第二:金色の氷 part2
数分かけて着いたのは、高等部校舎の裏にある非常に大きなホール。 形的にはよくある体育館に近いだろうか。
中に入ると、そこはやはり広い空間だった。 高さはおよそ6、7メートル。 横と縦はそれぞれ30メートルと40メートルといった所だろうか。
そして、今現在いるギャラリーの5メートル位下の所には横20メートル、縦30メートル程度の空間に、生徒が二人居る。
二人のうち一人は、おそらく高等部の男子生徒だ。 この学園は私服製なので、判断し辛いが、とりあえず顔と雰囲気でそう判断した。
体中傷だらけで、そうとう辛そうな表情をして肩で息をしている。 そんな生徒を見下すように見ているもう一人の生徒は、
「……あいつ………・」
葉月はもう一人の生徒に見覚えがあった。 入学式の時に目が合った金髪の生徒だ。 忘れるわけが無い。 というよりも、頭が忘れてくれない。
絶対零度を感じさせる氷のような青白い左目と、彼の金髪に隠れた右目。 昨日と同じ、今すぐバイクにでも乗るような格好。
そいつが、肩で息をしている相手に向かって完全に見下したような目をしながら口を開いた。
「弱いな……。 つまらない………」
まるで機械のように中身が欠けた言い方でそう言うと、いきなり金髪の少年の姿が消えた。 そう思った瞬間、上級生の後ろに風が唸り、同時に金髪の少年が姿を現した。
闘技場の内にいる全員が彼に気付いた時、上級生は何も出来ずに彼に蹴り飛ばされていた。 上級生の体が鈍い音を立ながら、二回バウンドして壁に当たる。
『強化魔法』だと、葉月は推測した。 強化魔法というのは、大気中の元素を対象にせず、自分の体の元素を操る魔法のことだ。 体の元素の位置や構造を組み変えることで、ものによっては通常の人間の倍以上に身体能力を上げることが出来る。
普通は1年の最後のほうで習う術なのだが、彼は自己流で習得したらしい。 かなりの才能の持ち主だと葉月は思った。
彼から感じられる魔力の強さは葉月と同じLEVEL3といったところか。 入学したての一年ならこれだけでもそうとうなものだ。
逆に、あの上級生から感じ取れる魔力はおそらくLEVEL4か5位。 いくら彼がすごくてもこのLEVELの差と経験は埋められない。 それが普通なのだが、どうやら今は金髪の少年の方が有利らしい。
上級生が呻き声を上げながらゆっくりと立ち上がる。 身体のダメージが大きいのか、疲労が溜まっているのかは解らないが、肩で息をしている。 立っているのも辛そうだ。
「ふざけんなよ………俺が、入学したばっかりの一年坊に負けられるかよ!!」
彼がそう咆哮し、両掌を金髪の少年に向けた。
「風よ靡け。 姿は刃。 数は八。 前方を切り裂け」
すると、辺りの風が上級生に集中し、彼の両腕にそれが纏った。、
「おい、一年。 バラバラになりたくなけりゃ降参しな」
上級生が嫌らしい表情をして金髪の少年に言い放った。 なんともまぁ、三下の言うようなセリフを吐けたなと、葉月は思った。
金髪の少年も同じことを思ったのか、小さくため息をついた。 諦めるとか、降参する気は無さそうだ。上級生は彼の心境を読み取ったのか、眉間に皺が寄っている。
「我が脚よ駆けろ。 速度は疾風。 我に降りかかる難から逃れろ」
金髪の少年は歌うように、されど速く口を動かした。 同時に上級生が風を纏った両腕を自分の体の前で交差させる。
「残念だよ一年坊! バラバラになりやがれ!」
上級生がまるで野球の審判がセーフをコールする時の様に両腕を振った。 同時に彼からものすごい突風が放たれ、それが、床や壁を引き裂いていく。
あまりにもの強い風に、観客達全員が目を瞑り、腕で顔を覆う。 愛海ワザとらしい悲鳴を上げて、しがみついてきたが、葉月はこれを無視し、ずっと下を眺めていた。
しかし風の濃度が強すぎるせいで、彼の姿を見ることは出来なかった。 何となく腹が立ち、小さく舌打ちをした。
