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  ジャンプ 作者:MIYA−MIYA
嵐の予感
「そろそろ、出ましょうか」

囁く広海の声で現実に引き戻された。


入学式も終盤を迎えているようだ。誰にも気づかれないように、そっと席を立つ。


「あ〜あ」


ヒカルは両腕を高く上げ、伸びをする。
式という名前がつくものは堅苦しくて嫌になる。


隣を歩いている広海は、早速電話をしていた。相変わらず、忙しい人だ。
それでも学校の行事には、忙しい合間を縫って必ずと言っていいほど顔を出してくれていた。


「ん?ヒカルちゃん?いるわよ」

不意に自分の名前を呼ばれて反応するが、どうせ相手は事務所関係だろうと、会話中の広海から車の鍵を受け取り、一人駐車場へと向かった。
車の助手席に乗り込むと、前方に校舎が見えた。


−ここが、これから結菜が3年間通う学校か。


初めてあった結菜はとても強くて堂々としていた。
でも、そこはやっぱり3歳で、ヒカルの前でよく泣きもした。
泣き虫だけど、芯はしっかりしていて、これと決めたことは譲らない。


今の結菜も根本的には、幼かったあの頃とあまり変わらない気がする。


「三つ子の魂百まで……か」


車のガラス越しに見る青空は、少し曇ったように見え、ヒカルの心にも陰りを落とした。





***


入学式が終わり、1年生たちは各クラスに移動した。

結菜と綾は奇跡的に同じクラスで、朝登校して早々に掲示板の前で大袈裟に抱き合った。



「やっぱり、綾じゃねえ?おう、久しぶり!」



教室に入ると決められた席はなく、窓際の一番後ろに綾が座り、その前に結菜が座った。

これもまた運が良いと二人で話をしている最中、一人の男子が声をかけてきた。


「誰かと思ったら、純平じゃん!!」

結菜も同じように純平と呼ばれた男子の方を見た。


今時の男の子だなあと思う少し長い髪。アイドル系の整った愛嬌のある笑顔。


「あっ、親友の結菜。こっちは、小学校のときに一緒だった純平」


綾からお互いを紹介され、結菜は軽く頭を下げた。
純平は結菜を見たまま固まっているように動かない。


「純平!結菜にみとれない!」

「………………」

「綾ちゃん、その冗談おもしろくないから」

結菜は目を細めて、綾を睨む振りをした。
時々綾は突拍子もないことを言う。



「あ、えっと……こいつは、ダチのれん


いつの間にか金縛りから抜け出した純平は、少し離れたところにいた蓮の腕を無理矢理引っ張り、結菜たちに紹介した。
そして、純平は綾の隣の席に荷物を置いていた。

確か、その席はさっきまで誰かが座っていたような……

悠々と椅子に座る純平を見て結菜は首を傾けた。


「蓮の席はと……」


ぐるりと見回してももう近くの席は残っていなかった。


「俺、どこでもいいから」


と、蓮は真ん中の方で空いている席へ座った。


「なんだよ。やっぱ、近くの方がいいのに」


子供みたいなことを言って、ふて腐れる純平の声を聞きながら、結菜は三列向こうに座った蓮の斜め後ろ姿を眺めていた。


人懐っこそうな純平とは対照的に、蓮には『人は近づくな』というオーラが漂っている気がする。
不機嫌そうなしかめっ面がその証拠だ。
いや、もしかするとたまたま今機嫌が悪いだけかもしれない。


もう少し愛想良くすればいいのに……そんなことを言おうものなら、あのしかめっ面に
『余計なお世話だ!』と言われてしまいそうだ。




窓から春の暖かく心地よい風が頬を撫でる。まだ、午前中だというのになんだか眠くなってきた。
そういえば、今朝は早く目が覚めたっけ。
後ろの席では、久しぶりに再会した旧友の盛り上がった昔話が聞こえてくる。


結菜は頬杖をつき、重くなった瞼をかろうじて開けながら、今度は教室を見回した。
友達同士話をしている者、知らない者同士でぎこちない挨拶を交わし仲良くなっていく者、
独り静かに座っている者。
これから一年間一緒にこの教室で過ごすことになるクラスメイトだ。


この学校では、平穏無事に過ごしたい。そして、人並みに恋なんかしたりして……

それが、結菜にとっての小さいけれど、切実な願いだった。




「てゆうかさ、結菜ちゃんって名字はなんて言うの?」

「上条……だけど?」

「………………!!」

「おい。純平?どうした?」

「か、か、上条 結菜!?」


純平が叫ぶと、教室中の生徒たちの視線が純平に一斉に集まった。勿論、結菜も。自分の名前を大声で叫ばれ、困惑して振り返った。
純平の視線は結菜に向けられていた。

何……?

そう言葉に出そうとした時、何脚もの椅子を引く音が聞こえたかと思うと、結菜たちの周りに座っていたクラスメイトたちが荷物を持ち、廊下側へと移動した。

な、なんなの?

結菜は、何が起こったのか分からず呆然としていた。


「蓮っていうひと。こっちが空いたから座れば?」


静まりかえった教室を気にすることなく、綾は冷静にそう言った。

蓮はちらっと綾の方を見ると「ここでいいから」と、またあの不機嫌な顔を貼り付けて、ぼそりと言った。




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