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処刑台の紐
作者:東野佳奈子
「処されるのは彼」の修正バージョンです。最後の方まで答えは言いませんので、ぜひ一緒に推理してみてくださいね!
 K市山道――。
 数台の警察車両と、数人の捜査員がいた。そこには例によって佐久間と岡本の姿もあった。服装は様々だが、事件があったということは確実だ。
 事件は死体遺棄らしい。かろうじて街灯が頼りなく灯っている道なのではっきりは見えないが、警察車両と、救急車の赤色灯が眩しかった。絶えず光り続けている。
「なんだこりゃあ。絞殺痕か?」岡本は素っ頓狂な声をあげた。確かに、遺体の首には絞められた痕が見受けられる。赤黒く変色しているのがその証拠だ。
「岡本さん、これ……擦り剥いてるような感じしませんか」
「うん? どれ……懐中電灯、寄越せ」
 そう言って懐中電灯を佐久間から受け取ると、遺体の首元を照らした。よく見ると佐久間の言うとおり、皮が擦り剥けているような痕があった。
「本当だ。でも、絞殺するときにこんな太さの紐なら、擦り剥くのは当然じゃないか? それとも何か、おまえなりの考えでもあるのか」
 佐久間は少し考え込んだ。
 ――遺体の首には直径8ミリ程度の紐で絞められた痕があり、指先には抵抗したときにできたと思われる傷が数箇所、見当たった。絞めたときにできたと思われる擦り剥き傷は、輪のように被害者の首を傷めている。そのほかの外傷といえば、頬に殴打された痕があることと、衣服が泥で汚れているということぐらいだ。
「この足跡、何だろうな。複数犯なのはまず間違いないだろ。この足跡見ても、犯人は一人じゃないことぐらいは分かるな。ううん……それにしても、この被害者取り囲んである足跡って何だ」
 岡本の言う足跡とは、被害者の周りを大きく囲むように円を描きながら踏み固められているところだ。確かに靴の跡はある。靴底に何か書いてあるのだろうが、そこまでは読み取れなかった。
 二人が考えていると、近くにいた捜査員が彼らを呼んだ。「岡本さん」
「被害者の情報です。名前は加護遼太かごりょうた、25歳です。勤め先はローレン精機という、精密機器会社です。死亡推定時刻は、今日の午後4時から6時の間と見ています」
「ローレン精機……その社名も有名だが、色々と問題があるとかで、ある意味有名な会社だな。何があったんだろう……」
「分からないですが、今こちらで分かっている情報はそこまでです。では失礼します」
 捜査員はそう言うと現場検証のために、暗闇に消えていった。岡本はじっと加護の遺体をみつめて、ゆっくり口を開いた。「リンチ、だな」
「俺はもう分かってましたけど……リンチだなんてことは」
「うるさいな、いいじゃんかよ」
「加護……なんて言いましたっけ、被害者の名前」
「うん? 加護、遼太じゃなかったか?」
「もう一度、言ってみてください」佐久間は言った。岡本は首を捻って、もう一度その名前を繰り返した。まったく状況が読み込めていないようだ。
「分かりました、多分。至急、加護の会社での交友関係を調べる必要があります」
 佐久間は自信ありげに言うと、ふん、と鼻息を漏らした。

 翌日、一晩かけて調べ上げた、被害者――加護遼太の交友関係があらわになった。彼は会社の中でも、目立たない人物で、影では相当な嫌がらせを受けていたらしいことがわかった。
「なあ、そろそろ説明してくれないか。先に俺に話してくれよ」
 岡本は待ちきれないといった様子で、佐久間に説明を強いた。すると佐久間は事務机から眠たそうな顔を上げて、にっこり笑った。
「ではまず、嫌がらせをしていたというグループの首謀者の名前を、この紙に書いてください」
 渡された紙に、岡本は名前を書いていった。首謀者と思しき人物の名前は、鬼頭忠志きとうただしだ。そして、次々にグループのメンバーを書き出していった。
「鬼頭忠志だろ、亀岡修平かめおかしゅうへいだろ、敦賀徹平つるがてっぺいだろ、吉田秀彰よしだひであきだろう……。確か、この4人じゃなかったか?」
「そうです、その通りです。何か気づくことはないですか。歌とか」
 岡本は頭の後ろを掻いて渋い顔をつくった。「ええ……歌? こいつらから気づくこと?」しばらく紙と睨み合った後、お手上げのポーズをとった。「わからんな」
「じゃあ。鬼、亀、つる、吉、秀。それぞれふりがなをふってみてください」
 言われるがままに、岡本はふりがなをふった。佐久間はコーヒーを啜りながら「どうです?」と訊いた。
「……ああ、分かった。なぞらえてあるんだな」
「お、さすが。ご理解いただけましたか。あの円を描いた足跡は、そのせいだったんです、きっと」
 岡本は満足げな表情で紙を眺めた。
「かごめ、ってか」
「ええ。かーごめ、かごめ。籠の中の鳥は、いついつ出会う? 夜明けの晩に、鶴と亀がすべった。後ろの正面だーれ? 諸説ある中でも有名なのを集めたら、その首謀者達の名前に入っている単語が出てくるんです。よく考えたとしか言いようがないのと、偶然そうなったのか、計画的なものなのか、ってところが微妙ですね」
「まあ、そりゃ取調べすれば分かることだ。しかしなあ、手柄だな」
「首の擦り剥き傷はおそらく、かごめをやった際にできたものです。籠の中の鳥、つまり被害者を取り囲んで周りの共謀者が手をとって周りを歩くでしょう。そのときに被害者の首には凶器となった紐が巻きつけられ、絞め殺される直前までは、擦り剥ける苦痛を味わっていたんでしょう。多分、その紐は犯人が在り処を知っているはずです。で、後ろの正面だあれ、で首謀者が真後ろに来るように仕掛け、最後に首を絞めて犯行は終了です」
 佐久間は言い終え、席を立ち上がると目をこすってから資料を持った。「俺の勝利ですね」
「おまえの勝ちだ。そうか……案外シンプルだったなあ……。おまえの脳味噌は単純なわけだ」
 苦笑いを浮かべながら、岡本は言った。

 その後、事件は解決したという。
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