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星間恋愛

星間合コン

作者:28号
「エビさん超カワイイ!」
 と口々に歓声が上がるこの状況に、私の我慢は限界だった。
 友達がセッティングしてくれた「イケメン(高給取り)との合コン」。
 その席になぜか紛れ込んでいた知り合いの顔を見た瞬間から腹は立っていたが、その知り合いをちやほやする友人達の反応がとにかくいけ好かない。
 なにせ私の知り合いこと『アリウスフォルゲリガヒスダルガソエコロ』649才、通称「アリウス」はイケメンにはほど遠い男なのだ。
 確かに奴は金持ちだし、宇宙騎士の称号を持つ高ステータスな男ではある。
 けれど奴は5年ほど前にカヒスダ星から婚活目的でやってきた地球外生命体であり、その見た目は、地球にすむ海洋生物エビに酷似しているのである。
 一応2足歩行が可能な生命体ではあるが、体が硬い甲殻に覆われ、頭には触覚がはえ、目は無駄につぶらなのだ。
 そのあまりに滑稽な姿のおかげで、彼は649と言う年齢(地球人の年齢でいうと40くらいらしいが)になっても未だ異性とおつきあいできず、私の勤める異星人用婚活支援会社「ラブスター」の上客となっている。
 故に彼がこうして合コンに現れるのは、おかしい話ではない。
 家族からもそろそろ結婚しろとせっつかれているようだし、奴の外見では我が社の紹介や婚活イベントだけでは絶対に相手が見つからないのも薄々わかっている。
 だから合コンに参加するのは別に構わないのだけれど、どうしてよりにもよって私の合コンなのだと腹は立つのである。
 私も、正直そろそろ相手を見つけねばまずい年齢だ。
 全宇宙規模で雌の数が減少傾向にある今、女子は引く手あまたなので20代前半で伴侶を見つける女子はかなり多い。
 その上地球人は「彼女にしたい生命体ランキング第5位」なので、相手を求めて地球にやってくる雄の数もかなり多い方だ。
 そんな好条件がそろっていながら、28にもなって未婚というのはなかなかに肩身が狭いのである。
 だからこそ危機感を感じ、バツイチの友人が企画する合コンにこうして参加したというのに、よりにもよって目の前の席に座っているのは知り合いのエビだ。
 ちなみにその両隣はイカとカニに似た姿の異星人である。
 というか、男性陣は見事にゲテモノ揃いだった。 正直イケメンのイの字もない。
「……ルミちゃん、ちょっと」
 そんな状況をこのまま見過ごすわけにもいかず、幹事である親友に私はそっと声をかけた。
 なにせゲテモノ揃い過ぎて、あのエビがモテモテという異常事態なのだ。
 超かわいいとか言われちゃう事態なのだ。こんなのは合コンではない。と言うか合コンだとは認めたくない。
「えー、ルミアリウスさんのお話もっと聞いてたい」
「ぶりっこは良いから来い、殺すぞ」
 と言う台詞は極力声を抑えていって、私は親友のルミをトイレまで引っ張っていった。

■■■      ■■■

「で、この状況は何なの?」
 人気がないトレイにルミを連れ込み、化粧を直す彼女を私は睨む。
 けれど返ってきた視線と声音は、こちらの怒気をそぐ酷く穏やかな物だった。
「素敵な人たちでしょ?」
「本気でそう思うなら、眼球をインプラントにした方が良いと思う」
 あれのどこがイケメンなのかともう一度、今度ははっきり言葉にして尋ねると、ルミは携帯電話に送ってきたメールをもう一度見せた。
「私、外見がイケメンだなんて一言も書いてないし」
「は?」
「ほら、ここ! よく見て!」
 メールをホログラム化し、さらに拡大までしてみせるルミ。その指先に目をこらすと、イケメンの前に(性格が)というもの凄く小さな文字が見える。
「……これ、どういう意味?」
「私ね、前の旦那と別れて思ったの。やっぱり、結婚相手は顔で選んじゃいけないなって」
 確かに、ルミの元旦那は『宇宙一セクシーな生命体第1位』のアイドラン星人だったが、金使いが荒く手が早いというすさまじい欠点があった。
 そして彼は結婚半年で女を4人も作り、挙げ句の果てにルミの貯金を奪って失踪したのである。
 だから彼女の言葉に説得力はある。あるけどもしかし、この書き方は明らかに詐欺である。
