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降り積もる雪の如く

作者:常盤終阿
むかしむかし、ある王国に4つ季節を司る4人の女王様がおりました。

春を司る女王・チェリッシュ
夏を司る女王・サマンサ
秋を司る女王・メイプル
冬を司る女王・スノウ

女王様たちは自分が受け持つ期間になると、王国の中心にある“王都セゾン”の中央にある森のそのまた中心にある塔“ホーラータワー”に入り、そこで決まった期間を過ごすことで国に季節を廻らせておりました。

3月、4月、5月は春の女王の期間。
6月、7月、8月は夏の女王の期間。
9月、10月、11月は秋の女王の期間。
12月、1月、2月は冬の女王の期間。

女王様たちは、日頃から季節を変える力を持っているわけではありません。この“ホーラータワー”に入ることで初めてその力を解放させるのでした。そして、女王様たちが塔に入らなければ季節が廻ることはなく、同じ女王がずっと塔に入っていると王国は終わりを迎えるとされ、誰も塔に入らなくても王国は終わりを迎えるとされておりました。
そのため、代々女王様たちはこの使命を欠かさずに守り続け、季節が滞ることはありませんでした。

しかし、そんなある時、事件は起きました。冬の女王・スノウが期間である2月を過ぎ、3月に入ったにも関わらず、“ホーラータワー”から出て来ないのです。それだけではありません。春の女王・チェリッシュもまた3月になったにも関わらず、“ホーラータワー”を訪れないのです。

このまま冬が続けば、雪は積もり続け、木々は枯れ、作物も取れず、動物たちが冬眠から目覚めることもなく、本当に世界は終わりを迎えてしまいます。そのため、王様はお触れを出しました。

『冬の女王・スノウを“ホーラータワー”から出し、女王を交替させた者に好きな褒美を取らせる。ただし、冬の女王・スノウが再び“ホーラータワー”に入れない方法は禁じる。季節が廻るのを妨げてはならない。』

このお触れに、国中の屈強な男たちが立ち上がりました。目的は当然、褒美です。1人の男は莫大な金を、1人の男は広大な土地を、1人の男は王宮での地位を。中には季節の女王との結婚、お姫様との婚約を望む者もおりました。国の季節が廻らないのは何物にも代えがたい王国の危機です。王様はそれらの褒美を約束しました。各々が自らの望むものを手にするために半分の者たちは“ホーラータワー”へ冬の女王・スノウを連れ出しに、もう半分の者たちは春の女王が住む領地プリマヴェーラへ春の女王・チェリッシュを迎えに行きました。

しかし、この私利私欲のために動き出した男たちは皆、その道中で望みを捨てることになりました。冬の女王・スノウが期間を過ぎた影響は大きく、雪は積もりに積もって壁のよう。いつも商人が行き交う峠は分厚い氷に閉ざされ、山から吹き荒ぶ風は雨のように氷柱つららを降らせておりました。行く手を塞がれた男たちはことごとく逃げ帰って来てしまったのでした。

一方その頃、雪道を行く一団がありました。
「まったく、スノウは何をしているの!?」
怒りに震えながら雪道を歩く絢爛豪華な桜色のドレスを身に纏う女性とお付きの者たち。彼女こそ春の女王・チェリッシュです。チェリッシュは例年通り、使命を果たすために馬車に乗り、100人の護衛と共に、自分のお城を出て“ホーラータワー”へ向かっていたのでした。ところが、今年の冬は例年とは違っておりました。例年ならば馬の蹄が隠れる程度に積もっている雪が、今年は馬の膝上まで積もっており、早々に馬車では進めなくなってしまい、歩いて“ホーラータワー”を目指すことになっていたのです。更に不運は続き、例年ではあり得ない冬眠しているはずの熊や狼の襲撃を受けて、護衛は残り20人ほどになり、加えて今チェリッシュの一団は猛吹雪にさらされておりました。

「スノウ、わたくしが遅れたことは申し訳ありませんが、ならば塔を出て待っていればよいものを・・・!」
実は次の女王が遅れたことは過去にもありました。取り分け、夏の女王・サマンサは奔放で自由人のため、遅れてきたり期間が終わる前に塔を出て来てしまったりということがしょっちゅう。その度にチェリッシュや秋の女王・メイプルが叱っておりました。しかしながら、これは季節の女王が少しくらい長く塔にいても、反対に少しくらい塔を空けていても問題ないということを意味しておりました。そのため、もし次の女王が遅れるようなことがあれば、前の女王は塔を出て、一時季節を止め、言わば『無季節シーズンオフ』の状態にして待つようにするのが女王たちの間での暗黙の了解となっていたのです。
「スノウ、貴女とサマンサは長く居てはならない女王だと、自分で言っていたでしょうに。」

