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  ジャンプ 作者:MIYA−MIYA
蓮 Side  1
 この子は絶対に上条の子供だよな?

 再確認するように、泣き疲れて眠った女の子を起こさないように恐る恐る近づいた。
 透き通るように白く滑々の肌。長いまつ毛に前髪がかかっていて、俺は思わず人差し指で触った。
 サラリとおでこを流れた髪……
 まるで上条がそこにいるような錯覚に陥る。
 胸の前で握って眠っている小さな手が幼さを思わせた。

 この子が上条と省吾の子供……

 自分を守るように丸まって眠る女の子の小さな寝息を聞きながら、俺は懐かしさと嫉妬が入り混じった想いでその場にいた。




 
「おじちゃん……」

 女の子を眺めながら、ついウトウトと眠ってしまったようだった。
 先に目を覚ました女の子が俺を起こす。

「ん?起きたか」
「向こうで音がするの」

 女の子が指さした出入り口のドアを開けると、いつの間にかテーブルの上に食事の用意がされていた。

「チッ。誰もいないのかよ」
 寝室のドアは開くようになっていたけど、肝心の出口はやはり開かなかった。

「これ。食べてもいいの?」
 自分の背丈ほどあるテーブルにちょこんと手をかけると、遠慮がちに聞いてきた。
「ああ。好きなだけ食べろ」

 
 女の子は食べている間、何度も俺の方をチラチラと伺うように見てくる。
「なんだ?」
「おじちゃんは食べないの?」
「ああ。腹減ってねぇし」
「ふうん……ねえ。おじちゃんは」
「その。『おじちゃん』って言うのやめないか?なんか一気に老けた気する」
 笑わすつもりで言ったのに、女の子の顔が強張った。
「ご、ごめんなさい……」
 恐縮し、慌てたように両手に持っていたパンをお皿の上に戻した。
「別に怒ってはないけど……」

 俺にとって、まるで未知の領域……

 困った。
 どう話せばいいんだ?

 
「まあ。あれだな……監禁された者同士、仲良くしよう……ってか、お前名前はなんて言うんだ?」
 怖くて俯いたまま女の子は答えた。
「……ソラ」
「『ソラ』?そっか、俺は『蓮』よろしくな」

 俺にしては頑張って笑顔を作っているつもりだけど……
 こんなんで伝わるのか?

 ソラは俺を見たりまた下を向いたりと、何度か視線を外しながら、最後は皿の上に置いたパンを見ていた。

「食べてもいいよ」
 その動作が可笑しくて、俺は思わずくくくっと笑った。
 少しは安心したのか、俺の方を伺いながら、パンに手を伸ばす。
「レン……くんは、ママを連れて行った怖いおじちゃんとは違うの?」
「違うよ。上条……ソラの『ママ』のことだって知ってるし」
「え~~っ!ママのこと知ってるの??なんで?どうして?」
「ん~。高校って分かるか?上条と俺は同じ学校に行ってたからな」
「へぇ~。じゃあ。歩くんママや省吾くんや、綾ちゃん……あっちゃんのことも知ってるの?」
「みんな知ってる」
 歩くんママ?あっちゃん?
 よく分からないが、たぶん知ってる奴らだと思う。
 純平の名前が出てきていないのにはちょっと笑える……
「そっかぁ。やっぱりレンくんはソラと同じようにここに閉じ込められちゃったんだね」
「ま……まあな」
 油断していたわけじゃない。
 けど、進藤に閉じ込められたのは確かで……
「ママ……ソラのこと探してる。泣いてないかな……」
「お前の母親は泣き虫なのか?」
「ソラの前じゃ泣かないけど、ソラが眠ったあとに泣いてる時があるの」
「なんで泣いてるんだ?」
「わかんないけど。ソラがなにか悪いことしちゃったからかな。それとも、誰かに苛められちゃったからかな……ソラね。ママに聞きたいけど聞けなかったの……」
 ソラは母親を想って涙ぐんだ。
「俺には分からないけど。それはきっとお前のせいじゃないと思う」
「じゃ、どうして泣いてたんだろ」
「……腹でも痛かったんじゃねえか?」
 俺は誤魔化すことしか出来なかった。

 省吾は何をしてるんだ。
 上条は省吾と一緒で幸せじゃないのか!?

 あいつを泣かせるばかりしている省吾に怒りの矛先が向いた。
 
「お前の母親は父親と仲良し……なんだよな?」
 上条が泣いているのは気に食わない。
 けど、省吾といて幸せに笑っているのも気に入らない。
「え?パパ……えっと」
 ソラは困ったように大きな瞳をクルクルと動かした。

 やっぱり。
 省吾はあいつを泣かせている。
 幸せに笑ってなんかいない。
 
 俺の中で更に決心が固まった。







 監禁されて三日目の朝。
 ソラが熱を出した。

 携帯電話も圏外でつながらない、部屋の電話もフロントにすらつながらない。
 真っ赤な顔をして辛そうに呼吸するソラを俺は見ていることしか出来なかった。

 昨日まではあんなに元気だったのに……



「レンくん。お風呂入ろっ」
 そうソラが言ったのは監禁された翌日の夜だった。
「俺は後で入るから、ソラ先に入ってこいよ」
「ソラ一人じゃ入れないもん」
「…………」

 俺のことを怖がっていたのは一時で、自分と同じ状況に置かれた仲間と思ったのか、母親のことを知っていたことに安心したのか、ソラは俺にすぐに懐いてきた。

 それにしても、一緒に風呂?
 この俺が……?

「レンくん。もしかして恥ずかしいの?」
「そ、そんなこと……」
「大丈夫だよ。ソラ、ジロジロ見たりしないから」
「……あのな」

 戸惑っている俺に、クスクス笑うソラ。
 俺がこんな小さな子供にしてやられている……

 それでもずっと風呂に入らない訳にはいかず、俺はソラと一緒に入る羽目になってしまった。
 風呂から上がった後は俺が寝るベッドに潜り込むと、ひょこんと顔を出し、当然の様に隣で眠る。
 ソラが眠った後、隣のベッドで寝ていても、朝起きると俺の腕に絡みつくように頬を摺り寄せて眠るソラがそこにいた。

「『レンくん』……か」

 無邪気に笑いながらそう言うソラに上条の顔が浮かび上がる。
 





「ソラ。何か食べたいもんあるか?」
 おでこに手を当ててみても、どのくらい熱があるかも分からない。
「……ま……」
「ソラ?苦しいか?」
「…………ママ」
 荒い呼吸の中でソラは上条を求めていた。

 
 


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