「性格がいいって言っても、あの外見はちょっと酷すぎない?」
「えーでもアリサ、あのエビさんとデートしたんでしょ?」
 まさかここでその話を持ち出されるとは思わず、私は思わず声を詰まらせる。
「だから、ああいうの許容範囲だと思ったんだもん」
「でも、デートがいかに悲惨だったか話したじゃない」
「確かに聞いたし笑えたけど、話してるときのアリサ凄く嬉しそうだったしさ」
 それになにより、アリウスさんカワイイしいい人じゃない。
 と笑顔で言い切るルミには頭が痛い。
 何せルミに話したアリウスとのデートは、私の黒歴史の一つなのだ。
 私が奴とデートをする羽目になったのは1ヶ月前のこと。
 私たちは婚活会社の顧客とその担当という関係だったのだが、なぜか奴が私に惚れ込み、色々あってデートをすることになったのだ。
 もちろんエビは私の好みではない。けれど彼の提案したデートは恐ろしいほどロマンチックだったし、何より奴は「人間になれる!」と豪語したのだ。
 それも私が大好きな俳優、ジーンケリーになれるとまで言ったのだ。
 だから渋々OKしたのだが、もちろんそんな甘い話はなかった。
 やってきたアリウスは確かに人間に変身していたものの、その格好は、あまりに酷い物だったのである。
『お待たせしました!』とやってきた奴は、なぜか地球の原住民を思わせる腰巻き一枚だった。
 その上普段のエビ顔を思わせる謎の仮面もかぶっていた。
 これがもう酷い。とにかく酷い。
 彼曰く、それはカヒスダ星の正装らしいが地球的には変質者そのものである。
 仕方なく側のデパートでスーツを買わせたが、着替えると今度はいつものエビに戻っているという有様だ。
『僕、緊張すると変身が続かないんです』とテヘッと笑うアリウスを問いただしたところ、あの正装+仮面は彼が一番リラックスできる格好らしい。故にアレを着ていないと緊張して変身がとけてしまうというのだ。
 つまり、腰巻き一枚のイケメンとデートをするか、スーツ姿のエビとデートするかの二者択一を迫られたのである。
 まあそもそも、変な仮面のせいでイケメンかどうかも怪しいと言う状況だ。
 あと『ジーンケリーはやっぱり難しかったみたいで、目つきが悪いって言うか、顔がヤクザみたいになっちゃって……』と言い訳までされたあたり、そもそも仮面の下がイケメンである保証もないのである。
 そんな状況で、腰巻きと付き合う選択肢はない。
 だから結局私はエビを選び、ひとまずデートは最後まで完遂した。
 けれどもちろんそれだけだ。
 始終「付き合ってほしい」的なことは言われたが、ひたすらにはぐらかした。
 だって奴はエビである。よくても腰布一枚の男である。
 確かに私は売れ残りだし男をえり好みしている余裕はないが、やっぱりエビはない。絶対にない。
 と言うわけでその後のデートも断り続け「もうっ、僕デートとかしちゃいますから! 違う女の物になっても知りませんからね!」と仕事場でなぞの逆ギレをされたのは先週のこと。
 それならそれでいいかと思い、こちらも合コンを入れたわけだが、まさかそれがアリウスの参加する合コンだったとは夢にも思わなかった。
「まあ確かに、あいつ性格とステータスだけはいいと思うけどさ」
 でもせめて……せめて甲殻類以外の男との合コンであってほしかったと私は思わずこぼす。
「じゃあさ、ルミがアリウスさんお持ち帰りして良い?」
「本気で言ってる?! あのエビだよ!?」
「性格は良さそうじゃない。それに、お金も沢山持ってるし」
「でもエビだよ。あれとその、お持ち帰りって言うのはまさか……」
「確かに体は硬そうだけど、身体構造はヒトとにてるっていってたし、できないわけじゃないんでしょ?」
「できるかもしれないけど、やりたいの?」
「雑誌で言ってたよ、見た目の相性が悪い人ほど意外と気持ちいって」
 もの凄く嘘くさいが、ルミはその言葉を信じるらしい。
「アリサがいるから遠慮してたけど、要らないならルミもらっちゃうね」
 28にもなって未だぶりっこが抜けないルミらしい宣言を残して、彼女は一足先にトイレを出て行く。
「ほしいならあげるけどさ……」
 思わず呟いてから、私は小さなく息をのんだ。
 あげるも何も、そもそもあのエビは私のものでは無い。
