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想いはあとから 作者:竹尹光

正しいテディベアの選び方



 応接間から出ると
 「お嬢さん、おもちゃの包装、しておいたよ」
 奥さんが木箱のふたをあけて、ふんだんにリボンや可愛らしい包装でラッピングされたプレゼントを見せてくれた。
 「わあ! ありがとうございます!」
 あまりに可愛らしい包装にミズキは目を輝かせた。
 こんなリボンだったら、女の子たちはあとでさぞかし喜ぶだろう。
 ―――でも、その箱……重そうな気がするのは気のせいじゃないよね?
 ミズキはちらりとユリウスを見た。
 でも頭を振り払う。自分が後先考えず買ってしまったのだ、どうにかせねば。
 一方で
 「……」
 ユリウスが立ち止まり玩具屋の奥さんに振り返った。「テディベアにタグがついているが、オールドベアの取り扱いがあるのか?」
 奥さんは一瞬きょとんとユリウスを見たが、にっこり笑うと
 「さすがお目が高い。オールドベアタグをご存知だなんて! ええ、ええ。うちにあるのは私が作っているんですよ。ちゃんと協会の公式免状を持っています。オーダーも承っておりますが、お一ついかがです?」
 そう素晴らしく嬉しそうな笑顔で頷いた。手で壁を指すので、そちらを見れば額に入った賞状が張られていた。
 「そうか、なら2体ほどオーダーを頼む」
  ユリウスは奥さんに向き直った。
 「ありがとうございます。今決められますか?」
 「そうだな」
 ―――テディベアってあれだよね? くまのぬいぐるみ?
 なぜそんなものをユリウスが注文するのか意味がわからない。
 しかも2人の会話から察するにこの奥さんは特殊な免状を持っているようだと、ミズキは静かに様子を見ていた。
 奥さんが出した生地見本を、ユリウスはてきとうにめくってからミズキを振り返った。
 「選べ」
 「は? 何をです?」
 「生地だ。どんなのがいい?」
 「え? 急にテディベアって何です?」
 「なんだ? しらないのか? 熊のぬいぐるみだろうが」
 「いや、それは知ってますけど」
 「それの本体の生地だ。お前が選べ」
 ミズキは首をかしげつつ手触りを確かめた。
 ふわふわのもの、すべすべのもの、毛に艶はあるがごわごわのもの、いろいろあった。
 「……これ、気持ちいい」
 ミズキはその中で一つの生地に手を置いた。毛足は短いけれど、とても撫でていて気持ちがいい。
 「ならこれを」
 ユリウスも手触りがよい滑らかなファーを撫でると、色違いで2つ指定した。
 「はい。目の色はどうしましょう?」
 「目はジョーズに持っていかせる。後重さもその時知らせるだろう」
 「と言うことはご出産祝いですか?」
 「そうだ」
 出産祝いと言う会話で、ミズキはようやく合点した。出産祝いが必要なのはエリザベスだ。まだ生まれていないので、追って連絡と言うことなのだろう。
 「リボンのお色もお決まりでしたら伺いますが?」
 「それもあとだな」
 ユリウスの返答に奥さんはにこりと頷くと深く頭を下げた。
 「では本体を作ってお待ちしておりますね」
 「たのむ」
 ユリウスは頷くと、今度はミズキの前の大きな木箱に手をおいた。やれやれとミズキを見て
 「どうやって運ぶのか考えているのか?」
 さっきミズキが考えないようにしていた問題を突きつける。
 ―――やはりお気づきになったらしい。
 ミズキは横に目をやりつつ
 「どうにか気合で?」
 小声で言うと、ユリウスは怪訝そうにミズキを見て、
 「ジョーズ、馬のところまでこれを運べ」
 ぎろりとジョーズを睨んだ。
 ジョーズは思いっきり目をしかめてユリウスを睨んだが
 「人使い荒いな」
 やれやれと息を吐きながら、木箱に手を伸ばす。
 「な、なんかすみません」
 ミズキが慌てて木箱に手を伸ばし持ち上げるのを手伝いながら謝ると、ジョーズはこれくらいいさと笑った。

 とさりと木箱を下ろすが、意外と重さを感じさせない音だった。
 「浮遊魔法かけてなかったら、腰をやってしまう重さだな」
 ジョーズは苦笑いした。
 持ち上げる時にミズキがこそりとかけた魔法のおかげで重さはほとんど感じられないが、それがなければ大量の木のおもちゃ、結構な重さがある。
 「ビスクドールも重いですよね、失念してました」
 ミズキは苦笑いしながら木箱に手をかけた。馬に乗せる大きさですらない。
 ミズキは辺りを見回して人がいないことを確認すると、そうっと木箱に手をかざして縮め縮めと魔法をかけた。
 そうして木箱は人形一つ分ほどの大きさになった。
 それでも重さは変わらないので浮遊の魔法は継続させる。
 「……ふーん? さすが剣を宿すだけあるってことだな」
 一通りミズキの魔法を見ていたジョーズが感心したように頷いた。「圧縮魔法は難しい。あれをこれだけ小さくできるのは相当だ。……双方ともに血は伊達じゃないな」
 気になる物言いにミズキが振り返るがジョーズは笑って知らんふりをした。
 ユリウスもジョーズを見ていたが、しょうがないなあというように息をついた。
 「さっさと今日の食事を済ませてリラに行くぞ」
 ぽすんとユリウスがミズキの頭に手を乗せる。
 ミズキは首をかしげつつ、頷いた。

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