(ふん……。 ま、たぶん当たってすらいないね)
そう適当に予想してから数秒経ってやっと風が収まった時、闘技場内はボロボロだった。 上級生の前方の壁や床に巨大な怪物が鋭い爪で引っ掻き回したような痕が付き。 床に至っては荒地のような状態になっていた。
ギャラリーの方は魔法で作られた特別な防壁があるので、下から来る攻撃は当たらないが、金髪の少年は無事ではないだろう。
そう思ったのは葉月以外の観客達だけ。
(いた………)
他の観客達よりも早く、金髪の少年の姿を葉月のブラッドアイは捉えた。
葉月の予想通り彼は無傷で、いまは上級生の真後ろにいる。 おそらく、さっきの唱えた術も、『強化魔法』だったのだろう。
上級生が彼の気配を感じたのか、後ろを振り返るが、それと同時に彼は金髪の少年に顎を思いっきり蹴り上げられる。 体が本人の身長くらいまで浮いた。
そしてそれを追う様に跳んだ彼から顔面に回し蹴りまともにくらい、聞くのが嫌になるくらい鈍い音を立てて、悲鳴すら上げずに、まるで水面に向かって投げた小石のようにスリーバウンドした後、数メートル転げまわった。
転がるスピードが次第に遅くなり、最終的には仰向けになって止まった。 顔は右頬がへこみ、目は焦点があってなかった。 どうやら完全に気絶したみたいだ。
「勝負あり………」
葉月がそう呟いた直後、ギャラリー内の観客から歓声が上がった。
金髪の少年はその歓声に興味が沸かないのか、気絶している上級生を無視して、上り階段のあるほうへ向かっていった。
彼がギャラリーに姿を現すと、皆が彼に駆け寄って「すごいね」とか、「天才だよ君」とか言っていたが、それら全てを無視して、葉月の前へ歩み寄ってきた。
愛海が警戒したような顔をしながら葉月の肩を掴んで後ろに回った。 もしかしたら、彼を恐れているのだろうか。 無理もない。 葉月ですらそうだったのだから。
葉月はそんな愛海を落ち着かせるように、一度だけ肩に置かれた愛海の手を優しくそっと撫でた。 すると愛海の手は葉月の肩からゆっくりと離れていった。
後ろにいるので彼女の顔を見る事はできないが、きっと安心したような表情をしているのだろう。 葉月は金髪の少年を見つめ直す。
昨日と状況は違うが、彼のプリズムアイと葉月のブラッドアイが互いに交じり合うような錯覚を葉月は感じた。
不思議な感じがした。 昨日と違って。 コレといった恐怖を感じない。 恐怖ではなく、こんな物が存在するのかという、驚愕だった。
それでもやはり、葉月はそれを表情には出さなかった。 そんな葉月を見て金髪の少年は口を開く。
「…………お前、名前は?」
「…………篠原 葉月………」
いきなり言われたので、内心慌てたが心を落ち着かせるために、少し経ってから応えた。
「LEVEL3位か?」
「一応校長からはそう言われた」
「…………………」
「…………………」
ものの見事に会話終了。
まぁ、元々話しがしたかった訳じゃないから別に良いが、こうなると何か空気が重い。 そう感じていると、金髪の少年がポケットからメモとシャーペンを取り出し、何かを書き始めた。
数秒後、書いたそれを葉月に差し出してきた。 受け取って見てみると、それにはアルファベットと数字の羅列が書かれてあった。
少し間をおいて考えてみたが、やっぱりメルアドだ。 どうしてコイツが自分なんかにこんな物をよこすのだろうか。 というより、話す相手がいるのだろうか。 ていうか、持っているのか?
そういうことを思っていたら、いつの間にか彼は背中を向けて出口へ向かって歩いしまっていた。 彼が出て行くまでを見送ると、葉月はあることに気付いた。
「名前聞きそびれた…………」
我ながら随分と情けないと感じ、葉月は肩をがっくりと落とした。 そんな葉月の様子を見た愛海は、何故か不機嫌そうな顔をしていた。 |