:霧野ミコト


「あんた、何すっごい気持ち悪い顔してんのよ」
ようやく、冬も真っ盛りと言ったところで、雪が降り始めた今日この頃。
あまり暖かいとは言えない教室で、メールを読んでいたら、不意にそんな事を言われた。
彼女の名前は、葛原千沙。
まあ、普段はちぃちゃんとしか呼んでないけど。
本人はあんまりそれを気に入ってはいないようだけど。
「えへへ、そう、かなぁ?」
それは、さておき、思いっきり、だめだしをされてしまった私なわけだけど、そんな言葉も今の私には痛くも痒くもない。
なんと言っても、今の私は絶好調。
たったいま確認したメールで、超ハッピーなニュースを知ったのだ。
「……あんた寒さで頭いかれた?」
「違うもん。ちょっとハッピーなニュースがあっただけだもん」
そう、あの人が帰ってくる。
ずっとずっと離れ離れになっていたあの人。
まるで、ロミオとジュリエット、織姫と彦星のように、離れ離れになってしまった私たち。
だけど、ついにあの人が帰ってくるのだ。
これを喜ばないでいられるものか。
「あ、そう。でも、その顔はいただけないわよ」
「う〜」
だけど、目の前に居る彼女は、冷たくあしらう。
いつもの事とは言え、ちょっと切ない。
でも、まあ、確かに、彼女の言うとおりちょっとはしゃぎすぎなのかもしれない。
騒がしいのが好きじゃないあの人にとっては、あんまり喜べるものではないはず。
それに、私は決めたのだ。
あの人に似合う大和撫子風の純和風の淑やかな淑女になると。
軽く顔を揉んで、顔を整える。
「よし、完璧」
そして、最後に鏡でチェックしたらおしまい。
そこには、いつもと変わらない表情の私がいる。
「……変わり身、早いわね。そういうところにだまされるのよね、男子どもは」
だけど、今度はそれをつっこむ彼女。
失礼だ。
いつでも、あの人に一番の私を見て欲しいから、自然とそう出来るようにしただけ。
そもそも、私は、男子をだました覚えなんてこれっぽっちもない。
だいたい、毎日毎日学年問わずに告白されてるちぃちゃんに言われたくない。
学園に降臨した女神様、なんて言う異名を男子からもらっているぐらいなのだ。
どこの漫画のお姫さまなのかと、小一時間問い詰めてやりたい。
ちいちゃんみたいに、綺麗だったら、きっと、あの人も一発のはず。
やっぱり、神様はずるい。
ちぃちゃんは、あれで、勉強も出来て、運動神経もいい。
中学のころにやってたバスケットでは、全国大会優勝を経験して、おまけに自分はMVP。
なのに、私は、勉強も運動神経も人並み程度。
全く太刀打ちできやしない。
悔しい。
だけど、不思議とそんな彼女に嫉妬する事はない。
かなわないと思うと同時に、私にとっての憧れなんだと思う。
まさしく、私の描く理想像だから。
「で、そんだけ、あんたの顔をくちゃくちゃにさせるような、出来事ってなんなのよ?」
それ以前に、それを見せびらかしたりしないからなのかもしれない。
ため息混じりにめんどくさそうにそういう彼女には、どこにも媚へつらったところはない。
それこそが、彼女の魅力なのかもしれないけれど。
きっと、そんな魅力を持っていれば、さすがのあの人もいちころだと思う。
「ずっとずっと片思いしてた人が、こっちに戻ってくるんだ」
私がずっとずっと思い続けてきたあの人を振り向かせる事だって出来るかもしれない。