 それに気づいて、まるでアレを所有物のように思っていた自分に愕然とする。
 あのエビは彼氏ではないし、彼氏にしたいと思ったことはない。それにあのデートだって、確かに食事は素敵だったけど、アリウスは緊張しどうしで失敗ばかりするし、そもそも出だしが腰布だったし、まるでコントのような物だったのだ。
 二度目は絶対無い。ありえない。そう思い続けてこの1ヶ月奴の誘いを断り続けてきたのだ。
 だから別にルミでも他の女子でも、持って行ってくれるならむしろハッピーだと言い訳を重ねて、私は小さく息をついた。

■■■      ■■■

 結局、その日の合コンは最初から最後まで散々だった。
 私以外の女子達がエビに入れ込んだせいで、私はイカとカニ両方の相手をせねばならなかったのだ。
 特にカニの方は私を完全にロックオンしたらしく、始終こちらの手を握ろうとはさみをすり寄せてくる有様だ。
 その一方エビはルミを筆頭に女子達にモテモテで、帰り際にもなると4人の女子に囲まれてたじたじだった。
 そのどことなく嬉しそうな顔が更に腹立たしく、私は店を出て早々に帰る決意をする。
「じゃあ、あとはお好きに」
 二次会に誘われる前にと先手を打ち、私は近くの駅へと歩き出した。
 カニが追いかけてきそうだったが、無視してやりすごす。今日はもう、甲殻類にいらいらさせられたくない。
 そう思って駅へと急ぎ、改札をくぐろうとしたとき、私は携帯電話を忘れてきたことに気がついた。
 そういえば、携帯の話題になったとき鞄から一度出した気がする。
 あのカニめ、いらん話題を出しおってと勝手に腹を立てつつ、私は仕方なく居酒屋に戻ることにした。
「あ、あの……」
 とあまりに情けない声が聞こえてきたのはそのときだった。
 振り返ると、そこにあったのは側の自販機に身を隠すようにして、こちらを見ている赤い触手とつぶらな瞳だった。
「なぜいる」
 腹を立てていたのはカニにだが、似たもの同士だったせいか思わず語尾がキツくなる。
 それにびくっと触手を揺らしたのは、先ほどまで女子に囲まれていたアリウスである。
「け、携帯を届けに……」
 恐る恐る自販機から体を離し、アリウスは私の方へと歩いてくる。
「エンデリンさんが行くって言ったんですけど、何か妙にハァハァしながら泡吹いてたんで嫌な予感がいて」
 あの人、ちょっとストーカー気質なところがあるからと言うエビの口調からすると、どうやらカニとはそれなりに親しい間柄らしい。類は友を呼ぶと言うことか。
「ありがとうございます」
「い、いえっ、僕も、アリサさんとお話ししたかったし」
 情けなく触手を揺らし、つぶらな瞳が切なげに揺れる。
 それにうっかり目をとめていると、エビが私の携帯を片手にモジモジしだした。
 これはなにやらまずい雰囲気かもしれない。
 そう思って携帯を奪い返そうとしたとき、エビは突然姿勢を正した。
「あの、今日の合コン、僕数あわせですから!」
「え?」
「まっ前に合コンに行ってやるって言いましたけど、あれうそですから! 今日もエンデリンさんが無理矢理誘うから来ただけで、彼女とかつくる気ないですから!」
 必死に言葉を繋いで、モジモジしている姿を見ればさすがの私も奴の言いたいことはわかる。
 わかったからこそ、なんだかちょっと落ち着かない。
「別に、あなたの恋愛に口だしするつもりはないですし」
「で、でもあの、一応好きだと告白した身ですし……。それに、僕はまだその……」
 好きでちゅ。
 と語尾を噛んだのはいただけないが、つぶらな瞳にまっすぐ見つめられると、正直私はちょっと弱い。
 もちろんときめいているわけではない。断じてない。奴には愛玩動物を思わせる妙な可愛さがある故、じっと見つめられたり、まっすぐな好意を向けられると何とも断りづらいのだ。
 けれどそのまま見つめ合っているわけにも行かず、私は奴の手から携帯を奪う。
「べつに、そんな事聞いてません」
「すみません」
「それに、せっかく本気で狩りに行ってる子がいるそれを残してくなんてもったいない」
「いや、でも僕は……」
「私が好きなのは知ってますが、チャンスはもう少し生かすべきでしょう。そんなだから、649歳になっても結婚できないんですよ」
