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雪の降る日に
作:火水 風地


 まるで純白の羽のようだった。

 観ているだけで吸い込まれてしまいそうになる程の黒色空。そのひしめきあう黒の間から宝石のように輝く雪が生まれ、降りてくる様は美しいの一言ではとても片付けることが出来ないように思われた。心癒される幻想的な光景という言葉でもそれに見合うか分からないほどその光景は素晴らしく、見惚れる僕の心を深くしっかりと掴んでいた。

 「きれいだね」

 隣に肩を寄せる彼女は、白く穢れの感じさせない息をその小さな口から漏らしながら僕にそう言い、子供のような無邪気さでほほ笑んだ。

 「そうだね」

 答える言葉を探そうとはしなかった。いや、できなかった。彼女の魅力的な笑みに僕は一時、心を奪われていたのだから。

 「なつかしいね」

 迷い込んできたかのような弱弱しい孤高の風が彼女の髪を柔らかに靡かせていった。馴染みのある、なつかしさを感じさせる香りが少しの間、僕を苦い回想へといざなった。

 「あの時は渡せなかったな」

 不意に口から零れてしまった言葉に彼女は気づいていないようで、乱れた漆黒の髪を丁寧に整えていた。僕は彼女が聞いていなかったのを知ると心の中で安堵し、凍りそうな程冷え切った空へと緊張の息を解き放った。

 「なにを渡す気だったの?」

 背筋が反射的にピンと伸びた。胸の鼓動が想いを伝えろと急かすように速まっていく。こんなに寒い夜なのに僕の身体は熱く火照っており、その僕の心は沸騰でもしているかのように忙しなくコポコポと緊張という名の空気を生み出していた。

 「き、聞こえちゃった?」

 「聞く気はなかったけどね」

 彼女の表情は真剣なものだった。僕がこれからすることに、もしかしたら気づいているのかもしれない。

 「そう……あの……貰ってほしいモノがあるんだ」

 唐突すぎたのかもしれないし、あまり彼女にプレゼントをしたことがない僕が、なんの前触れもなくそう言ってしまったから驚いてしまったのかもしれない。彼女はその濁りのない瞳に僅かな驚きの色を混ぜていた。

 「……貰ってほしいモノ?」

 僕は自らのポケットに慎重に手を入れ、四角くなめらかな箱を丁寧に掴み、彼女の目の前に無言で突き出した。

 「………………」

 「け、結婚してくださいぃ!!」

 僕の手に乗る小さな小さな箱を手に取った彼女は、その箱を開けることなく俯いた。

 「ど、どうしたの?」

 どうして彼女がその顔を伏せてしまったのかは分からなかったが、心配になった僕はまだ解けない緊張のせいで震える声を、なんとか平常に近づけてそう言葉を投げかけた。

 「…………」

 返事のない彼女のことがさらに心配になった僕は、彼女の顔を覗き込むようにしゃがみこんだ。

 「…………」

 それでも彼女はなにも言ってくれなかった。もしかしたら僕が突然あんなことを言ってしまったからかもしれない。

 「ごめん……迷惑だったよね……」

 頭を下げた僕は彼女の立つ地面に雪よりも柔らかで温かい雨が降っているのを見た。途端に彼女は言った。

 「……そんなに……私の……泣き顔み……見たい……の?」

 僕の立つ地面にも涙が落ちた。
 

 

 














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