「つまり、華が小学生のころに会った憧れの人が、大学卒業と同時にこっちに戻ってくるってわけね?」
あらかた、説明し終わったところで、ちぃちゃんがかいつまんだ経過を言う。
ちなみに華と言うのは、私の名前で、本名は木下華。
「なんて言うか……お疲れ様、っていう感じね」
で、その後、ため息混じりにそんな事も言われた。
まあ、確かに、そんな感想を言われるのは仕方ない。
私のその六年越しの片思いを知っている人はみんなそう言うし。
でも、そんなに長い片思いになったのは、仕方ないと言えば仕方ないのだ。
私が初めて会ったのが、小学校五年生の秋の終わり。
あの人が、高校二年生、ちょうど今の私の年頃のとき。
どう考えても、小学生と高校生に接点なんかないから、思いなんて告げられない。
会った事だって偶然だったし。
友達と映画を見に行ったとき。
子供だけで見に行くのは危ないからと言って、その友達のお姉さんに一緒に言ってもらったんだけど、その時に、偶然にあの人に会った。
そのお姉さんが、あの人のクラスメイトで、友達と映画を見に来ていたんだけど、ちょうど見る映画も同じだった。
だから、一緒に行動していたんだけど、そのときの表情がすっごく可愛かった。
動物の感動物の映画だったんだけど、可愛い仔犬が出てくると、もう目じりを下げて、とろけるような顔をして、いざ、感動シーンに入ると、ぽろぽろと涙をこぼす。
男の人の泣き顔って印象があんまりいい物じゃないのかもしれないけど、あの人が泣いているところは、妙に愛嬌があって可愛かった。
で、その事を、あの人と別れてから、お姉さんに言ったんだけど……
「あんたの趣味も悪いわね」
ちぃちゃんと同じ事を言った。
そもそも、年上の人に憧れるんだったら、普通は、かっこよかったり、頼りになりそうだったり、男らしいところ。
それを踏まえたら、涙もろくて、男らしさのかけらも見当たらないあの人は、当てはまるわけがない。
「そんな事ないもん。すっごく可愛かったんだもん」
だけど、私には、そっちの方が良かった。
心の底からほっとするような、癒されるようなそんな感じ。
なんだか、ありのままの自分を受け入れてくれそうな、そんな感じがした。
「それに、割と頼りになるんだよ?」
確かに、一見すると頼りなく見えるあの人。
私がいつも見てたあの人の表情は穏やかで、温かみのある感じだった。
だけど、それだけじゃなかった。
ただただ、可愛いだけの人じゃなかった。
あったかくて、優しくて、そして、本当に、強い人だった。
辛そうにして居る人を見ると、手を差し伸べる、そんな人だった。
そんなあの人の人間性に私は自然と惹かれていたんだ。
「まあ、いいわ。でも、直接的なつながりはないんでしょう?」
「うっ」
と、ここで痛い一発。
彼女の言うとおり、確かに、直接的なつながりはない。
たぶん、あの人にとっては、私は、元クラスメイトの弟の友人。
いや、もしかすると、恋人と思われていたかもしれない。
小学五年生となれば、男女の性別の差もなんとなく感じてくるようになる。
そんな状況で一緒に居るんだから、そう思われていた可能性もある。
そう考えると、あまりいい状況ではない。
だけど……
「ちゃんと環さんに紹介してもらうから」
ちゃんと約束を取り付けている。
もちろん、環さんと言うのは、さっき言ったお姉さんの事。
「前は小学生だったから、だめだけど、高校生になった今なら恋愛対象に入るはずだし」
六歳差は大きい。
だけど、高校生と社会人なら、まだ大丈夫。
世間的に見ると、あんまりいい目で見られないかもしれないけど、それでも、十分にまだありえるカップリング。
その年にようやく追いついた。
だから、こうして、こっちに戻ってくれるのは、本当にうれしい。
絶対に、彼女にしてもらう。
そのために、ずっと私は、自分を磨いてきたんだから。
まあ、それが、成果に結びついたのかどうかはわかんないけど。
でも、ずっと変わらず思い続けてきた気持ちだけは負けないつもりだ。
「ふーん。まあ、それなら、頑張んなさい」
だけど、目の前にいる彼女は、なんだかつまらなさそうに答える。
もしかして、今まで、一度もその事を言わなかったのをすねてるのかもしれない。
彼女は、どこか自分の事を、私の保護者みたいに思っている節もあるし。
「うん、ありがと。頑張るね」
でも、これだけは、彼女頼みというわけにもいかない。
環さんに協力はしてもらってはいるけど、勝負は自分でつける。
じゃないとあの人に対して失礼だし、それに……
出来る限り、自分自身の力だけで向き合えないようじゃ、やっぱり彼にはつりあわないように思う。
そのためにも、彼女には悪いけど、今回は自分の力で頑張りたい。