 うっかり仕事口調で指摘してしまうのは、もう五年も彼の担当をしているからだ。
 まあ奴が五年も足繁く婚活会社に足を運んだ本当の理由は私への好意なのだが、その間に奴がやらかした女子への失敗は数え切れないほどだったので、ついつい叱り癖がついてしまっている。
 けれど私が怒り出すと、アリウスは妙に嬉しそうに触手をチロチロしだした。
「なんか、やっぱりいいですね」
「いいってなにがですか?」
「僕、アリサさんに叱られるの好きです」
「変な主張をしないでください」
「でもあの、本当に好きなので」
 エビにはもったいない美声でそう言うと、アリウスは私へと一歩近づく。
 ここで磯の香りでもすれば現実に引き戻されるのに、このおしゃれなエビは無駄に良い香りを放っているのがにくい。
「だからあの、よかったらもう1件行きませんか? 今日のだめ出しでも、愚痴でも何でも聞きますから」
「私、もう帰る所なんです」
「でも今日、アリサさん全然飲んでなかったでしょ? 本当は飲み足りないんじゃないですか?」
 なぜわかった……と言葉には出さなかったが、アリウスは図星だと気づいたらしい。
 嬉しそうに触手を揺すると、嫌みの無い手つきで私の手を取った。
「このあたりに良い感じの居酒屋さんがあるんです。アリサさん、おしゃれなバーより純和風な居酒屋さんの方が好きですよね」
「す、好きだけどそんな話しましたっけ……」
「この前のデートの時、酔った勢いで色々しゃべってましたよ」
 記憶にない、と言いかけて私ははっとする。
 実を言えば、あのデートの後半については記憶が曖昧なのだ。
 私はお酒を飲むと記憶が飛ぶたちで、デートの時もワインをあけすぎてしまったのである。
 でもさすがにアリウス相手に朝チュンと言う事態にはならず、翌日は自宅でちゃんと目を覚ました。むろん服も着ていた。だから何事もなかったと思ったのだが、どうやらいらんことを色々しゃべっていたらしい。
「……あの、他に変なことは言ってなかったですよね?」
「じゃあ、その話を是非居酒屋で」
 さりげなく腕を引かれ、気がつけば足が動いていた。
 こいつ、女慣れしていないくせに妙にそつが無い。
 先ほどの件を思い出し、実はこう見えて女にもてるんじゃないのかと勘ぐっていると、つぶらな瞳がこちらを見た。
 どうやら、またしてもこちらの考えを読まれたようだ。
「仕事柄、女性のエスコートをする機会は多いんです」
「じゃあ何で私のデートの時はあんなだったんですか」
「好きな人の前だと緊張しちゃうからです。でも今日は、その、手放したらいけない気がしたので」
 ヒトより硬い指にちょっとだけ力を込めて、アリウスは視線を下げる。
「合コンの席でアリサさんを見るとき、僕死んじゃうかと思いました」
「大げさな」
「だって好きな人が合コンですよ! アグレッシブにお相手探ししてるんですよ、そりゃあ慌てますよ」
 それに僕、こんなりですし……と、アリウスは触覚を力なく垂らす。
「黙ってるだけで絵になる男ならともかく、エビの僕が手ぐすね引いてても絶対好きって言ってもらえないってようやく気づいたんです。だからその、僕ももう少しアグレッシブに行こうと思って」
「アグレッシブすぎて、ストーカーとかにはならないでくださいね」
「こう見えて、節度はわきまえています」
 だから今日も、我を失うほどは飲ませませんからとアリウスは言う。
「アリサさんの限界もこの前のデートでわかりましたし」
 とまで告げられてしまえば、その限界を超えた自分が何をしたのか更に気になってくる。
「あの、間違いは犯してないですよね」
「はい、それはないです」
 ただ……と口ごもったアリウスに少々嫌な予感を覚えていると、彼はちらりと私を盗み見た。
「惚れ直しました」
「……やっぱり間違いを犯してるじゃないですか」
「かわいかったってだけですよ! 色っぽいことは何にもありませんでした!」
「でもあなたに惚れ直されるような事象が起きている時点で色々間違いなので」
「さりげなく酷いこと言わないでください!」
「だってデートは1回だけって決めてたし」
「……切り捨てる気満々だったんですね」
「そもそも、腰布できたのはあなたの方でしょう」
