病気のシン・レイラ
軽くも重くも、世界のあらゆる病気にかかったことのある王女。名前はシン・レイラ。
レイラは、苦しい毎日ばかり。
今日から、体の左半身がマヒしてしまってリハビリ生活です。
もうダメね。私は死ぬのかしら?
死んだら、おばあさまに会えるのかしら? そんなことを思っています。
そんなレイラを可哀そうにと、母である女王は、ある日王子を連れてきます。
レイラの花婿候補となっていた何処かの国の、王子です。
見合いで一度しか会ったことのなかったレイラは、車いすに乗ったまま出迎えて。戸惑いながらあいさつします。「こんにちは……」
優しい王子はレイラを励まします。応援します……。
「私は戦で敵と戦い剣を振るう……だから貴女も、病気と戦ってくださいどうか。そして私の元へと帰ってきてください。私を出迎えてください――貴女もどうか」
レイラは王子の言葉を胸の内に刻み込み、頷きをもって返します。
レイラは語ります。
辛いけれど、苦しいけれど。きっと乗り越えてみせる。
貴方の言葉が私を支えてくれる。頑張れるきっかけを与えてくれた。
明日からも。
私はここで貴方をずっと、待っています……。
数日後。
順調にリハビリ生活を緩やかに過ごしていたレイラの所に、悲しい知らせが入ってきました。
王子が戦で大ケガを負ったのだと。
そしてすぐにレイラの元へと向かっていると。
どうしてか?
レイラに、会うためです。
王子は言ったらしいのです。最後に。
ひと目でいいから、会いたいと――。
「セバン!」
城へと運ばれてきたセバン――王子の、寝かされている部屋へとレイラは駆けこみ、急いで傍にすり寄ります。呼びかけます。
王子は目を開けました。レイラを見ました。
横で、レイラが悲しそうに泣いています。頭をさすってあげようと、王子は手を上げかけます。
上げかけて……でも。
手は、レイラには届かず。諦めて、下にとおろしてしまいました。
「セバン……しっかりして。私がついてる。私が見ている。生きている貴方を……」
王子は言いました。「ありがとう」そして真実を口にします。
「私の目はあと……もう少しで、見えなくなるだろう……」
失明です。
目の上を斬られた王子は、医者に運ばれても。治療を受けても。
視力を失っていくのです。
……だから、『ひと目でいいから、会いたい』と。
王女……レイラに。
「貴女は生きている……生きている貴女を、しっかりと今この目に焼きつけておこう。次に目の見える時が来るまで」
そう言って王子は目を閉じました。死んではいません。
2人は生きていくのです。寄り添って。
だって、愛しあっているのですから。
……
数年後。
子どもが生まれた2人のいる国は、文明が栄えました。科学もすごく発達しました。
目玉も取り外し可能となりました。お手軽に。
そうです。
王子は、目が見えるようになっていたのです。技術のおかげで。
王子から王になったセバンは、手を繋いでいる小さな子どもに向かって言うのです。「パパはね」
遠く先でセバンたちを待っている、ママとなったレイラを横目で見ながら。
「生きている限り治らない病気はないと思ってるんだ。でもね、たったひとつだけ。治りそうもない病気があったんだよ」……
子どもにはさっぱりわかりませんでした。
さあ、何の病気でしょうね。
《END》