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俺の彼女が可愛すぎてときめきが止まらない 作者:魚目位禄

俺と山浜くん

 そもそも俺と山浜くんの関係はひと月ほど前から始まった。

 俺の両親は十五年前に両親曰く、遥か西方から日本に移住してきた。
 そのおかげで、いくら中身が日本生まれ日本育ちでも必然的に見た目が外国人の俺は周りに一線を引かれていた。
 ついでになまじガタイもいいため、やたら不良に絡まれる。

 そのことから俺はどうも人見知りが激しくなってしまい、結果、数少ない好意的な人間も全て拒絶してしまっていた。
 かくして小学校から八年間、無心で孤独な学園生活を満喫していた俺だったが、学園生活九年目にして転機が訪れた。
 初めての友人が出来たのだ。

 山浜くんとのファーストコンタクトは学校の図書室だった。
 俺にとって、本は居場所がない休み時間を浪費してくれる最高の暇つぶしアイテムだったため、それはもう足しげく閑散とした学校の図書室に通っていた。
 あまりいい噂のない俺があまりに高頻度で図書室に現れるものだから、生徒間で図書室は危険と囁かれるようになってしまい、今では図書室の過疎化は進む一方だ。
 ついには俺や熱烈な読書家達と、嫌そうに仕事する図書委員達以外は誰も図書室に近づきもしなくなっていた。

 ある日、俺はいつも通り人の少ない図書室で棚から本を選んでいた。

「どちらにしようかなーっと」

 そう小さく歌いながら本を取り出し振り向くと、後ろに興味深そうな顔をしたひ弱な少年が立っていた。

「なんだ?」

 俺は彼にぶっきらぼうに話しかけたが、彼はいかにも楽しそうに、

「面白いね」

 と一言呟いただけだった。

 俺が何か変なことでもしていたのだろうかと戸惑っていると、彼は突然、俺の手にある本を奪い取り、カウンターへと行ってしまった。
 俺が慌てて彼を追いかけると、彼は当然のようにその本の貸出処理をしていた。
 ちらをちらりとみてから彼は、ふと思いついたように言った。

「あれ? これ借りるんだよね?」

 どうやら彼は図書委員であるらしい。
 だが、何故それを今更聞くんだ。
 先に聞くべきだろう。

「いや借りるけど。それよりもなんで、さっきはこっちを見てたんだ?」

 俺は奪われた本を返してもらいつつ、そう問いかけた。

「だって面白いじゃん。君みたいな強面の容姿完全ヤンキーが真面目な顔してっ……ごめんついっ……ぶっ」

 こいつ、凄く失礼だ。
 容姿は違っても、中身はごく普通のピュアな日本人なんだぞ。

「そういうのは慣れてるからもうどうでもいいけど。変と言ったら、お前だって十分変じゃないか。俺の噂知ってるだろ?」

 教師にカツアゲしていたとか、街の不良に片っ端から喧嘩を売ってるとか、色々無いこと無いこと噂されているのを俺は知ってるぞ。
 ただ普通に生活を営んでいるだけなのに。

「噂?」

 すると彼は心底不思議そうに首をかしげた。

「あー、知らないならいいよ。でもこの学校で俺のこと知らないなんて、お前は一層変な奴だな」

 俺が怪しむように彼を見ると、彼はひとり納得したようにこちらを見返してきた。

「そりゃあ、僕はまだこっちに引っ越してきたばかりだし」
「引越し? 転勤とかか?」

 俺がそう聞いた瞬間、彼はビクリと体を震わせ俯いてしまった。

「あーごめん、言い辛いなら別にいいや」

 俺が慌ててそう言うと、今度は彼は困ったような笑顔を向けてきた。

「そうそう、まだこっちに来たばかりならわからないことも多いだろ。何か困ってることとか無いのか? 暇だし聞いてやろう」

 俺が腕を組んで偉そうな態度をとると、山浜くんはまた面白そうに言った。

「君ってそうしてるとなんか、本物の猿山の大将みたいだ」
「俺は猿じゃない」
「雰囲気だよ、雰囲気」

 雰囲気なら仕方ないな。

「で、何か質問無いのかよ。それとも困っている転校生を助けたいという、真っ直ぐな俺の良心を踏みにじる気か?」
「ええっ、じゃあ君の名前を教えてよ」
村高むらたかだ」

 俺が簡潔に答えると、彼はそのまま期待に満ちた目でこちらを見てきた。

「何だよ」
「いやいやいや、この流れだと普通、俺の名前も聞くでしょ」

 どうやら普通はそうらしい。だが少年よ、小学校に上がってからずっと友達なんていたことない俺にその手の常識は通用しないぞ。

「じゃあお前の名前は?」
「山浜です。よろしくね、村高くん」

 それから図書室の閉館時間まで山浜くんは、転校初日に誰もやりたがらない図書委員を押し付けられたやら祖父の家に預けられているやら、どうでもいい身の上話を俺にしてきた。
 今まで友達ゼロだった俺は、そのくだらない時間が凄く嬉しかったんだ。