「だから、アレは勝負着だったんですってば!」
 自分の住む惑星ではあれ以外の服は失礼に当たると言うアリウス。でも地球人的にはあの服の方がよっぽど失礼だ。
「っていうか、NGなデート服があるなら先に教えておいてくださいよ。婚活イベントにあの服着ていきましたよ僕!」
 だから時々苦情がきたのかと今更ながらに納得した。「あの人だけは無理です」という女子の叫びはあの腰布が原因だったに違いない。
「……普通、それくらい知ってるかと」
「この年までろくに彼女がいなかった僕を嘗めないでください!」
 そこは胸を張って言うところではないが、それ以外に胸を張れるところもないのだろうなと思うと咎めることもできなかった。
「……わかりました。じゃあお酒を飲みながら、地球人的にNGなデートを教えましょう」
「あと、アリサさん的にNGな物も教えて頂けると助かります」
「行っておきますが、2回目のデートはないですよ」
 これだけははっきり断言せねばと語尾を強める。
 けれどエビはどうも動じない。
 それを勘ぐっていると、奴は懐から紙切れのようなものを取り出した。
「……銀河英雄アレンドロンのコンサートチケットがあると言ってもですか」
「アレン……ドロン……!?」
 思わず息をのんだのは、彼が口にしたのが私の大好きなロックバンドの名前だったからだ。
「あれ、開始10秒で全席完売した奴ですよね!」
「僕、騎士をやってたとき何度かアレンドロンのSPしてたんです。それが縁で、コンサートには毎回誘われるんです」
「エビのくせに生意気な!」
 うっかり素に戻ってツッコんでしまったが、アリウスは聞き逃してくれた。
「ちなみに、バックステージパスももらってます」
「それってつまりアレンドロンと……」
「全員と会えて話せて握手ができます。僕、ボーカルのスティーブンとは親友ですから」
「……酷い、よりにもよってアレンドロンでつるなんて酷い」
「言ったじゃないですか、僕アグレッシブになるって」
 だから使える物は何でも使いますと、エビは胸を張る。
「それで、来週の日曜日はあいていますでしょうか」
「……死ぬ気で開けます」
「よかった」
 でも……と続けようとした言葉は、唇に触れた硬い指先が止める。
「普通の服で行くし、ご飯以上の行為には付き合わせません。それに、その場で僕と付き合えなんて言いませんから」
 どこまでも紳士的なのが更に小憎たらしかったが、拗ねた気持ちはきっと見透かされているだろうからもう隠さない。
「……ぜったい彼女にはなりませんよ」
「今はそれでも良いんです。一緒にいられれば、それだけで幸せなんです」
 穏やかな声でそんな事を言われたら、うっかり妙な心地になってしまうではないかと私はうめく。
 けれど聡いところがある割に、アリウスは私の好意には絶対に気づかないのだ。だからこその649歳独身なのかもしれないが。
「でもまずは居酒屋です。火星産の焼酎がおいしくて、アリサさんにずっと飲ませて上げたかったんです」
「焼酎好きなの、言いましたっけ」
「ええ、酔った勢いで僕を殴り飛ばしながら大声で主張してました」
 やはり、これはちゃんと話を聞かなければ。
 新しく黒歴史の一つになりそうな予感はしていたが、私は改めて背筋を伸ばす。
「今のうちに謝っておきます。色々粗相してすみません」
「大丈夫です、そこも含めて好きですから」
 不意打ちで告白を挟むのはやめてほしいと思ったが、今それを言えば自分の照れが声に乗るのは明らかだった。
 そしてその後ろにある芽生え始めた小さな好意を彼に気づかせてしまうかもしれないと思うと、どうしても声が出ない。
 だってこの好意は、一種の幻覚のような物だ。
 たしかにアリウスは紳士的だし優しいが、やっぱりエビなのだ。
 エビに手を出すのは、せめてルミのようにイケメンで失敗してからにしたい。いやイケメンでなくても良い。とにかく甲殻類に似ていない男と一度で良いからいい仲になってからにしたい。
 そんな事を思いつつ、さりげなく絡められた指を意識しないように、私はアリウスから遠い方へ遠い方へと視線をそらせた。


星間合コン【END】

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