第二十九回。怒りのタマムシジム! ぶつけろ。みんなの思い!
エリカの出したポケモン。
タキにはそのポケモンに見覚えがあるように感じた。なんというか、ユリカの持つウツドンにとてもよく似ているのだ。
その感じの正体はポケモン図鑑で調べてみると納得がいく。
名はウツボット。体長1,7m。体重15,5kg。ウツドンの進化系。大きな口から出る蜜の香りで獲物を呼び寄せる。
そう。ウツボットはウツドンの進化系なのだ。それは似てるわけである。
そして、タキの出すポケモンは……
「タキ。ヒーロよ。ウツボットは草ポケモン。ヒーロは炎ポケモン。相性がいい」
タキにアドバイスするユリカ。
しかし、タキは首を横に振る。
「どうして? ヒーロを信じて!」
説得するユリカ。
だが、タキはまた首を横に振る。そして……
「ユリカのウツドンを使わせてくれない?」
タキのその一言で場は騒然となる。
「駄目……ヒーロの方が相性もいいし、実力もある」
当然のように断るユリカ。
ユリカの言うとおりで、ヒーロは炎ポケモンで相性もいい、タキの主力ポケモン。
対してユリカのウツドンはウツボットの進化前でタイプも同じ。
この条件なら間違いなくヒーロの方が有利だ。
「それじゃ駄目だよ。言ったでしょ? 僕達の気持ちをポケモンでぶつけるって。だから一緒に戦おうよ。コルトも口で戦った。僕もトレーナーとして戦う。だからユリカもポケモンで一緒に戦おう? エリカに言えないこと。全部ポケモンで返しちゃおうよ!」
これはタキの率直な気持ちだ。
みんなで戦いたい。これはもう自分だけの問題じゃない。今から始めるポケモンバトル。みんなの気持ちを込めて戦いたい……
「でも……」
迷うユリカ。
確かに言いたいことはたくさんある。でも、エリカは自分の姉。自分を叱ってきた思い出が甦る。簡単に反抗できるわけがない……
「悩むな姉ちゃん。そんな難しく考えんでええ。姉ちゃんが少しでもエリカに言ったりたいことあるんやったらタキにポケモン預け。ないんやったら預けんでええ。自分の心にちょっと聞いてみ? すぐに答え見つかるわ」
コルトがユリカに温かい言葉をかける。
そんな台詞を言うのはちょっとコルトも恥ずかしいようで照れ笑いだ。
しかし、そんな温かい言葉がユリカにとって、とても助かるものとなった。
落ち着いて自分に聞いてみる。すると、どうしたものだろう。エリカに言ってやりたい色々な言葉が浮かんでくる。もう……答えはでた。
「タキ! 私……預ける!」
ユリカがタキにウツドンが入ったモンスターボールを投げ渡す。
タキは、そのモンスターボールを受け取り、ユリカにニッコリと微笑んだ。
「こっちで勝手に話を進めたけど、別に反則じゃないよね?」
ジムリーダーであるエリカに確認を取るタキ。
「別によろしいですわ。それよりユリカさんは本当にお生意気に……あらやだ。今、関係のないことですわね。それよりあなた。ユリカさんのウツドンさんと私のウツボットさんじゃ戦力に違いがあると思われますが本当によろしいのですね?」
エリカは逆にその方が嬉しいようで、満面の笑みを浮かべながらそう答えを返す。
「うん。驚くよ。気持ちがいっぱい詰まってるからね!」
そして、タキもウツドンを場に出す。
この瞬間。ポケモンバトルスタートの合図がだされた。
ウツドンとウツボット。進化前と進化後。これだけでもかなりの戦力差がある。
なのに、相手はジムリーダー。これはタキにとって大変なバトルとなりそうだ。
しかし、タキにはみんなの気持ちがついている。これはタキにとって最高の原動力であり、最高の戦力だ。
「ウツボットさん。軽く様子見といきましょう。つるのムチです」
ウツボットの頭についているつるでウツドンを攻撃する。
冷静につるのムチをかわすウツドン。そして、ウツドンも同じようにつるのムチで反撃。
「待っていましたわ」
軽く微笑むエリカ。
なんと、ウツドンが伸ばしたつるにウツボットのつるを絡ませたのだ。