「やぁ、久しぶり」
「うぃ。元気そうだな」
環さんと彼――たすくさんは、いかにも親しげと言った感じで、あいさつを交わしている。
なんだか、ちょっと嫉妬。
そりゃ、元クラスメイトだから、親しいのは分かるけど、やっぱり、ちょっと羨ましい。
特に、私なんかは、ずっと遠くで見てるだけだったし。
もちろん、せっかく紹介してくれてる環さんに失礼だと言う事ぐらい、百も承知だけど、やっぱり、ちょっと嫉妬してしまう。
「で、この子が華」
「木下華です。涼風高校の二年生です」
ぺこりと頭を下げる。
一瞬黒い事を考えてたせいで、慌てかけたけど、ここはもう慣れ。
祐さんに相応しい女になるために、努力を繰り返してきた。
冷静沈着はお手の物。
「覚えてる?昔、映画館で一緒になったでしょう?」
「あー、うん、覚えて……」
「ない、でしょう。そのいいかただと、って、華も泣きそうな顔しないの」
けれど、それもあっさり瓦解。
環さんはそういうけど、そんな事言われても無理だ。
こっちは、何年も、本当に何年もずっと祐さんの事がずっと好きで、ずっと見続けてきたのだ。
もう、それは、どこのストーカーだと言われてもおかしくないほど、見続けてきた。
なのに、覚えてもらってないだなんて、そんなのひどすぎる。
「ごめんね、木下さん」
謝られても、嬉しくない。
ただ覚えて欲しかった。
忘れて欲しくなかった。
「ホントに覚えてないの?」
「うーん」
もう一度、環さんが振ってくれるけど、彼は難しそうな顔をして考え込む。
たぶん、思い出せてない。
寂しい。
告白する以前の問題だ、これじゃあ。
「とりあえず、最後に映画を見たのは、高2の秋で、小学生と一緒にいたのは、覚えてるんだ。でも、あれって、男だけじゃなかったか?」
もういいです。
これ以上、傷に塩を塗りこまないでください。
そう言おうとしたところでの彼の言葉の続き。
「いや、確かに、華ちゃんも、って……ああ、そゆことかぁ」
で、環さんもなんとなく話が読めた感じの顔。
そして、一人だけ分からない私。
置いてけぼり?
「ほら、ショートカットで天然でボケボケな子がいたでしょう?」
「ああ、はいはい、いたいた。なんか、質問に対して返って来る答えが、微妙にあってない子だよな?」
「そうそう、その子。その子が、華ちゃん」
「はっ?」
彼の時が止まった。
そして、それと同時に私の時も止まった。
二人して完全に止まった。
「今の華ちゃんから想像したって、分からないだろうけど、あのときのいかにも男の子、って感じで、天然ボケボケな子が、華ちゃん。分かる?」
そんなふうに環さんは聞くけど、目の前にいる祐さんの顔を見ればすぐに分かる。
『全く分からない』
そんな感じの顔。
「うーん、こりゃ、ダメだ。仕方ない。ちょっといきなりだけど」
不意にぐいっと環さんが私の肩を抱くと、耳打ちをしてくる。
『告白しちゃいなさい。祐さんのために一生懸命綺麗になりました、て』
「ぇええ!?」
それは、無理。
いきなり過ぎて無理。
てか、いきなり告白して、オーケーなんてもらえるわけがない。
「大丈夫。こいつ、今フリー、というか、恋人いた事ないから」
いや、それは知ってるんだけど、と言いそうなったけど、とりあえず、問題はそっちじゃない。
何故、それを知ってると聞かれると、そこらへんは乙女の秘密としかいいようがない。
恋する乙女は無敵なんです。
「じゃ、祐、華ちゃんの事よろしくねぇ」
なんて、脇道それてる内に、環さんは帰っていく。
取り残される二人。
なんて言うか……
どうしたものか。

「で、結局、どうなったわけ?」
「振られちゃった」
結論から言うと、勢い任せで告白した結果、振られた。
「の割りに嬉しそうだけど?」
「えへへ〜、分かるぅ?」
けれど、出てくる言葉はとろける言葉。
いや、まぁ、確かに振られた。
もう完璧に振られた。
だけど、それだけじゃない。
それだけじゃないから、こんな
「いや、きもいから。ああ、でも、男は、そんな顔の方がいいんだっけ?」
なんとも失礼ないい方をされてしまう顔をしてしまう。
「むー、ちぃちゃんひどいよー。でも、今日は許してあげる」
でも、今の私は絶好調。
今なら、いきなり抜き打ちテストだって言われても、笑顔でやっちゃう。
点数は悪いだろうけど。
「で、何がどうなったの?」
けれど、そんな私と対称的にちぃちゃんはイライラ。
どうしたんだろう?
もしかして、あの日だろうか?
「あのね、確かに振られたの」
思い返す、あのときの祐さんの言葉を。
『ありがとう。そこまで思ってくれるのは嬉しいし、正直すっごくどきどきしてる』
そう言って照れた顔はすっごく可愛かった。
いやん、もう、きゃああああ、みたいな感じ?
こっちが恥ずかしさで壊れちゃいそうなぐらい可愛かった。
『でも、今は、正直、木下さんの気持ちには答えられないんだ。それだけ思ってくれてるんだから、こっちも少しだけ時間が欲しい。今の答えは、ノーだけど、もう少し時間をちょうだい?しっかりと考えてから、真摯な答えを出したいんだ』
だけど、次に出てきた表情はすっごくかっこよかった。
もう、大人の男、みたいな感じで、どきどき。
前から素敵だったけど、しばらく会えない間にさらに素敵になってた。
そこまで、言われたら、仕方ない。
それに、答えはなんとなく、限りなくイエスに近いノー。
だから、待つ。
待てる。
「なんていうか、きもいわねぇ」
とりあえず、仕方ないから、端折って説明したんだけど、それは聞き捨てならない。
「ちぃちゃん、ひどいよ!!すっごくカッコいいんだからね、しかも可愛いし」
祐さんは可愛くてかっこいいんだ。
「いや、まあ、華がそれだけ惚れるんだから、そうなんだろうけど、私には無理って話し」
うー、なんとも言い返しがたい。
人の好みは、人それぞれだから、仕方ない。
でも、祐さんを貶されるのはいや。
だけど、もし、ちぃちゃんが祐さんを好きになったら……
「うん、分かった、ちぃちゃんには、会わせないよ。絶対に会わせないようにするよ」
とりあえず、会わせないでおこう。
もし、ちぃちゃんが祐さんを好きになられたら……
絶対、私じゃ勝てない。
もう、美人で才色兼備なちぃちゃんの相手になるわけがない。
だから、会わせないでおこう。
それにしても、祐さん。
早く私の事を好きになってくれないかな?


ずっと前の書きかけの奴を書いたんだけど……
うわぁ、ひでぇ……
ひどすぎて、穴があったら入りたい。
でも、アップする辺り、救えないなぁww













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