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いつも読ん下さっている皆様、ありがとうございます。

今回アルファポリス様主催の恋愛小説大賞に参加しており書き直しをしておりました。
当初二月中に終わる予定でしたが、ご免なさい、終われませんでした。
お詫び申し上げます。

ここで少し言い訳をさせてください。
実は私が管理しているサイトコンテンツ
『女性限定』http://hirosena.blog32.fc2.com/blog-entry-6.html
(あくまで女性限定のコンテンツです。男性の方は硬くお断り申し上げます)
の出版が三月に決まりました。
その原稿の仕上げ及びイラスト確認のため一月・二月はほとんどそちらに時間を割いていました。その為遅れた次第です。

『桜ノ宵ニ』
は私にとってとても大切な作品で、近日中に最後まで書き直しを終わらせます。お時間があれば、おつき合いくださいね♪

       廣瀬 るな
第十四話 散る花
以下 改稿前 本文

 案の定、桜は散った。一夜で、半分に。
 朝露に濡れた花びらが層をなし張り付き、地面に入れ墨の様な文様を作っていた。
 アレから眠れず。その上まだ5時だというのに彼は起きて来て、
「早いな。」
と笑った。くたびれたシャツにズボンで
「ああ、俺はこれから新潟だよ。全く人をこき使う。」
そう言ってあくびをしながら
「この前の茶漬け、旨かったなぁ。」
さりげなく要求して来る姿は、私以上にこの家に馴染んでいて。
「まるで通婚かよいこんみたいね。」
ちゃかすと
「まぁな。」
と答え。
「男の本能か。」
無精髭を撫でた。

「どうしてそんなに無理をして。ここに来る必要なんて無いでしょうに。」
時計を気にする彼に二杯目の煎茶を差し出しながら、愚痴を吐いた。すると
「そんな事も分からないのか。」
呆れ顔が私を見ていた。

 その上、家を出るその間際
「お前は馬鹿だ。」
そう言って、パジャマにガウンの私を抱き寄せ。

 そう、私は馬鹿だから。

「どうして俺が前の二人と別れたか、教えてやるよ。」
耳元に荒い息が吹きかかった。
「頭で考えたからだ。今のお前みたいに。」
何を言ってるの?今更の様に慌てて彼を押しやろうとするけれど、その腕は強く。
「結婚したら女は男に従うのが当たり前って決めつけて相手の言葉を聞かなかったり、この人と結婚したら多分平凡だけど堅実な家庭を築けるだとか。これはこうで、あれはどうで、分析して。自分の気持ちと向き合った訳じゃなかったからだ。」
私はぽかんと口を開けていた。
 どうしてそれが間違っているのか。分からない。結婚には条件が付きものだ。それに私は十分すぎるほど自分の気持ちと向き合っている。あなたが、知らないだけ。
「いや、分かってる。」
両手で顔を挟まれて。
「お前が俺の名前呼ぶのは、イク時だけだって、気づいているか?」
その意味の恥ずかしさに顔を染めた。
「たまには自分の本能、信じろよ。」
彼の唇が私に触れ、それから
「また来る。」
と去っていった。

 その5日後の事だった。
 義母は精密検査も終わり無事家に帰ったと連絡が有り、私はどこかほっと胸を撫で下ろしていた。
 あの憎しみが、今の私には無かったから。よどみを抜け、小川のせせらぎに戻れた鮎のような気分とでも言うのだろうか。そして、
「良かったわね。」
あなた、そう言いかけて口をつぐみ。
『そうなんだ、さくら・・・・』
彼も私の名を呼ぼうとし、口をつぐんだ。
 おかしかった。
 ふたり、失笑に似た含み笑いを漏らしていた。
 もう、私たちの関係は終わった事なのだ。それを証明できた気がした。
『君も、幸せになって欲しい。』
彼が言う。それは多分、本当の気持ち。
「ありがとう。」
それも、本当。
 もしかしたら私たち夫婦は、別れて初めてお互いが分かったのかもしれない。
「あなたも、末永くお幸せに。」

