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工事現場の赤いアレ

作者:小野 大介
 私がまだ幼かった頃、仲良くしていた子供の一人が失踪しました。
 二十数年前のことですから、インターネットやSNSといった便利なものは無く、警察と近所の大人が総出で捜索をしました。
 ですが、見つかりませんでした。
 電車やバスに誤って乗ってしまって帰れなくなったのではないか、それとも誰かに連れ去られてしまったか、誘拐か。
 警察も大人もあれこれ考えて捜索の範囲を広げたり、新聞やテレビやラジオを使って情報を集めたりしましたが、結局、その子が帰ってくることはありませんでした。
 それもそのはず、彼は失踪したのではないのです。
 食べられてしまったのです。

 私は、その子が食べられる直前まで一緒に遊んでいました。
 もう一人、近所に住んでいた年下の子供と三人でかくれんぼをしていたのです。場所は公園です、端のほうでなにかの工事をしていました。おかげでうるさいし、遊べる範囲が狭くなっていたので、正直迷惑でした。
 私たちは工事現場には近づかないようにと注意してかくれんぼを始め、まずは遊具を使っていましたが、次第に範囲を広げ、植え込みに潜り込んだり、木に登ったり、ベンチの上を覆っていた屋根に上がったりと、隠れられそうなところはすべて隠れました。
 そして、さすがにもう隠れられそうなところが無くなったので、そろそろ別の遊びをしようかと思っていたとき、彼が、工事現場に走ってゆくのを見つけました。
 危ないからダメだと言ったのに。
 年長だった私はすぐに後を追いかけました。すると彼は、工事現場の手前に置かれていたロードコーンを持ち上げて、その中に隠れました。
 ロードコーン、わかりますか?
 工事現場には必ずある、円すい型をした赤いアレです。三角コーンとも呼びますね。
 そのロードコーンは大きくて、また彼の身体が小さかったのですっぽり入ってしまって、その瞬間を見ていなければ、そこに隠れているなんてわからないぐらいでした。
 これは見事な隠れ場所を見つけたものだと感心しましたが、あんなところに隠れたら危ないし、怒られてしまうだろうからやっぱり良くないと、すぐに考えを改めました。
 巻き添えになりたくなかったので、それ以上は近づかないようにして、遠目に眺めていました。ダメだということをしたのだから、怒られてもしょうがない。そんな意地悪な思いもありました。
 そのまま待っていると、鬼役の子がやってきて私を捕まえましたが、すぐに様子の違いに気づいてくれました。私は彼のことを教え、一緒になって怒られるところを見てやろうとしましたが、大人たちは誰も気づかず、仕事に集中していました。
 するとそのうち、大人たちが一斉にどこかへ行ってしまいました。公園に時計があるのですぐに気づきました、お昼ごはんの時間になったのだと。
 すると鬼役の子も帰ってしまって、だったら私も帰ろうと思い、でもさすがに放っては置けないので、そのロードコーンに近づいて声をかけました。
「ねぇねぇ、お昼だからもう帰るよ」
 すぐに不満そうな声が上がり、彼が顔を見せると思いましたが、返事はありません。
「ねぇ、聞こえてる? ねぇってば!」
 聞こえないはずはないので、無視しているのだと思い、ロードコーンを持ち上げて中を覗き込みました。
 すると、彼の姿はありませんでした。
 ただ、その代わりに、真っ赤に染まった二本の足が、転がっていました。
 一瞬、人形の足かと思って、どうしてこんなところに人形の足があるのだろうかと、そう思いました。
 でも靴が、彼が履いていたものだったので、これは彼の足だとすぐに気づかされました。
「おい、食事の邪魔をするなよ」
 くぐもった野太い声が耳元で聞こえ、ハッとして見ると、ロードコーンの内側に、こちらを睨みつける目玉がいくつもあって、目が合いました。
 私はあまりの恐怖に悲鳴も上げられず、ロードコーンを手放し、その場にへたり込んでしまいました。
 地面に落ちたロードコーンはぱたりと倒れ、すると中からにゅっと真っ黒い手が伸びてきて、転がっている両足を掴んで引っ張り込み、そして消えました。
 目玉はまだこちらを睨んでいました。
「もう満腹だから、おまえは見逃してやるよ。その代わり、このことは誰にも言うなよ、言ったら食べてやるからな、ヒヒッ!」
 そんな声がしてまもなく、ロードコーンは自ら立ち上がり、元あったところに戻りました。

 これが、失踪事件の真相です。
 言いつけを破ってこの話をしてしまった私は、きっと食べられてしまうでしょうから、もう外には出られません。
 これを読んでいる皆様も、どうか気をつけてください。彼のように食べられたくなければ、ロードコーンに近づいてはいけません。
 さようなら。

【完】
最後までお読みいただき、まことにありがとうございます。

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