「実は17センチはあるんだが、変態だと思われるので14センチだと嘘ついてるんだ」
「さようなら」
世界を揺らす。
私のショートフックが相沢君の顎下へと滑りこみ、顎骨の裏をひっかけて脳へ衝撃を与えたのだ。
相沢君は一度地面に膝を崩すものの――女の力では威力が甘かったのか、すぐに足を立て直す。
「……い、いきなり何するんだ」
「……こっちが聞きたいわよ。何? 次の返答次第によっては殺すわよ」
言葉を渋い顔で受け止めながら、握り拳を解いた。
相沢君は生まれたばかりの小鹿のように、足をブルブルさせながら言葉を続ける。
「……U-1になりたかったんだ」
「何よU-1って」
横の机に手を置き、身体を固定しながら答えた。
「ウ、ウルティメット……? ウルティメットウォリャー?」
「なぜ疑問形。しかもウォリャーって」
超胡散臭え英語。
田丸浩史の読みすぎだ。
「意味はよくわからんのだが」
なんか究極っぽい感じ。
そういう事を言いたいのだろうか。
「すごいイカスぜ祐一、という意味らしい」
「……」
いまどき「イカス」なんて言葉使う奴、初めて見た、とか。
お前のどこに魅力的な部分があるのか?とか。
それはおいといて。
「俺はそれになりたかったんだ」
机の上の右手で、ぎゅっと握りこぶしを作る彼を見ながら。
相沢君はあいかわらず頭おかしいと思いつつ、言葉を続ける。
「それが何で、えっと…その」
「○○スのサイズだ。金も力もない、ただの高校生の俺が唯一誇れるものだ」
「はっきり言うな」
ビシっと言いながら、彼の股間を指さす。
自然と目が言ってしまうのは、さすがに仕方ない。
相沢君は恥ずかしそうに、両手でその指の先をブロックする。
「なぜ隠す」
「恥ずかしがりやさんなんだ」
「自分でシモのサイズを公表する恥かしがりやがこの世にいるか!」
思ったことを口に出しながら、相沢君の首を掴む。
細い首だ。
少し力を込めれば、喉仏を潰せるだろう。
「ち、違うんだ。香里。それは無理やり自分を隠そうとするからだよ。逆に考えるんだ」
「どこをどう!?」
フロイトとか、なんかそんな感じの事言ってたじゃん。
なんでアイツ、なんでもかんでも「それは性欲です。とりあえず性欲です。性欲なんだってば。
このドス黒いピンク色の塊め!」みたいなことしか言わないんだろう。
むしろお前が頭イカれてんじゃねえのか。
ピンク脳すぎだろ、常識的に考えて。
お前カービィなの?
物凄い偏見のもとに心理学の大家に喧嘩を売りながら、祐一は香里の説得を断念する。
「わかった。人様に胸を張れるものでU-1になる」
「いや……まあ、頑張ったら良いけど」
私は口を閉じ、とりあえず首から手を離した。
「例えば、そうだな……観鈴ちん救ったら、名乗ってもいい?」
「いや……それならいいと思うけど」
救えるのかよ。
そういえば、あの作品が出てから十年経ったか。
「……救えたら、口説いてもオーケーかなあ?」
「観鈴さんは、国崎さん一筋だと思うけど」
ふと、窓の外を見る。
いつもと変わらない空。
ただ、窓から吹く夏風が、教室の白いカーテンを揺らしていた。
まるで、少女の着る白いワンピースのように。
了
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