 この日初めて、春の風をさわやかだと感じた。桜の散るのを、良し、そう眺める事が出来た。

 でもその気持ちは長くは続かなかった。
 
 仕事の帰り道、夜。駅を抜けて歩く途中、後ろから照らされるフロントライト。減速。
 いつもはわざと左の道を歩く。そうすれば運転席から遠いから。いざという時の安心の為に。
 道を聞かれるのすら、嫌だから。
 それなのに・・・・。
 窓の下がる機械的な音に鳥肌が立った。右手に力が入り、走る、心を用意した。
 知っていた。逃げる、そう思った瞬間、絶対に迷っちゃいけない。もし誤解だとしても、その遅れる1秒が、全てを決めるって。知っている。

 その瞬間、
「桜子!」
怒りに満ちた声が聞こえ、私は恐怖に目を見開き動くはずだった体を止め、彼を見た。
「そんなんだったら、仕事、辞めちまえ。」
彼は私の恐怖を見つめていて、挙げ句、私を罵った。

「脅かさないで。」
止めようにも、声の震えは止まらずに。
「脅かさないで。」
そう再び、泣いていた。
「仕事、辞めろ。」
今度の声は静かだった。
「せめて夜は、な。」

 助手席に座らせられ、家の途中、あの公園の脇を抜け、一直線に家へと向かう。彼だけがスムーズだった。
 
 家の鍵すらも。
「古いから。」
そう言い訳をし、取り上げられて、ため息をつかれ。
「だったら、取り替える必要が有るんじゃないのか?」
彼の大きな手の中では、鍵すらもおもちゃみたいに見えた。

「疲れているの。」
ジャケットを脱ぐ私に
「良いよ。」
彼は言う。何が良いのか分からない。
 結局風呂場に連れて行かれ、二人で入ろうとする仕草に慌てた。
 夫、いや、前の男というのが正解だろうか。それとも、ああそうだ、今は元夫もとふって。
 その、元夫、とも一度も一緒に入った事が無い。
「嫌よ。」
そう逃げ出そうとし、
「いつまでたっても、子供だなぁ。」
と笑われた。
 子供なら、まだ良い。
 彼に明るい所で肌を見て欲しくなかった。もう、姥桜うばざくら。酒も入らず、ましてや照明の明かりの下で現実を見て欲しくなくて。

 ねぇ、気づいていないわよね。本当の私は、こんなに愚かで子供じみている。本当はね、セックスって、楽しめなくて、今まではお酒の力借りて勇気だしていたのよ。それでやっと、私はオンナになれたの。でもね、辛いのよ。これからの現実が、怖いの。

 手を引かれる。
 ねぇ、私は・・・・愛されているの?
 
 でも、愛って、何?

 あなたは何を求めているの?
 
 私はあなたに応えられるの?

 かたちが無い。モノでもない。ましてや、言葉でも無くて。

 分からないから、辛くって。

 戸惑う私に
「良い子だから、落ち着いて。一緒に入るだけだから。」
きっと彼は詐欺の才能が有るに違いない。

 でもなぜか、当たり前の様に騙される自分が少し嬉しかった。

 言葉巧みに導かれ、結局生温い湯につかりながら、溶かされた。
 風呂の暖気が血の巡りを良くさせ、肌を研ぎすます。
 彼につかまると溺れそうになるから、必死で湯船の縁を握り。目の前で私の指が白くなり、関節だけがピンクに染まる。
 鏡は曇っているから写ってはいないけれど、見知らぬ女の影が揺らめいていて。その光景が私をおかしくさせる。

 ここは、どこ?

 湯の浮力で浮き上がり、その反動を使って彼は私を操って。いとも容易たやすく翻弄し。
 狭い浴室で、堪えているはずのその声は、残響になって私の耳まで届いていた。

 ぐったりと座らせられた私の髪を彼が洗う。
「何だか、好いね。」
その、好いって事が悪いって、彼は気づかない。


           桜ノ宵ニ        つづく
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