武器と戦争と平和
僕はある時、ヘレウの悪口を言った。ヘレウは武器商人で、数年前までやっていた戦争で、しこたま稼いだ悪いヤツだったからだ。だけど、傍で聞いていた兄貴はその悪口にあまりいい顔をしなかった。
「まぁ、確かにアイツが金を稼いだ事は認めるよ。あの戦争でな。でも、本当にあいつは言うほど悪いヤツなんだろうか?
もしかしたら、アイツは戦争を止める為に武器を売っていたのかもしれないんだぜ。そして、実際に戦争は止まった」
僕はそれを聞いて、不思議に思う。それで、「どういう事?」とそう質問をしたんだ。すると、兄貴はこう言った。
「例えば、ここにパンが一人分あるとしよう。そして、俺達は飢えている訳さ。当然、パンの奪い合いになるよな?」
「うん」
「まぁ、これが戦争だとしよう。じゃ、もしパンが二人分あったらどうだ? 奪い合うか?」
「僕だったら、奪い合わないな。分けるよ。痛いのは嫌だもの」
「そうだろう? 俺もやらない。しかし、世の中には欲張りもいるんだ。自分の分があっても、まだパンを欲しがるヤツが。
数年前までやっていたのは、そんな戦争だったのさ。そんな頃、ヘレウのヤツは、こんな無意味な戦争は止めるべきだと言っていたな。互いに損をするだけだって。アイツは根が商人だから、何でも損得で判断するんだ。そして、自分なら戦争を止められると言っていた。で、何をしたと思う? ま、さっきも言ったけどな、武器を売り始めたんだよ」
「そこが分からないんだ。どうして、戦争を止める為に武器を売るの?」
反対に酷くなるのじゃないかと、僕には思える。
「オーケー。じゃ、さっきの例えば話だ。パンのやつな。互いに素手なら、欲張り達はパンを奪い合おうとするかもしれない。何故なら、やられたってせいぜい、殴られる程度だからな。つまり、危険が少ない訳だ。だけど、もしも互いにナイフを持っていたらどうだ? 刺し合うかな? もし仮に勝ったとしても、自分も無事じゃ済まないかもしれない。これが、銃ならどうなる? 爆弾なら? 奪い合えば、二人とも助からないかもしれない。そんな馬鹿をすると思うか?
損得で判断するのなら、普通はやらないな。大人しく、自分の分だけで我慢する。で、ヘレウのヤツはそれを狙ったらしいんだよ。どうもな。それで、二つの国に武器を売ったんだ。アイツは損得で判断するヤツだから、アイツにとってはそれは必然だったんだ。
ま、もちろん、俺だってそれが美しい事だとは言わないよ。何にもなくても、二人分のパンがある時点で、奪い合いは止めるべきさ。それが一番いい。でもさ。少なくとも、殺し合って、互いに損をし続ける毎日よりかはずっとマシだって俺は思うね。
さて。
お前は、まだアイツの悪口を言うか?」
僕はそれを聞いて首を横に振った。でも、それから、
「でも、」とそう言った。
「でも?」
兄貴は不思議そうな顔をする。僕はそれにおずおずと答える。
「できるのなら、戦争が止まっている間で、もっと別の良い方法を考えたい… だって、一歩間違えれば、それって物凄く悲惨な事態になるじゃない」
兄貴はそれを聞くと、数度頷いてから、
「ま、そうだな。損得を考えてもそうだろう。それがいいと思う」
と、そう僕の言葉を認めた。
※ こういった現象は、単なる物語の中だけの話じゃなくて、実際に世の中で起こっているそうです。
武器が強力になり過ぎた現代社会では、それ故に戦争が起こらない。
ただし、やはり同じ様に、それがベストだとは言えませんが。
ゲーム理論の研究者の中に、こんな感じで損得から人の行動を考え、戦争をなくす方法がないかと考えている平和主義者がいるそうです(この小説自体、ゲーム理論の考え方に触発されたものでもあるのですが)。
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