「あなたは進化を甘くみていますわ。進化前と進化後……力の差は歴然ですわよ!」
ウツボットがウツドンを空高く持ち上げ力任せに振り回す。
タマムシジムの落ち着いた雰囲気と相反してウツボットの繰り出す技はとても強引で力強い。
そして、力任せにウツドンを壁目掛けて思いっきり振り投げる。
「ウツドン! つるで、生えている植物につかまるんだ!」
命令を聞いたウツドンは、ジムの中に生えている木の幹につるを絡ませ、勢いを殺す。
そして、逆に木の幹を使い勢いをつけ、ウツボットに向かい自分自身を飛ばす。
思わぬ攻撃にウツボットは対応することが出来ず、勢いのついたウツドンと衝突。大きなダメージを負う。
「あら……中々考えますことね」
少し思い描いていた展開と違い、あまり面白くない様子のエリカ。
「言ったでしょ? 気持ちがいっぱい詰まってるって。絶対負けない!」
しかし、これで終わるエリカではない。エリカはジムリーダーだ。ポケモンに関して長く精通しているベテラントレーナーだ。
「勝負はここからですわ。見せてあげましょう。ジムリーダーの戦い方を!」
そう言ったエリカがウツボットに命令した技はねむりごな。
技の名前から効果は推測できる。
ウツボットの大きな口から出る。その霧状の粉を見て、タキはウツドンとドガースの試合を思い出す。
あのとき、ウツドンはドガースの放った毒ガスを吸い込んだ。
なのでタキは、あの時と同じようにねむりごなも吸い込んでしまえばいいと考えた。
しかし……
「タキ。吸い込んではいけない。眠ってしまう。そうなると……」
ユリカはタキの考えを読んだのか、慌ただしくアドバイスする。
「そうなの? 危なかったぁ。ありがとうユリカ!」
急いで自分の考えを改めるタキ。
ウツドンは粉を吸わないように息を止める。
だが、これがエリカの作戦だった。
「さぁ、いつまでもつでしょう。限界まで苦しめておやりなさいウツボットさん!」
その声と同時にウツボットからハッパカッターが繰り出される。ねむりごなを吐き続けながらのハッパカッター。これは、エリカのウツボットだからこそ出来る芸当だろう。
ウツドンは息を止めながら行動しているので、避けるので精一杯。とても苦しそうだ。
このままじゃ敗れるのは時間の問題。タキは考える。
もう時間がない。どうすれば勝てるのか。考えて考える。
すると、一つの案が思いついた。しかし、これはとても危険な賭け。
しかし、やるしかない。それ以外にウツボットに勝つ策が見つからない。
「ウツドン! ウツボットの大きな口に飛び込め!」
タキの命令は誰もが予想していなかった。
「自分から倒されに来るとは……諦めましたわね!」
エリカは勝利を確信した。
「タキ……私も一緒に戦ってる。でも、私は声をかけてあげられるくらいしかない。頑張って……エリカお姉様を倒して!」
ユリカはタキの勝利を願う。
ウツボットはウツドンが口の中に侵入するのを受け入れた。
それはそうだ。ウツボットの口の中は溶解液が……当然、ポケモンバトルで死亡は厳禁なので、溶けない程度に制御することを義務付けされているが、触れれば最後、一撃で終了であろう。
そんな口の中にタキは自ら飛び込ませた。
その訳には、ウツドンしか実現できそうのない。タキオリジナルの必殺技を思いついたからなのだ。
「ウツドン! ウツボットの口の間に鋭い葉っぱを食い込ませるんだ!」
タキはウツドンのもう一つの特性を思い出していた。
ウツドンの体の横についている葉っぱはとても鋭いのだ。
体当たりを防ぎ、逆にダメージを与えるほどの鋭さ、もう、これしかないと考えた。
当然、ウツボットは苦しそうな表情を浮かべる。
「ウツドン! そのまま回転して上昇!」
タキはさらに追い討ちをかけるようにウツドンに命令。
ウツドンは息絶える覚悟で回転する。
ずっと息を止めている状況だ。とてもきつい。これはもう体力勝負だ。