 俺と山浜くんはどうやら本の趣味も合うらしく、いつしか決まったように毎日、図書室で落ち合っていた。
 それもそのはず。
 どうやら俺にはちっとも記憶にないが、山浜くんは何度か俺の借りる本を見ており、前々から気が合いそうだと目をつけていたようだ。
 その結果、山浜くんの目論見通り俺達は友人と呼べる仲になってしまったので、彼はとても恐ろしい人物に違いない。

 そうして時は過ぎ、六月の第二木曜日・夕方の図書室。
 俺はずっと気になっていたことを彼に思い切って聞いてみた。

「山浜くん、なんで俺と仲良くするんだ?」

 そう言うと山浜くんは微妙な顔を浮かべて言った。

「なんでって、友達だからね」
「もう転校してきて二ヶ月も経ったんだから、俺の噂も知ってるだろ? 皆、最初は俺と仲良くしてくれるんだ。けれど、俺の悪い噂を知った途端、人が変わったように俺に冷たくしてくる」

 俺は彼を責めるような口調で言った。

「噂かぁ。村高くんの愉快な噂を聞く前に、どうやら僕の噂が広まっちゃったみたいなんだよねー。だからそんな話も聞くに聞けなかったんだけど」

 彼はどうやらいつの間にか俺の子分として学校中で噂になってしまったらしいこと、噂のせいで周りに避けられるようになってしまったことを話した。

「じゃあ余計になんで俺から離れたりしないんだよ。俺と仲良くしているせいでお前がクラスで腫れ物扱いされてんだろ」
「だから、友達だからって言ってんじゃん! あんまりしつこいと僕、怒るよ」

 もう既に半ギレじゃないですか。

「それでも、噂のことが無くたって、ただでさえ俺は見た目が怖いし、強面だし」
「もう慣れたし怖くなんてないよ」

 山浜くんはそう言って、声を立てて笑った。

「図書室で大声あげるなよ」
「そんな今更じゃん」

 窓の外が赤くなり始めた頃。
 山浜くんの話を一方的に聞いていると、彼がしきりに目を細めたりこすったりとして気にしていることに気付いた。

「目、どうかしたのか」
「んー、最近視力落ちてきたみたいでさー。授業とかちょっと見え辛いし」
「えっ、近視なのか? 全然気付かなかった」

 衝撃の事実に俺が驚いた声を上げると山浜くんは、いかにも自慢げに胸板のない胸を張って言った。

「まあ視えなくても意外となんとかなってるけどね。授業は前に居た学校よりも簡単だし。たまに小さな段差で転けそうになったりはするけど」

 俺が呆れた声で「へえ」と返すと、山浜くんは「それに」と言葉を続けた。

「僕は今、体の弱いおじいちゃんとふたり暮らしだから、何度もひとりで眼鏡屋に行っても似合うものがわからなくて何も買わずに帰ってきてしまうんだ。眼鏡って誰か一緒に選んでくれる人が居ないと、似合っているかどうかもよくわからないから」

 長くいかに眼鏡選びが難しいか語った山浜くんの言葉に俺はそういうものなのかと納得してからふと閃いた。

「でも無いよりはあったほうがいいだろ。俺が眼鏡選び手伝ってやる」

 それを聞いた山浜くんはいかにも嬉しそうにして言った。

「ほんと!? そういえば、図書室の外で会ったことはなかったね」

 俺は確かにと納得してから、

「じゃあ電話番号も交換しておいたほうがいいな」

 と慣れないように言った。
 山浜くんは、図書室のカウンターの奥からいそいそとメモと鉛筆を取り出してきて、そこに何やら走り書きをして見せた。

「これが僕の電話番号ね。こっちに来てから電話番号を渡すのは村高くんが初めてだ」

 俺のせいで苦労を掛けてしまって悪いな、山浜くん。

「これが俺の電話番号だ。家族以外で電話番号を交換するのは山浜くんが初めてだよ」

 俺が自信満々に言うと、山浜くんは切なそうに眉を歪めて言った。

「ありがとう、大事にするよ。それにしても村高くんって、本当に可哀相な人なんだね」

 俺は無言で彼の額を殴った。
 山浜くんは軽くカウンターの向こうへ吹っ飛んでいったが、俺に罪悪感は無い。
 俺みたいなやつにその言葉は禁句なんだぞ、山浜くん。
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