1カ月の時が過ぎました。もう4月ですが、冬の女王が塔を出ることはなく、雪が止みませんでした。吹雪の中、チェリッシュは1人“ホーラータワー”がある王都セゾンに辿り着きました。チェリッシュはここまでの道中、幾つかの町を超えて来ましたが、そのどれもがひどい豪雪に見舞われ、町としての機能を失っておりました。本来いるはずの見張りの兵も行き交う商人も働く人々も誰もおらず、それどころか、最後に立ち寄った町では家々は雪に埋もれて屋根しか見えない有り様になっておりました。
流石は王都,とでも言うべきか、王都の街は雪に埋もれることなく、どうにか街としての機能も生きておりました。どうやら、町の住民や兵士たちが一丸となって雪を街の外へと掻き出していたようです。

「皆の為にも、早くホーラータワーへ行かなくては・・・!」
チェリッシュが街の中央通りを進んでいくと、住民や兵士が少しずつその存在に気付き始めました。彼らは思い思いの言葉を彼女に浴びせようとしました。
「どうして早く来なかったんだ!」
「怠慢じゃないか!」
「ちゃんと仕事しろ!」
しかし、今のチェリッシュの姿を目の当たりにして、彼らはその言葉を呑み込みました。いえ、完全にどこかへ消え去ってしまいました。チェリッシュのプリマヴェーラを出た時に着ていた絢爛豪華な桜色のドレスは度重なる吹雪と野生動物の奇襲を受けてボロボロになっておりました。それはまるで、散りゆく桜のようでした・・・。

「スノウ、貴女どういうつもりなの・・・?」
最早、春の女王には怒りに震える余力もありませんでした。例年ならば城に挨拶をするところですが、チェリッシュは真っ直ぐただただ“ホーラータワー”を目指して歩き続けました。ホーラータワーがある中央の森の木々は雪掻きが行き届いておらず、幹の下半分以上が雪に隠され、2~3mある茂みのようになっています。その茂みを掻き分け、森を抜けて、遂に“ホーラータワー”の前に出ました。当然、雪で塔の扉は覆われています。
季節の女王たちは皆、季節を変える程の力はホーラータワーに入らないと使えませんが、少しだけなら魔法が使えました。
「スノウ・・・今どんな表情かおをしているの・・・?」
チェリッシュは無い力を振り絞って塔の扉の前に積もった雪を魔法で融かしていきます。4~5m以上積もっている雪を解かすのには時間と魔力がかかりました。途中何度も意識を失いかけながらも、チェリッシュはどうにか扉の前の雪を融かし切りました。そして遂に扉を開きました。すると、扉の目の前にひどくやつれた女性が倒れております。
「スノウ!!」
そう、倒れていたこの女性こそ、冬の女王・スノウです。真っ白な新雪のようなドレスを身に纏っております。気を失っているスノウに、チェリッシュは何度も呼びかけます。やがて、スノウは目を覚ましました。
「・・・チェリッシュ・・・?」
ひとまず意識を取り戻したことに安堵するチェリッシュ。しかしすぐに詰問を始めます。どうしてこんな豪雪を降らせたのか、どうして塔を出なかったのか。
「いつもよりも雪の降り方が激しいことにはすぐに気付いたわ・・・。だから早くに塔を出ようとしたの。そうしたら・・・出られなかった・・・。」
「出られなかった?」
スノウは静かに頷きます。
「いつもなら、周りの木々が雪を遮ってくれるから、塔の扉の前に雪が積もることはないの。でも、今年は何故か・・・雪が積もっていたの。それで・・・。」
チェリッシュは振り返り、自分の通って来た森を見ます。確かに、例年よりも木々が少ないような気がしました。

それからチェリッシュはすぐにホーラータワーで季節を春に切り替えました。スノウは何とか自力で街へと辿り着きました。街の住民たちはスノウに怒りをぶつけようとしましたが、そのやつれた姿を前に怒りは冷め、代わりに城へのソリを用意し、住民や兵士みんなでそれをいて城へと運びました。

5月。春が訪れ、雪が止み、積雪が概ね融け切った頃、今回の事件の真相が明らかになりました。王都セゾンの中央の森の木をり、ホーラータワーの扉を雪で塞ぐ原因を作ったのは・・・他ならぬ王都の住民たち、そして王様も関係しておりました。
王都中央の森の木々はとても立派で建築資材になるため、住民たちはよく伐採しておりました。それが行き過ぎ、森の中央にまで手が及んでしまったのです。また、森の木々についている葉は薬草となりよろずの病を治す効能があり、これは他国との外交などの際の手土産として王様はよく利用していたのでした。

王様と住民たちは深く深く反省しました。自分たちの軽率な行いが未曽有の災害を生んでしまったことを。
王様と住民たちは深く深く刻みました。初めは軽微な行いであったことが、年月を経て大きな厄災をもたらす。それはまるで此度の雪のようであるということを。深く深く脳裏に、歴史に刻みました。

「何でも褒美を取らせるというのなら、二度とこのような事態を招かぬよう努めなさい。」
                          春の女王・チェリッシュ

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