「頑張れウツドン! ユリカが待ってる。僕達が待ってる。君の勝利を僕達の気持ちが待ってる!」
タキは精一杯ウツドンを励ます。
すると、ウツドンがウツボットの大きな口から飛び出してきた。
口の中を鋭い葉っぱに切られまくったウツボットは戦闘不能。
そして、耐え切ったウツドンは……
「この勝負……引き分けですわね……」
息がもたなかった。目を回して気絶している。
「ウツドン……よく頑張ったわ。エリカお姉様のウツボットと引き分ける……凄いこと」
ユリカがウツドンの下に駆け寄り、気絶しているウツドンに声をかける。
「これって……どうなるの……?」
タキの素朴な疑問。
「おほん。本来なら再試合となるのですが、この試合、私の負けですわ。今まで数々の人とバトルしてきましたが、ウツドンさんにウツボットさんが引き分けるなんて初めてのこと。それもユリカさんのウツドンさんに……本当、初めてづくしですわ」
エリカの主張は、自分の負け宣言。つまり、タキの勝ちということになる。
「ねぇ。それって、ユリカのウツドンだから? なら、納得いかない。再試合だよ」
理由に納得のいかないタキ。
「あらあら。誤解なさらぬように。私は驚いているのですわ。まさか、ユリカさんがこんなに私に反抗的な行動をとるなんて……決まりには私を倒してとおっしゃるもの。本当に驚きですわ」
更に語り続けるエリカ。その顔はなぜか嬉しそうだ。
「それを物語るようなウツドンさんの粘り。本当、親に似るとはよく言ったもので、ウツドンさんまで生意気になってしまって……本当、悪い子達ですわ」
「なっ? わいらと出会って正解やったやろ?」
コルトがエリカに対し笑顔で接する。どういう気の変わりようだろうか。
「おほん。とにかく……この試合は私の負けです。あなた方の気持ちの勝利ですわ」
「僕は……僕自身は勝ったと思ってないから……またいつかバトルしようね!」
「ええ。もちろんですわ」
こうして、タキはレインボーバッヂを手に入れた。
次はセキチクシティにジムがあるらしい。コルトがそこには面白い場所がたくさんあると言って張り切っている。タキにとって最高の町なのだそうだ。
そして……
「タキ……コルト……私達。ここでお別れ。私、エリカお姉様の下でまたポケモンマスターを目指す。こう思えたのも全てタキとコルトのおかげ。本当にありがとう」
言いだすのが辛かったのだろう。涙を流しながらそう告げる。
「泣かないでよユリカ。僕達はお別れじゃない。ちょっとの間、離れるだけ。ポケモントレーナーを続けていれば絶対会えるよ。だから……笑おうよ。僕まで悲しくなっちゃう。ほら、コルトも泣かないで!」
タキは精一杯の笑顔でユリカに言葉を返す。
ユリカもそんなタキの笑顔に精一杯の笑顔で返す。
「そんなこと言われてもあかん。こういうのはホンマに弱いねんわい……短い間やったけど泣いてまうわ。分かっとるなエリカ。こんな純粋な子、今度悲しませたりしよったら……」
ユリカとの付き合いが一番短いコルトが最も泣いてしまっている。三十歳の大人とは思えない……
「承知しております。もう、私じゃどうにも出来そうもありませんもの」
エリカもそう約束した。
こうして、ユリカと別れたタキ達。またいつか出会うのだろう。
タキがユリカがポケモントレーナーとしてポケモンマスターを目指している限り、それは必然的に……
だからタキは笑った。笑顔でユリカと別れた。いや、一時的に離れたのだ。
しかし……
「うんうん。よう頑張ったなぁタキ。ここならもう大丈夫や……姉ちゃんにはバレへんよ」
「うん……」
タキは涙をこらえていた。タマムシジムから離れたタキは涙を流した。
コルトと一緒に涙を流し続けた。
端から見れば男二人で泣き崩れている変な光景。
でも、二人の流す涙は何よりも純粋な涙だ。それは知る人しか分からない、友情に溢れた涙だ。
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